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Toward "Profitable Forestry" through Whole-Timber Purchase Stockyards and Efficient, Labor-Saving Operations - The Challenge of Fully Utilizing Forest Resources in Western Toyama Prefecture (1)045

Updated by 『森林循環経済』編集部 on June 13, 2025, 11:25 AM JST

Editorial Board, Forest Circular Economy

Forestcircularity-editor

We aim to realize "Vision 2050: Japan Shines, Forest Circular Economy" promoted by the Platinum Forest Industry Initiative. We will disseminate ideas and initiatives to promote biomass chemistry, realize wooden cities, and encourage innovation in the forestry industry in order to fully utilize forest resources to decarbonize, strengthen economic security, and create local communities.

高性能林業機械のエンジン音が響く里山の森林。1人のオペレーターが、伐採・枝払い・玉切りまでを一貫してこなす現場は、スマート林業が現実のものとなりつつあることを示している。富山県西部で始まろうとしているのは、地域の森林資源をフル活用し、川下産業へと届ける「ストックヤード事業」だ。この構想は、プラチナ森林産業イニシアティブが推進する『ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済』の中核を成す取り組みであり、林業を「儲かる産業」へと再構築する鍵とされる。富山県西部森林活用事業検討協議会による挑戦を、『森林循環経済』編集部が現地からレポートする。

スマート林業の挑戦

同協議会のキープレーヤーの1社が、南砺市に拠点を置く島田木材だ。同社が富山県西部森林組合から作業請負をしている小矢部市の森林施業地では、最新の高性能林業機械が稼働し、作業効率化と安全性の向上を目指す挑戦が続いている。

ハーベスタは、従来チェンソーで行っていた立木の伐倒・枝払い・玉切りの各作業と玉切りした材の集積作業を一貫して行う(富山県小矢部市)

2025年5月、田園地帯から近い里山にある森林施業地では、巨大なハーベスタが唸りを上げ、次々とスギを伐採し、枝払い、玉切りを行っていた。オペレーターの巧みな操作により、木は瞬く間に丸太としての形を整え、グラップルでつかまれフォワーダに積まれ、すぐ近くの土場へと集積されていく。ハーベスタは、チェーンソー作業に比べて格段に速く、作業員の安全性も向上する。

約2haの施業地では、伐採2人・運搬1人の体制で作業を進めている。機械の種類が増えることで1人あたりの仕事の幅が広がり、省力化が実現した。同社はGPSを活用して境界の明確化や測量をしたり、GISソフトを活用して効率的な森林管理に努めるなどスマート林業を積極的に推進している。

かつては担い手の減少と高齢化、生産性の低さが課題とされていた林業現場。しかし、ここには高性能林業機械がもたらす効率化と省力化の波が確実に押し寄せている。なぜ今、現場が変わる必要があるのか。それは、本格的な主伐期を迎えた人工林のポテンシャルを最大限に引き出し、林業を持続可能な産業として成り立たせるための喫緊の課題だからだ。

「我が社では今は主伐が中心です」と同社の島田優平社長は語る。主伐とは、森林の更新を目的に、成熟した立木を一斉に伐採する施業方法だ。かつては成長過程の木を間引く間伐が中心だったが、収益性の低さや木が密集した森林は大型機械が入りにくいといった課題があった。主伐は、一度にまとまった量の木材を生産でき、高性能機械の導入効果も高いため、効率化と「儲かる林業」実現には不可欠な施業だ。

伐採した丸太を積んで林道を走るフォワーダ(富山県小矢部市)

しかし、現場を見ると、運搬がコストのボトルネックになっている状況がうかがえる。山中で伐採された木材を土場(丸太置き場)まで運び出す作業(集材)には、フォワーダなどの機械が使われるが、道は狭く整備状況も十分ではない。

効率の良い大型トレーラーでの広範囲からの集材も、日本の道路事情や法規制では困難だ。山で効率的に伐採できても、運び出せなければ事業として成り立たない。この運搬コストや効率の課題は、ストックヤード構想で集材範囲を半径30km以内とし、輸送時のCO2排出量削減も考慮して設計された理由の一つとなっている。

全量買取を目指すストックヤードの意義

島田木材の土場には、様々なサイズの丸太が集積されている。建築用材となる良質なものから、曲がっていたり細かったりする規格外のものまで、多様な木材が山林から運ばれてきている。

サイズや品質ごとに選別された丸太について説明する島田社長(富山県小矢部市)

島田社長は、太く育ちすぎた丸太についても課題を指摘する。「太すぎる丸太は伐採に高いコストがかかるうえに、使い道が減る傾向にある」。こうした規格外の材や太丸太も含めた「全量買取」を目指すストックヤード事業は、個々の林業経営者が抱える販路や選木コストの課題に応えるものだ。

「山に放置されている枝葉という今は生かされていない資源をどのように生かすかも、今後大切な視点だと思います。現状、枝葉は運搬コストが高く生かされていませんが、ストックヤードでチップ化するなどして有効化し、運搬代と少しのプラスがあるような仕組みがあるとさらに魅力的な事業として、林業者も関わりやすくなります」と島田社長は指摘する。

