The growing need for foresters with a wide-area perspective and the development of more sophisticated systems in Japan, where the population is declining, is growing
Updated by 相川高信 on August 15, 2025, 9:54 PM JST
Takanobu AIKAWA
PwC Consulting Godo Kaisha
Senior Manager, PwC Intelligence, PwC Consulting LLC / With a background in forest ecology and policy studies, he has been extensively engaged in research and consulting for the forestry and forestry sectors for the Forestry Agency and local governments. In particular, he contributed to the establishment of human resource development programs and qualification systems in the forestry sector in Japan, based on comparisons with developed countries in Europe and the United States. In the wake of the Great East Japan Earthquake, engaged in surveys and research for the introduction of renewable energy, particularly biomass energy; participated in the formulation of sustainability standards for biomass fuels under the FIT system; since July 2024, in his current position, leads overall sustainability activities with a focus on climate change. He holds a master's degree in forest ecology from the Graduate School of Agriculture, Kyoto University, and a doctorate in forest policy from the Graduate School of Agricultural Science, Hokkaido University.
「森林循環経済」の出発点は森林管理であり、林業経営である。その担い手をどう育成し、確保していくのかは、他産業同様に重要な課題である。特に、気候変動の影響で、豪雨による土砂災害や山林火災が頻発するようになった昨今、森林管理は国土保全上も重要であり、林業人材は地域になくてはならないエッセンシャルワーカーと位置付けることもできる。特に、広域的な視点から森林管理を行う技術者である「フォレスター」の役割が重要であり、限られた人数で日本の広大な森林を管理するために、ICTやAIなどの技術を使いこなす高度な人材の育成が急がれる。
農業と林業の最大の違いは、土地の所有と経営・施業が分離していることである。農協は農家の集まりであり、農地を所有する農家は自ら農作業を行っている。一方、林業の場合、多くの森林所有者は森林を所有しているだけで(かつては自分で植林作業などした方もいたが)、実際の林業作業は、森林組合や外部の業者に委託している場合がほとんどである。
加えて、森林管理・経営の長期性や広域性、また災害防備や生物多様性の保全など社会的な要求が高度化していることもあり、森林管理を専門とする技術者である「フォレスター」を配備して、広域的な視点から森林管理を行うことが有効である。多くの国で、フォレスターは行政機関に所属し、森林管理や林業作業に関する法律や規制の執行と同時に森林所有者へのアドバイスを提供している。これが欧米などのスタンダードであるが、日本では社会システムとして、いまだ確立していない。
日本において、欧米のようにフォレスターを育成し、その活動を起点とした森林管理のための制度を構築するという試みが行われたのは、民主党政権時代の2009年のことだった。同年12月、林野庁は木材自給率を50%とすることなどを目標に掲げた森林・林業再生プランを発表。その実現のために、各種の改革に取り組むこととなり、フォレスターなどの人材育成についても議論が行われ、筆者も検討委員会に委員として参加した。
その際に考慮されたのが、市町村に様々な権限が降りている、日本固有の森林・林業の行政システムである。たとえば、森林の伐期などに影響するゾーニングや森林の取り扱いは市町村森林整備計画により定められる。
しかし、多くの市町村では林業の専門職職員はおらず、福祉や税務を担当していた職員がいきなり林業担当になることはざらである。しかも、林業担当がいればよい方で、多くの場合、農林課といったくくりで、シカなどの鳥獣対策なども兼務しており、往々にして多忙であるため、数年の任期の間に専門性を身に着けることは困難である。それにもかかわらず、1990年代から始まった地方分権の流れに沿ってこのような仕組みが定着した。
このような背景から、林業改良普及指導員の一部門である「森林総合監理士」区分として設立された「日本型フォレスター」は、市町村の支援を主な任務とすることになったのである(図表)。
筆者自身は、森林総合監理士の制度設計に関わった立場の人間であり、結果を受け入れている。その後も林野庁の政策は、森林経営管理制度に象徴されるように、市町村を担い手と想定して設計されてきた。一方で、世界的な意味での「フォレスター」の役割は、市町村支援に留らないことを認識するのも重要である。また、その後10年が経過し、以下のような事項を考慮することが必要であろう。
一つは、人口減少である。これは森林・林業再生プラン検討時でも分かっていたことではあったが、2014年に「消滅自治体」の問題が提起されたことをきっかけとして、広く議論されるようになり、地方創生として政策化された。林業分野では、地域おこし協力隊制度を使って、外部から人材を呼び込む地域が増え、中にはフォレスター的な役割を担っている方もいる。
二つ目は、公務員の数も減少する一方、予算は増加している点である。林野行政の一般予算は減少傾向にあるものの3,000億円規模で推移しているが、2009年度以降、補正予算も常態化しており、2022年から2024年度までの直近3年間の平均は1,326億円であった。加えて、2019年度から始まった森林環境譲与税は、2024年度からは毎年600億円が都道府県と市町村に譲与されている。こうしたことから、行政職員の事務量が増加していることは明らかである。
三つ目は社会的な要求の多様化である。すでに述べたように、毎年どこかで豪雨による土砂災害が発生している状況である。2024年と2025年には、これまで日本では多くなかった大規模な森林火災が各地で発生し、人々を驚かせた。また、生物多様性の保全についての注目が高まる一方で、シカやクマなどの鳥獣被害は深刻化しており、包括的な対策が求められている。
そして、四つ目はテクノロジーの進化である。他産業と同様に、人材が減少する中では、むしろ積極的に使いこなす必要がある。筆者の見るところ、ICTやドローンなどを使った森林管理の試みは散見されるものの、体系化されていない。また、AIの活用の議論も始まったばかりである。
このような変化に直面し、伝統的な林業経営に加えて、生物多様性の保全、災害防備などランドスケープレベルの視点も加味したフォレスターの育成が求められている。そのためには、フォレスターを育成する体系的な教育システムが必要であるが、地方国立大学を中心に農学部林学科で行われてきた実務的な教育は、その枠組みが維持できなくなりつつある。
事態を好転させるカギとなる問いは、「日本型」フォレスター(森林総合監理士)という枠組みを超えて、世界で通用するようなプロフェッショナルを育成できるか、ではないだろうか。実は、アジア地域でそのような人材を輩出できる学校はほとんどない。日本に一つでもそのようなプロフェッショナルスクールができれば、ずいぶんと風景が変わると思う。また、現役のフォレスターを対象としたリカレント教育も必須である。
もう一つは、より根源的な問題であるが、ICTに加えてAIを森林管理や林業経営にどのように活かすのかという大きなビジョンがないことも問題である。その意味で、アドバンスト(高度)なフォレスターをどう活かすのかも制度次第であることは確かである。(PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー 相川高信)
※参考文献
相川高信・柿澤宏昭(2015)「先進諸国におけるフォレスター育成および資格制度の現状と近年の変化の方向」林業経済研究Vol.61(1) p. 96-107
相川高信(2010)「先進国型林業の法則を探る 日本林業成長へのマネジメント」(全国林業改良普及協会)
富山和彦(2024)「ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか」(NHK出版新書)