Updated by 『森林循環経済』編集部 on January 13, 2026, 6:43 PM JST
Editorial Board, Forest Circular Economy
Forestcircularity-editor
We aim to realize "Vision 2050: Japan Shines, Forest Circular Economy" promoted by the Platinum Forest Industry Initiative. We will disseminate ideas and initiatives to promote biomass chemistry, realize woody and lumbery communities, and encourage innovation in the forestry industry in order to fully utilize forest resources to decarbonize the economy, strengthen economic security, and create local communities.
国産材需要の停滞や林業の担い手不足といった課題が全国的に顕在化するなか、ヒノキ生産量全国1位を誇り、CLT(直交集成板)産業の集積地でもある岡山県では、「森林循環経済」の実装に向けた産官学連携の動きが加速している。2025年12月22日、岡山大学で開催されたシンポジウム「岡山発!森林循環経済の実現に向けて」では、森林資源を川上(林業)から川下(建築・エネルギー)まで多段階で活用し、脱炭素と地方創生を同時に実現するための具体的な戦略と、最新の進捗事例が示された。

シンポジウムの冒頭、主催者を代表して岡山大学長の那須保友氏が登壇した。岡山大学は2017年から「SDGs推進研究大学」として、他大学に先駆けて持続可能な社会の実現に向けた歩みを続けている。那須氏は、2030年のSDGs達成のさらにその先、2050年に向けた長期ビジョンを掲げ、地域と地球の未来を共創し、世界の革新に貢献する研究大学としての確固たる決意を表明した。

特に岡山県北の豊かな森林資源をキーワードとした研究において、那須氏は「ホール・インスティテューショナル・アプローチ」という概念を強調した。これは、個々の研究者が個別に活動するのではなく、大学全体で大きな課題に向き合う姿勢を指す。さらに、この学内連携を起点とし、今後は地域社会や多様なステークホルダーを巻き込む「ホール・リージョナル・アプローチ」へと活動を広げていくべきであるとの展望を示した。
また、那須氏は次世代を担う学生に対しても、「SDGsは入試に通るためだけに学ぶものではない。君たちの将来、君たち自身の問題なのだ」と、社会課題を「自分ごと」として捉えるよう説き続けている。この呼びかけに応えるように、岡山大学では社会課題解決に向けて主体的に動く学生の活動が活発化しており、実践的な場にも多くの学生が参画している。岡山の地から森林循環経済を盛り上げることは、次世代と共に未来を形作る活動に他ならない。
続いて、元東京大学総長でプラチナ構想ネットワーク会長の小宮山宏氏が「森林循環経済の実現で日本を『プラチナ社会』へ」と題した特別講演を行った。小宮山氏は、プラチナ構想の原点として、地球の有限性を説いた『成長の限界』や、経済学者・宇沢弘文氏が提唱した「社会的共通資本」の概念を引用した。道路、空気、教育といった、市場経済の外で維持すべき資本の重要性を強調した上で、「地球が持続可能で豊かであり、すべての人の自己実現を可能にする社会」というプラチナ社会のビジョンを提示した。

小宮山氏は、日本が目指すべき具体的な姿として「資源自給」「生涯成長」「住民出資」の3つを掲げた。これまで日本は「資源のない国」という前提で語られてきたが、21世紀は資源の定義が変わると断言。地下資源に依存した20世紀型モデルから、再生可能エネルギー、都市鉱山、そして森林バイオマスを軸としたモデルへと転換することで、日本は真の「資源自給国家」へと進化できるという。

特に日本の面積の7割を占める森林については、その8割が放置されている現状を危惧し、価値が著しく過小評価されていることを指摘した。この課題に対し、小宮山氏は1万ヘクタール(10km四方相当)を一つの単位とし、毎年250ヘクタールずつ伐採・植林しながら40年サイクルで循環させるモデルを披露した。これを全国1,000カ所で展開すれば、現在の国産材生産量の約3倍にあたる1億立方メートルの供給が可能になる。この構想は、中高層建築への木材利用のみならず、石油代替としてのバイオマス化学、そしてエネルギー利用に至る循環を経済に組み込むものである。
さらに、小宮山氏は経済的な裏付けとして、個人の投資資金が国内に向かう「住民出資」の重要性を訴えた。現在、NISAなどで投資される年間約27兆円の資金のうち、多くが海外へ流出している現状がある。この資金の一部を国内の森林や再生可能エネルギーに向けることで、地域に利益を還元する仕組みが必要だと説いた。
このように一次産業をエネルギー産業や物質循環と結びつけることで、現在10兆円規模の農林水産業に、これまで海外に支払っていたエネルギーコスト30兆円の一部を国内還流させることが可能になる。小宮山氏は、こうした日本発のモデルこそが、21世紀の民主主義と資本主義を守る道であると締めくくった。
基調講演では、岡山大学理事・上席副学長の阿部匡伸氏が「木造建築を通じた脱炭素社会の共創に向けて、岡山大学の志」と題し、具体的な実装戦略を語った。現在、世界のCO2排出量の約37%が建築関連であり、そのうち27%を占める建物の運用段階(省エネ等)の対策は進んでいるが、残りの10%を占める建設・解体段階の排出量(エンボディドカーボン)の削減が喫緊の課題となっている。

阿部氏は、日本の住宅の約8割が低層木造である一方、4階以上の中高層建築や非住宅分野(オフィス・倉庫等)では木材利用が極めて少ない現状を指摘した。この領域を木造化し、都市を「第2の森林」に変えることで、大きな脱炭素のポテンシャルが生まれる。コスト面では現在、木造は鉄骨・鉄筋コンクリート造より10〜20%割高とされるが、2033年度から本格化するカーボンプライシングや技術革新、標準化の進展により、将来的にコストの逆転(クロスポイント)が起こると予測される。

技術的課題である耐火性についても、2022年に構築された岡山大学グリーンイノベーションセンター(GIC)での研究成果を紹介した。従来の耐火技術は薬剤等による被覆が必要であったが、岡山大学では樹種の異なる木材の「赤熱燃焼温度の差」を利用し、木だけで燃え止まる「純木質耐火構造」を研究している。さらに、丸太を束ねて大空間を実現するBP材(バインディング・パイリング・ティンバー)の導入など、地域の中小製材所の技術を活かせる新たな工法も検討している。
教育面では、2021年4月に新設された工学部の建築教育プログラムにおいて、木造建築に強い高度な専門人材の育成に注力している。県北部の真庭市などの地域を実践的な教育フィールドとして活用し、研究と教育を一体化させている。

さらに阿部氏は、デジタル技術を用いたサプライチェーンの改革を提唱した。情報をBIM(ビルディング・インフォメーション・モデル)で共有し需要を可視化することで、計画的な伐採と再造林を可能にする。戦略的アライアンスを通じた合意形成により、リスクを公平に分担しコスト競争力を高めるこの仕組みこそが、技術・教育・産業が一体となって脱炭素社会を創り出す「岡山モデル」の核心となる。
(後編に続く)
Reference Links
【岡山大学】岡山大学シンポジウム「岡山発、森林循環経済の実現に向けて」を開催 | 国立大学法人岡山大学のプレスリリース
ライフデザイン・カバヤは、岡山大学主催・(一社)プラチナ構想ネットワーク共催のシンポジウム「岡山発!森林循環経済の実現に向けて」に登壇しました。 | ライフデザイン・カバヤ株式会社のプレスリリース