Fast-growing trees with high biomass production efficiency open up new possibilities for forestry
Updated by 戸田浩人 on June 20, 2025, 10:50 AM JST
Hiroto TODA
Graduate School of Tokyo University of Agriculture and Technology
東京農工大学大学院 農学研究院 教授 自然環境保全学部門/森林土壌学、森林生態系の物質循環研究を通じ、森林の公益的機能(生態系サービス)を発揮させる森林管理を考究。 著書:森林・林業実務必携 第2版補訂版(共著,朝倉書店,2024)、森のバランス(共著,東海大学出版会,2012)など
東京農工大学を中心とした共創の場形成支援プログラムでは「カーボンネガティブの限界に挑戦する炭素耕作拠点」を推進しています。本プロジェクトでは、化石資源から大気に放出された二酸化炭素(CO2)を農林業等の光合成で固定し、その炭素を有効に利用・貯留することを目指しています。ここでは、その研究課題の一つとして、バイオマス生産効率の高い早生樹による新しい林業の可能性についてご紹介します。
日本の人工林は、50年生を超えた造林地が6割以上を占め、主伐期を迎え伐採後の再造林が大きな課題となっています。日本の主要な林業樹種であるスギ・ヒノキ・カラマツは、短伐期でも30年以上の長い年月を要します。その一部を早生樹へ転換することで、より効率の良い林業と炭素固定を実現する可能性を探求しています。
世界森林資源調査(Global Forest Resources Assessment 2020: FRA2020)によれば、世界の森林面積は約40億6000万ha(陸地の31%)であり、その45%が熱帯に分布しています。世界の森林減少面積は1580万ha/年(1990-2000年)から1097万ha/年(2010-2020年)、植林などの森林増加を差し引いた森林面積の純減速度は、784万ha/年(1990-2000年)から474万ha/年(2010-2020年)へと減速しつつあります。森林面積の減少はその9割以上が熱帯地域で生じており、増加は中国、オーストラリア、インドなどで大きいです。
世界の人工林面積は2億9400万haと森林全体の7%で、アジアは人工林の面積・割合ともに最大の1億3500万ha・22%となっています。FRA2020では人工林を「プランテーション」と「その他の人工林」に区分しており、「プランテーション」を集約的に経営されている人工林で単一樹種または2樹種で構成、同じ林齢で樹木の間隔が均一、生産活動を主眼として植栽されたものとしています。一方、「その他の人工林」は集約的な経営をせず、生態系回復や水土保全などの機能を目的としたものとなります。プランテーションの面積は1億3100万haで、全森林の3%、人工林全体の45%を占めます。
森林伐採等の土地利用変化由来のCO2排出量は、年間の温室効果ガス排出量の1~2割を占めています。その大部分が熱帯林で生じていることから、それを留めるための国際的枠組み「途上国における森林減少・森林劣化に由来する排出の抑制、並びに森林保全、持続可能な森林経営、森林炭素蓄積の増強」(英文の頭文字からREDD+)が重要な取り組みとなっています。
プランテーションにおいて、効率的な林業経営を推進することで地域の経済を支えることは、熱帯の貴重な原生林や天然林を伐採・開発からの保全、温室効果ガス排出抑制につながります。全森林に対してごくわずかな面積で効率的な林業経営を実施するうえで、早く収穫できる早生樹林業は意義があるといえます。
早生樹とは成長の早い樹種をさし、熱帯性の樹種が代表的です。早生樹林業をプランテーションにおいて年平均材積成長量15立方m/ha以上で植栽から20年以内に収穫されるものと定義したとき、2000年には世界で約1000万haの早生樹造林地があり、年間に100万haずつ増加していたと推計されています。その内訳は、ユーカリ類が約640万ha、アカシア類が約140万ha、ポフラ・マツ類・その他の樹種をあわせて約120万haとなっています(岩崎ら, 2012)。
世界の早生樹造林地が約1000万haであるのに対し、世界のプランテーション面積はその13倍、日本の人工林面積で1000万haですので、日本も含め早生樹林業への転換に適した人工林(プランテーション)が多く存在する可能性が高く、しっかりとその得失を理解したうえで林業経営を行っていく必要があるといえます。
日本の代表的な造林樹種であるスギの年平均材積成長は10立方m/ha程度で、非常に成長のよいスギを選抜したエリートツリーで18立方m/haです。日本国内においてもユーカリ類、コウヨウザン、センダン、ヤナギ類などの造林の可能性が着目されています。
世界で最も植栽されているユーカリ類の年平均材積成長は、条件の良い立地で40~60立方m/haに及び、コウヨウザンが20~30立方m/ha、ヤナギ類が25立方m/ha程度です。センダンは10立方m/haで1本の木の成長は早いものの樹冠が広がり密度が低く抑えられるため、1ha当たりの材積成長が小さくなります。
早生樹を利用した短伐期林業の利点は以下のようなものが挙げられます。
・下刈り回数の低減、低密度植栽が可能など造林コストを軽減できる
・萌芽力のある樹種であれば次代の再造林コストも軽減できる
・造林に投資した資金の早期回収ができて高い経済サイクルが期待できる
・地域の新たな収入機会が創出され森林利用や林業全体の活性化につながる
・不足している広葉樹原料および集成材、合板用材、パルプ材、エネルギー材などの新たな供給源となる
・カーボンニュートラルに向け石油化学製品に代わる再生可能な材料・エネルギーとしての森林資源利用が促進される
エネルギー利用(燃料)のみでは経済性としてもカーボンニュートラルへの効果としても低いので、日本の早生樹林業では多様な利用が可能であること、つまり、製材や合板としても利用できる樹種であり木材の性質であることが重要です。
また、植栽密度・施業の効率化、伐木・集材・製品化に適した通直完満(まっすぐで円柱に近い幹)な材の生産にむけた簡便でコストのかからない施業体系を模索していく必要があります。もちろん、早生樹林業に向き、森林の有する公益的機能を損ねない立地の選定(ゾーニング)が必須ですので後述します。=次回に続く(東京農工大学大学院 農学研究院 教授 自然環境保全学部門 戸田 浩人)
■参考文献
FAO(2020)Global Forest Resources Assessment 2020: Main report. Rome. 165pp.
岩崎誠, 坂志郎, 藤間剛, 林隆久, 松村順司, 村田功二 編(2012)早生樹.産業用植林とその利用,海青社.259pp.