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Forest-based manufacturing and value for the public good: Making the "whole watershed" of biomass a growth field060

Manufacturing and public value starting from forests - Turning entire biomass basins into growth areas

Updated by 王子ホールディングス株式会社 on June 24, 2025, 6:53 PM JST

Oji Holdings Corporation

Oji Holdings Corporation

本社東京(中央区)、1873年(明治6年)創業。王子ホールディングスは、森林を健全に育て、その森林資源を活かした製品を創造し、社会に届けることで 、希望あふれる地球の未来の実現に向け時代を動かしていくことをパーパス(存在意義)としている。森林資源から生まれた木質由来の製品は、その原料が再生可能であり、 化石資源由来のプラスチックフィルムや燃料等から置き換えていくことが期待される。また、適切に管理された森林は、炭素固定のみならず、 洪水緩和、水質浄化等の水源涵養、防災、そして生物多様性や人間の癒し、 健康増進等にも貢献する効果がある。Official Site

持続可能な社会の実現へ、次代の中核産業として期待が集まる木質バイオマスビジネス。その普及には資源供給へ向けた森林の経営から、これを用いたバイオものづくりまで、カバーすべき分野も広い。150年の歴史をもつ製紙会社ならではの多様なリソースとノウハウ、培った技術について王子HDのおふたりに伺う。

次の150年に向けて強みとパーパスを議論

「2023年の創業150周年を目前に、CEOに就任した磯野(裕之氏)のリーダーシップのもと、次の150年に向けて何が当社の強みだろうと社内で議論を重ねました。結果、製紙業としての長い積み重ねをもとに、森林を育て、その資源を生かした製品を社会に届ける、という原点に戻ってのパーパス(存在意義)を掲げることになったわけです」

木質バイオマスビジネスについて、王子グループの最高イノベーション責任者(CIO)であり、同グループの研究開発を担う、イノベーション推進本部の本部長を務める奥谷岳人執行役員は語る。

「弊社のバイオマス事業のベースとなるのは、第一に持続可能で健全な森林経営のもと、世界中の森林から安定的に調達される年間700万トンの木材ですね。そして第二には、このバイオマス素材を原料とする化石資源代替原料のパルプへと大量に加工する技術。さらに第三として、製造過程で抽出する黒液(リグニン)を用いてのバイオマスエネルギーにより、以前から無駄のない循環システムを構築できている点が挙げられると思います」

奥谷氏の言葉通り、基幹となる製紙業で日々生産される上質のパルプを起点に、「何でもできる」のが同社の〝バイオものづくり事業〟の優位性だ。折も折、SAF(持続可能な航空燃料)をはじめとするバイオ燃料、循環可能なバイオマスプラスチック、広くバイオ由来化学品を生み出す「バイオものづくり革命」など、2050年のカーボンニュートラルに向けた国の大方針とも相まって、グループ内の動きもいよいよ加速中とのこと。

「バイオマスコンビナート」も構想

「バイオものづくりは、木質バイオマスを原料にしたケミカル変換の技術にかかってきますが、なかでも現在は木質バイオマス由来の『糖液』と、そこからつくられる『エタノール』『ポリ乳酸』が三本柱です。パルプを独自の方法で酵素処理して製造する糖液は、様々な化学品の基幹物質として期待されており、糖液を発酵して製造するエタノールは、SAFや同様に石油由来の化学品の代替として期待されています。現在、木質由来のバイオケミカル素材開発に共鳴してくださる他社様へサンプルを提供できる体制づくりを進めています。将来的には、あくまでも構想ですが、弊社工場からパイプラインでの供給可能な、一種の〝バイオマスコンビナート〟を構築できればと考えています」

バイオエタノールは、バイオ燃料のほか、バイオマスプラスチックやタイヤの原料になる合成ゴム(ブタジエン)として使用される可能性もある。また、環境省により2030年までに年200万トンの導入が掲げられるバイオマスプラスチックのうち、40%近くを占めると予想されるポリ乳酸については、木質バイオマス由来の糖液を乳酸発酵させることで製造可能となる。

王子製紙米子工場内のパイロットプラント

「糖液とエタノールについては鳥取県の王子製紙米子工場内に、それぞれ年最大3000トンと1000キロリットルの能力をもつパイロットプラントを建設し、現在、実証運転を進めています。また、東京都江戸川区のバイオケミカル研究センターに設置したポリ乳酸のベンチプラントでは、年に最大0.5トンという規模の合成にも成功しています。糖液とエタノールについては、ここ2~3年のうちには、事業性評価を進め、2030年には、糖液では20万t/年、エタノールでは10万kL/年の本生産設備を稼働させる計画です」

製紙工場をバイオものづくり工場へと転換

ほかにも、他社を巻き込んでのバイオものづくりとして、既存の製紙工場をバイオものづくり工場へと転換。ここを中心に多業種が集積することで、競争力のあるハブを実現しようという動きもある。

