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Innovative Nature of TFFF, Brazil's Tropical Forest Conservation Fund at COP30: A Hint for the Future of Community Forest Management in Japan165

The innovative tropical forest conservation fund (TFFF) launched by Brazil at COP30

Updated by 相川高信 on October 28, 2025, 10:12 PM JST

Takanobu Aikawa

Takanobu AIKAWA

PwC Consulting Godo Kaisha

Senior Manager, PwC Intelligence, PwC Consulting LLC / With a background in forest ecology and policy studies, he has been extensively engaged in research and consulting for the forestry and forestry sectors for the Forestry Agency and local governments. In particular, he contributed to the establishment of human resource development programs and qualification systems in the forestry sector in Japan, based on comparisons with developed countries in Europe and the United States. In the wake of the Great East Japan Earthquake, engaged in surveys and research for the introduction of renewable energy, particularly biomass energy; participated in the formulation of sustainability standards for biomass fuels under the FIT system; since July 2024, in his current position, leads overall sustainability activities with a focus on climate change. He holds a master's degree in forest ecology from the Graduate School of Agriculture, Kyoto University, and a doctorate in forest policy from the Graduate School of Agricultural Science, Hokkaido University.

30回目を迎える国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)は、2025年11月にブラジルを議長国として開催される。宿泊場所の不足などの課題を抱えながらも、アマゾン川河口の地方都市ベレンで開催するのは、もちろんブラジルの強い意思-森林保全をCOPアジェンダの中心に据えること-の反映である。この仕掛けは今後の世界の森林保全を見通す上で重要であるばかりではなく、日本の森林管理にも参考になる点が多い。

気候変動問題における森林の位置づけ

世界の気候変動の文脈で森林の問題が議論される時に、第一に優先されることは「森林減少を食い止める」ことである。日本では「木を切って木材を使うことは環境によいことだ」と一般的に認識されているかもしれないが、真逆の状況であることに注意が必要だ。

実際に、世界では過去10年間、平均して600万ha/年の森林が失われ、結果として排出される二酸化炭素(CO2)は世界全体の温室効果ガス排出量の1割程度を占めている。

森林減少の要因はさまざまであるが、火災などを除く人為的な要因に限れば、農林産物コモディティの生産のための農園(Plantation)への転換が、過去20年間の平均で6割弱を占めるという試算もある。コモディティとしては、パーム油、大豆、牧畜、カカオ、コーヒーなど食品に加え、木材とゴムという天然素材も含まれていることに注意が必要である。そのため、取り扱う農林産物が森林破壊を伴っていないこと(森林減少ゼロ)を求める規制や、企業の取り組みが活発になっている。

COP30の議長国ブラジルが仕掛けるTFFF

このような状況下で、森林減少をどのように食い止めるかは、これまでのCOPにおいても大きな議題だった。

こうした中で、COP30の議長国ブラジルが提唱している革新的なファイナンスの仕組みがTFFF(Tropical Forest Forever Facility)だ。熱帯林を保全する国々に対して、経済的インセンティブを提供するために立ち上げられる国際投資ファンドである。官民合わせて1,250億米ドルの資金を調達し、国債など低リスクの金融商品に投資した上で、その利回りから毎年40億米ドルを森林保全費用として拠出することを目指している。

熱帯林のある国は、森林減少面積を全森林の0.5%以内に抑えることを条件に、保全された森林1haあたり4米ドルを毎年受け取ることができる。ただし、森林が伐採された場合は400~800米ドル/ha、抜き切りなどにより森林劣化が起こった場合は100米ドル/haが減額される。衛星データなどで、森林の状況が精度高くモニタリングできるようになったが故に可能になったスキームである。

ブラジルはCOP30に向けて着々と準備を進めてきた(写真はCOP29でのブラジル・パビリオン:筆者撮影)

森林クレジットとの関係

TFFFのスキームでは、炭素クレジットは発行されない。そのため、他の森林クレジットと補完的な関係にあるが、これまで森林の炭素クレジットは、さまざまな問題に直面してきたことも確認する必要がある。

一つ目は、信頼性への疑念である。具体的には、これまで森林炭素クレジットの大半を占めてきたREDD+(レッドプラス)において、「森林が減少する」というベースラインの甘い設定が明らかになり、スキャンダルとなったことがあった。そもそもREDD+は森林の減少が前提となっており、森林減少を減らす努力が報われないという構造的な問題もある。

また、保全される地域のコミュニティとの関係にも配慮が必要である。REDD+では地域住民の合意を十分に取っていない、得られる利益が配分されないといった問題も指摘された。

