In the construction industry, where skills are in short supply and the trend toward less skilled workers is progressing, wooden construction is becoming a realistic solution
Updated by 加藤聡悟 on December 15, 2025, 7:30 PM JST
Sougo KATO
Leaf Rain Co.
After working for a financial institution researching companies in the high-tech field, he worked as a supervisor at a landscape construction site before setting up his own business. He is interested in the materials industry, renewable energy, and wood utilization, and in recent years he has been writing about the forestry industry. With his experience of working in the forests in the past, he aims to write articles that explore the connection between the realities of the field and the industrial structure.
日本で木造建築が広がる背景には脱炭素や国産材活用といった政策要請があるが、現場レベルではもう一つ見逃せない点がある。それは、木材が「扱いやすく、施工負荷が小さい」という素材特性を持つことである。木材はRC造やS造に比べて軽量で加工しやすく、現場の技能依存を抑えやすい。主要工種の高齢化が進む日本では、こうした特性を生かした工場生産・組立型の施工体系が、技能不足に直面する建設産業の持続性を支える可能性がある。つまり木造化は、環境対応だけでなく、これからの施工体制を考える上でも重要な選択肢となりつつある。
建設産業では、大工・左官・鉄筋といった主要技能工種の高齢化が進み、60歳以上が突出するなど、担い手不足が進行している。これらの工種は習熟に約10年近くと長期を要し若年層が定着しにくく、外国人材も言語の壁から戦力化にはさらに時間を要する。実際、工事現場には一定数の若手もいるため表面化しにくいが、クロス・ボード・鳶など若年層が多い工種と、大工・左官・鉄筋のように高齢化が進行している工種との差は大きく、建物の骨格を担う工種ほど深刻な人材不足に直面している。

このように担い手不足が加速する中、従来の「現場完結型」施工は制度疲労を起こしつつある。加工や調整を工場側に移し、現場作業を単純化する省技能化への転換は避けられない状況にある。
さらに、労務単価の動きも担い手不足を裏付けている。国交省の労務単価は上昇が続くものの、あくまで公共工事の積算基準であり、下請構造を通った実勢の手取りはこれを下回る。大工・左官・鉄筋はいずれも名目上は高単価でも、手取り段階では普通作業員との差が縮まり、長い修業期間に見合う報酬とならないことが若年層の定着を妨げている一因と考えられる。
木材は軽量で扱いやすく、切断・固定・調整が容易なため、工場生産やユニット化と高い親和性を持つ。こうした素材特性は省技能化・工業化への移行を後押しし、技能不足が構造化する日本にとって現実的な解決方向を示している。海外で進む木質化の取り組みも、同様の構造課題に向き合う上で示唆が多い。
こうした背景が重なり、木造化は環境対応にとどまらず、建設産業の持続可能性を確保するうえで現実的な選択肢として浮上している。
技能依存の大きさが課題となる中で、木材の扱いやすさを生かした工業化は海外で成果を上げている。スウェーデンの製材業界団体Swedish Woodによれば、軽量な木材とプレファブ工法の組み合わせが定着し、輸送コストの半減や現場人員の削減、従来工法で1年かかる建物が10週間で完成するほどの工期短縮が実現するなど、省技能化と費用対効果を同時に高めた施工体系が確立している。
一方フランスでは、木造に固有の構造的課題からスウェーデンのような効果が十分に発揮されていない。製材・一次加工分野が小規模事業者に分散し、CLT等への投資が進まず供給体制が弱い。また火災基準などの規制がコスト上昇につながり、フランス農業食料省資料によればイル・ド・フランス地域の19プロジェクトでは木造の建設費が1平方メートルあたり1,972ユーロとRC造より約11%高い例もある。つまり、同じ木材でも産業構造と規制環境により結果は大きく変わる。
スウェーデンのように工業化と供給体制が整えば木造化は生産性向上に直結するが、フランスの例は、産業基盤や規制整備が伴わなければ同じ成果は得られないことを示している。これは日本が木造化を進める上でも重要な示唆となる。
工業化を前提とした木質建築は、技能人材の高齢化が進む日本の建設現場において、施工負荷を抑えながら生産性を確保できる現実的な選択肢である。木材の扱いやすさと工場加工との親和性は、従来工法の限界が見え始めるなかで、次の施工体制を構想する上で重要な意味を持つ。
しかし、本格的に普及するには、安定した木材供給、工業化を支える製材・加工体制、さらには日本固有の規制や市場構造に対応した工法と認証の整備が欠かせない。スウェーデンの成功も、フランスの鈍化も、これらの前提条件が整っているかどうかが結果を大きく左右することを示している。木造建築を持続的に広げるためには、建設産業と森林資源の双方を支えるインフラ整備が不可欠となる。(株式会社リーフレイン 林業ライター 加藤聡悟)