「NEDOのバイオものづくり革命推進事業に6社のコンソーシアムで採択を受け、事業を開始しています。6社は、日揮、バッカスバイオイノベーション、ENEOSマテリアル、大阪ガス、東レと王子HDとなります。王子の木質バイオマスを原料として、微生物の力で様々な石油代替素材を作るエコシステムを構築していく計画です。なお、当社では、木材チップの供給と物流網、パルプの製造工程、さらに高水準の排水処理による環境負荷の低減といった既存のアセットを持ちますので、製紙工場を中心にして企業連携を強化していく予定です」

こうした大きな流れに加え、木質バイオマス由来のまったく新しい技術、素材にも有望なリソースが生まれている。その代表が、「最先端半導体向けバイオマスレジスト」で、これは半導体の回路パターンを形成する際に用いられる感光性材料「フォトレジスト」をバイオマス原料から製造するという画期的なものだ。

「高性能化により、ますます微細化する回路パターンに応じ、8ナノメートルというレベルでの高解像度を実現。木材から直接抽出した原料が、環境や人体に悪影響があると言われているPFAS**フリーである点などが注目され、さらなる拡大が予想される半導体市場においてキーテクノロジーになると期待されています」

もともと、王子HDがバイオマス事業への転換を図る背景には、世界的に紙市場が年々縮小しているとの危機感も少なからずあった。が、その状況をかえってポジティブにとらえ、培ってきた製紙に関する技術やノウハウ、資産を活用していく新しい流れのなか、これまでにはない規模で産業の川上から川下までを捉える動きにもつながっているという。

* 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
** ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称

「王子の森」を生物多様性など5つの要素で可視化

「私どものグループは森林の部分と、それを余すことなく使うという部分という両面で、プラチナ森林産業イニシアティブさんのフィールドと呼応する部分が非常に大きいと感じています。なかでも私の部署では、木材生産にとどまらない森林の多様な価値、カーボンニュートラルやネイチャーポジティブ、生物を育む水環境や土壌をつくるといった、これまで経済価値を認められなかった森林の公益的機能のビジネス化がミッションです」

(左)執行役員 Chief Innovation Officer (CIO)、イノベーション推進本部 本部長 奥谷岳人氏
(右)グループ事業開発本部 王子の森活性化推進部 マネージャー 山本宏美氏

そう語るのは、王子マネジメントオフィス株式会社グループマーケティング本部で、王子の森活性化推進部マネージャーの任にある山本宏美氏。

「当社は、1930年代に社長だった藤原銀次郎の『木を使うものには、木を植える義務がある』の方針のもと本格的な植林を始め、100年の間に全世界で総面積約63.5万ヘクタールの社有林『王子の森』を育ててきました。『王子の森』の特徴は、『生産林』と『環境保全林』を一体で維持・管理している点にあります。このうち約3分の1は、森林の保全活動に注力した『環境保全林』として位置づけられています。また、国内における王子の森の多面的機能に基づく経済価値は年間で5500億円という試算もされています」

こうした「自然資本会計時代」における森林の経済価値については、世界中で見直されており、水源涵養、生物多様性の保全、土砂の流出・崩壊の防止、大気保全に加え、その場に暮らす人々の保健休養と幅広く、将来的には自然資本(ストック)のクレジット評価といった価値付けも視野に入ってくるだろう。

「持続可能という面で、いわゆる『プラネタリーバウンダリー』内での経済成長が重要になってくるなか、世界標準としての〝王子モデル〟を提案したい。そのひとつの試みとして、北海道大学の研究者の皆さんと共同で道内・猿払(さるふつ)における王子の森をCO2、生物多様性、土壌、栄養、水の5つの要素から可視化し、再生するプロジェクトも進めています。具体的には、希少魚であるイトウの遡上や産卵を促したり、泥炭層を含む湿地の乾燥を防ぎながら、地下に貯留されている炭素の量を調べたり、湿地から川を通じた海への鉄分の供給から名産のホタテをはじめ海洋生態系への影響も試算しているところです」

また、生物多様性評価については海外スタートアップと協働し、データ収集には、音声センサーや定点カメラ、ドローンや環境DNAなどの先端技術や知見も活用。得られたデータはAIで解析され、生物多様性を総合的に評価しているという。

「ストックとしての森と水、そして海のつながりと豊かさは、地域経済の活性化、地方創生という意味からもますます価値が高まると思います。日本全国に広大な社有林を所有する王子グループですので、川上から海へ注ぐまでがすべて王子の社有林地という河川があり、森林が持つ多面的な効果を調査することも可能です。これも、弊社ならではの強みと言えるのではないでしょうか」

王子の森から始まる自然と産業の再生へ向けた取り組みに、今、静かな、しかし大きな期待が寄せられている。

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