もう一つの大きな問題は、炭素クレジットの「使い道」である。グローバルなビジネスの世界で参照されるSBTiなどのスキームでは、自社の直接的な排出(スコープ1・2)にも、サプライチェーン排出(スコープ3)にも、オフセットに使うことは認められていないことに注意が必要である。

「森林が森林として維持されること」の費用と価値を認める

ブラジルが提唱するTFFFは、REDD+などこれまでの森林クレジットの反省を踏まえて設計されている。つまり、TFFFは、森林生態系中の炭素を維持する効果が期待されるため、ベースラインとして森林減少を想定すれば、クレジットを発生させることも可能である。しかし、TFFFではあえてその価値は訴求せずに、「森林が森林として維持されること」の費用と価値を認めるものである。

また、ブラジルはCOP30そのものの議論においても、先住民なども含めた市民社会の参画を重視しており、TFFFでも同様の配慮が見られる。具体的には、支援金の20%は先住民族など地域コミュニティに配分される予定となっている。

なお、TFFFには、ブラジルが先頭を切って10億米ドルの拠出を表明している他、英国、ノルウェー、中国、UAEなども参加を検討している。こうした政府の公的資金に加えて、年金基金などの機関投資家を中心とした民間資金も重要な役割を果たすことが期待されている。

日本への示唆

途上国の熱帯林保全のために考えだされたTFFFの仕組みは、一見すると日本の森林経営には無関係のように見える。しかし、実は日本の森林経営にとってもさまざまな示唆を与えてくれる。

一つ目は、熱帯林が保全されることに資金を払うという成果(アウトカム)に注目した支援方法である。同じように、日本の補助金手続きの簡素化を構想することは無意味ではないだろう。

現状では、日本の森林・林業に関する補助金のほとんどが、間伐をした面積や作設した作業道の距離など作業量ベースで定められている。しかも、間伐率や作業道の幅など事細かに規定があり、ドローン写真を使った簡略化が認められているものの、基本的には現場で都道府県職員などの立ち合いによる完了検査を受ける必要がある。

地方自治体を中心に、間伐材の搬出量に応じたメニューもあるが、本来、生産刺激的な補助金はWTOで禁じられている。また、一般的に、農林水産業の生産量に応じた補助金は、過剰な生産につながり市場を乱すほか、環境面でも負の影響が大きいと考えられている。

それよりも、望ましい森林の環境状態を現すアウトカム指標(水質、生物多様性など)を科学的に設定し、それを満たせているのであれば手段は問わず、むしろ創意工夫を促すという方向も検討できるのではないか。

もちろん、この実現のためには、そのロジックを作るための科学的なエビデンスの蓄積が必要だ。TFFFの場合は、熱帯林を維持することのさまざまな価値がよく整理され、かつそれをモニタリングする手法が開発されたことにより実現したものである。一方で日本の場合は、森林面積自体が大きく減少することは考えにくい。むしろ、求められている機能がどのような施業により向上するのかという、応答のメカニズムと、定量的な関係が整理されていくことが望ましい。それができない限り、「日本全体の公益的機能で●兆円だから、●haで案分すると●円」という25年も前からの議論から発展はない。

もう一点は、地元コミュニティの参加・重視である。TFFFにおける4米ドル/haという金額は必ずしも十分ではないかもしれないが、森林空間を活用したレクリエーションなどさまざまなマネタイズの導入や、地元コミュニティにとっての「マイナー・サブシステンス(伝統的に受け継がれている生業)」の場の基礎となる可能性がある。

日本では、600億円もの森林・環境譲与税が都道府県・市町村に配分されており、自治体の工夫次第で、森林を適切に管理した上で地域を豊かにする方向に活用することが可能だ。世界レベルでブラジルが仕掛ける議論は、日本における地域森林管理のありうる別の未来を考える材料にもなりそうである。(PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー 相川高信)

■References
Tropical Forest Forever Facility (2025) “An innovative financing mechanism to incentivize long-term forest conservation at scale CONCEPT NOTE 3.0
Damania, R., et al. (2023). “Detox Development: Repurposing Environmentally Harmful Subsidies” Washington, DC: World Bank. doi:10.1596/978-1-4648-1916-2.
相川高信「気候変動レポートVol. 9:森林減少と森林火災を食い止める―ビジネスは森林の複雑さと向き合う必要がある―」(PwC Intelligence, 2025年6月)
相川高信・挾間優治「気候変動レポートVol.12:議長国ブラジルがリードするCOP30-野心から実行へ向けたガバナンス転換の挑戦」(PwC Intelligence, 2025年10月)

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