林道沿いには伐採した枝などが積まれている(富山県小矢部市)

ストックヤードでは、こうした低質材をも含めた「全量買取」を前提とする。木材の地産地消や木質バイオマス熱供給など、新たな用途を確保し、適正価格での買い取りを目指すのだ。

林業を持続可能で魅力的な産業へと転換

現場の緑豊かな人工林は、戦後に集中的に植えられたスギやヒノキが、今まさに本格的な主伐期を迎えている。しかし、これらの木々を伐採し、再び植え育てるという森林資源の循環サイクルは、日本では長らく滞りがちだった。林業の採算性の低さや、集約化されていない小規模な森林所有構造が、持続可能な経営を困難にしてきたためだ。

規格外の丸太は施業地の土場で分けて保管されている(富山県小矢部市)

現場の努力だけでは解決が難しい構造的な課題も横たわる。危険を伴う作業環境、深刻化する担い手の高齢化と減少。小規模な森林所有構造は集約化を妨げ、生産コストの増大を招いてきた。さらに、木材価格の変動や販路の不確実性といった経営リスクに加え、品質の劣る木材は買い手がつかず山に放置される「未利用材」の問題も、資源の有効活用と林業家の収益を阻む大きな壁となっている。

これらの課題を克服し、林業を持続可能で魅力的な産業へと転換させることなしに、脱炭素化や地域経済の活性化といった目標達成は難しい。ここに、革新的な事業モデルである「ストックヤード」が必要とされる理由がある。

「全量買取が実現し、伐採コストに見合う収入が確保されれば、再造林への意欲も湧きます。まさに、山の木すべてを資源として経済循環に乗せる試みであり、林業家の経営マインドを根本から変える可能性を秘めています」と島田社長は大きな期待を寄せている。

製材工場が担う流通と加工の効率化

氷見市に拠点を置く岸田木材も、富山県西部の木材産業を支える重要なプレイヤーだ。約140年の歴史を持つ製材業者であり、50年~100年かけて育った木を100%活用することを企業理念としている。木材のカスケード利用として、A材は住宅建築用に、BC材は土木用・パレットなど産業資材用に製材加工している。年間2万立方メートルを生産する中規模製材所として、設備投資で効率化・省力化に挑んでいる。

工場内では、大径材用ツインバンドソーが唸りを上げていた。丸太をセットすると、二枚の帯鋸が同時に挽き、効率的に角材などを切り出していく。3m・4mの角材が、1本あたり30秒ほどで製材可能だ。

岸田木材の製材工場で稼働するツインバンドソー(富山県氷見市)

岸田木材の中間土場には、近隣県から運ばれてきた丸太が集められ、選木が行われている。担当者によると、ここで選別された木材のうち、丸太から建材となるのは全体の5割程度だという。残りの半分ほどはチップに加工され、製紙用や燃料用として利用される。

岸田木材の製材工場で稼働する中温大型乾燥機(富山県氷見市)

製材工場も、ある程度の規模と効率化がなければ、コスト競争力を維持するのは難しい。ストックヤード事業で提案されている年間10万立方メートル集材という規模設定は、こうした加工段階の経済合理性も考慮された結果だ。

「原木の品質や供給量が不安定ですと、計画生産も難しくなります。ストックヤードにおいて適切な選木や品質管理が行われ、製材に適した高品質材の安定供給と高付加価値製品への加工が増えれば、製品の競争力と収益性向上につながります」と同社の岸田毅会長も期待する。

ビジョン2050が描く森林循環経済とストックヤード構想

プラチナ森林産業イニシアティブが掲げる「ビジョン2050」は、化石資源への依存から脱却し、国内の森林資源をフル活用することで、脱炭素、経済安全保障の強化、地方創生を同時に実現することを目指している。その実現に向けた推進戦略の柱の一つが、「儲かる林業」の実現だ。

Project model for full utilization of forest resources (Source: Platinum Initiative Network)

「儲かる林業」を実現するための具体的な事業モデルとして提案されているのが、「ストックヤード事業」である。この構想の中核は、森林・林業から生産される木材の「全量買取」を保証する集積拠点を全国に整備することにある。単に木材を集めるだけでなく、年間約10万立方メートルという大規模な原木を集材し、これを核として周辺の森林で計画的な主伐・再造林サイクルを確立することを目指している。

ストックヤード事業ではカスケード利用の理念のもと、木材の品質や規格に関わらず全ての木を買い取り、最適な用途(建築用・土木用・パレットなど産業資材用・地域バイオマスなど)に振り分ける機能を持つ。隣接地に製材工場やチップ工場、さらにはバイオマス化学プラントなどを併設することで、集材・加工・流通の効率化を図り、木材の価値を最大限に引き出すことを狙いとしている。これにより、林業経営者は市場リスクから解放され、安定した収入を得られるようになり、計画的な森林管理や再投資が可能となる。

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