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Geothermal Power Generation: A Circulation Model of Local Production for Local Consumption New Possibilities for Forest Resources Demonstrated by the Independence of Minami-Kayabe and the Cooperative Model of Okuhida179

Geothermal power generation is moving towards a circular model of local production and consumption

Updated by 加藤聡悟 on November 17, 2025, 10:00 PM JST

Satoru Kato

Sougo KATO

Leaf Rain Co.

After working for a financial institution researching companies in the high-tech field, he worked as a supervisor at a landscape construction site before setting up his own business. He is interested in the materials industry, renewable energy, and wood utilization, and in recent years he has been writing about the forestry industry. With his experience of working in the forests in the past, he aims to write articles that explore the connection between the realities of the field and the industrial structure.

国内地熱発電ではこれまでにない小中規模の自立型モデルが動き出している。その象徴が北海道・南茅部と岐阜・奥飛騨だ。北海道・南茅部では、従来は大規模蒸気発電の副産物とみなされ、単独運用が難しいとされてきたバイナリー方式のみで6,500kW級を達成し、深部掘削に頼らない実用的な中規模モデルを示した。岐阜・奥飛騨では浅層地熱を観光・農業・地域熱供給と結びつけ、エネルギーが地域産業を支える循環型の取り組みが動き始めている。いずれも、地熱が国策主導・大企業主体から、地域と森と産業が共生しながら自立して成り立つ資源へと変わりつつあることを示す。

国内の地熱の開発は大規模事業に限られてきたため、コスト・リスク・地域調整の負担が大きく、むしろ普及が進みにくい状況が続いていた。その結果、資源量は世界3位でも発電量は0.3%にとどまっている。小中規模として分散配置する選択肢が存在しなかったことも、普及停滞の一因である。しかし新しい自立型モデルの登場は、地熱を「森を削る開発」から「森と地域を循環させる資源」へと転換しつつあることを示し、森林利用の新しい可能性を開いている。

山を掘る開発から地域と共生する地熱へ

従来の地熱は地下2,000〜3,000m級の深部掘削を伴う大規模事業が中心で、資源量は掘ってみるまで確定できなかった。有望地の多くは国立公園や温泉地にあり、自然公園法や温泉資源の保全をめぐる調整が長期化することが多い。地域からは「得られる利益が見えないまま山を掘られる」構図が続き、2008年の草津町のように温泉枯渇への懸念から計画反対運動が起きるなど、社会的受容性は低かった。また建設費や送電網整備の負担も大きく、FIT(固定価格買取制度)以前は採算も不安定だった。

一方、近年は石油・ガス掘削技術の応用や政策支援で掘削・熱交換技術が進歩している。高温蒸気を必要とせず環境負荷を抑えることができる低温バイナリーや浅層地熱が実用段階に入った。1,000kW未満の小規模設備なら初期投資を数億円に抑えられ、自治体や地元企業でも導入が可能。温泉排湯や浅層熱を使い、観光・農業・林業・防災と組み合わせた「分散型地熱」が広がり始めている。

地域が生んだ2つの新モデル――南茅部の技術型・奥飛騨の共生型

南茅部地熱発電所では既存温泉井を活用したバイナリー単独発電が稼働しており、深部掘削や蒸気発電を使わず6,500kW級を実現している。従来バイナリーは、大規模地熱の余剰熱を利用する「副産物型」が主流で、単独では出力が伸びにくいとされてきた。しかし南茅部では、温度・湧出量ともに安定した温泉井を複数束ねて熱量を確保し、最新の高効率バイナリー機を組み合わせることで中規模を可能にした。地元企業・自治体と連携し地産地消を進めるこの方式は、バイナリーのみで採算を成立させた新しい事業モデルとして注目される。

バイナリー発電の原理・仕組み(出典:環境省Webサイト 02_gesui_026.pdf)

奥飛騨温泉郷中尾地熱発電所では、計画段階において温泉資源への影響を懸念する旅館側が慎重だった一方、事業者は温泉帯を避けた深部掘削で十分な熱水を得られず計画が頓挫しかけていた。温泉側も井戸老朽化による湯量不安を抱えており、双方が課題を共有する中で協議が進み、発電後の熱水を温泉に還元する仕組みが整備された。これにより旅館側は安定した湯量確保や井戸維持費の軽減という実利を得られ、事業者も安定運転が可能になる利害一致が生まれた。資源の競合を地域の利益循環へ転換した象徴的事例である。

奥飛騨温泉郷中尾地熱発電所(出典:環境省Webサイト hoyo_082.pdf)

地熱の新しいかたち──自立型と協働型が広げる可能性

両地域に共通するのは、地熱を大企業任せのエネルギー事業にせず、地域と協働して持続的に運用している点だ。南茅部は既存井戸とバイナリーだけで成立する「自立型の技術モデル」、奥飛騨は観光・農業・温泉と共存しながら発展する「協働型・共生モデル」である。これらの2つの方向性が広がれば、地熱は大規模開発に頼らず、従来は導入が困難とされてきた地域でも導入可能となる。地熱の普及は出力規模ではなく地域接続性によって加速する。地熱拡大の鍵は、国策主導から地域の事情に応じた自立型と協働型の両軸へ進化させることにある。

そして地熱は、バイオマスと並んで「森林地帯が生み出すエネルギー」としても再評価されつつある。山間部に広く分布する浅層熱や温泉排湯を活かせる点は、林地や温泉地を多く持つ日本と相性がよく、地域のエネルギー安全保障を支える新たな基盤となりうる可能性を秘めている。地熱の活用は、森林資源と組み合わさることで、地域のエネルギー供給と産業構造を安定させる現実的な手段として今後期待されるだろう。(株式会社リーフレイン 林業ライター 加藤聡悟)

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