• Author ListContributors
  • Newsletter RegistrationNewsletter

There are no young trees. If things continue this way, the timber industry will disappear in 20 years—Togawa Lumber’s Challenge: A Circular Forestry Business Model [This Was the Turning Point]312

Updated by 『森林循環経済』編集部 on June 17, 2026, 9:37 PM JST

Editorial Board, Forest Circular Economy

Forestcircularity-editor

We aim to realize "Vision 2050: Japan Shines, Forest Circular Economy" promoted by the Platinum Forest Industry Initiative. We will disseminate ideas and initiatives to promote biomass chemistry, realize woody and lumbery communities, and encourage innovation in the forestry industry in order to fully utilize forest resources to decarbonize the economy, strengthen economic security, and create local communities.

「いま8割以上が50年生以上で、若い木がないんですよ。このままでは20年後、木材に関わるすべての仕事がなくなる」。ヒノキの名産地である岡山県新見市で素材生産を手掛ける戸川木材の戸川睦徳社長は強い危機感を抱いている。 その課題を突破するターニングポイントとなったのが、近畿中国森林管理局管内で初の「樹木採取権」の取得だった。それを土台に、人材や設備に投資をし、未利用材のチップ化からコンテナ苗の自社生産、大型ドローン導入、完全週休2日制まで、「採る・大切に使う・育てる・植える」のすべてを自社で成立させる循環型事業モデルを構築している。森林循環の実装を阻む「壁」に立ち向かう川上企業の戦略と、そのターニングポイントを追う。

「樹木採取権251ha」が支える、社員37名・機械60台の生産体制

岡山県有数の林業地である新見市。県内外からの需要も集まる圧倒的なスピードで木を伐り出す最前線にいるからこそ、戸川社長は将来の森林枯渇に対して強い危機感を抱いている。 「結局、川上がやっていかないと、いずれ人工林は枯渇するんですよ。現時点でも8割以上が50年生以上で若い木がない。この先20年後どうなるのか。すべての木材に関わるところは、仕事がなくなる。それは目に見えている」。

新見樹木採取区(用郷山国有林)の対象エリア(画像提供:戸川木材)

この危機を乗り越えるため、同社は2022年、近畿中国森林管理局管内で初となる「新見樹木採取区(251ha)」の実施契約を締結した。樹木採取権とは、国有林の一定区域において、長期かつ安定的に立木を採取できる権利のことである。 「本来一つずつ入札かけて、誰が取るかわからない状態になったら、その都度機械も搬入したりとか事務的なことも含めて大変。それが簡略化できる」と、戸川社長はそのメリットを語る。さらにこの権利は自社の事業安定に留まらず、川中・川下企業と連携協定を結ぶことで、ヒノキの構造用集成材やスギの梱包材の安定供給を可能にし、地域材のサプライチェーン全体を強化する波及効果を生んでいる。

この川中・川下との強固な連携を裏打ちしているのが、同社が取得しているFSCおよびSGECのCoC認証だ。同社の高い技術力が評価され、広島県にあるアサヒビール社有林(FSC認証林)の伐採を依頼されたことを機に、国際基準の環境配慮に対応すべく自らも認証を取得した。現在、樹木採取権による「安定供給」と、認証制度による「質の証明」を掛け合わせることで、ESG調達を重視する連携先企業からパートナーとして選ばれ続けている。

機械の配置をボードで「見える化」

「9年間にわたり安定した事業見通しを持てる」という基盤があってこそ、同社は高性能林業機械のタワーヤーダなど、60台以上もの機械を保有する圧倒的な設備投資を実現できた。「事業を継続するには常に機械が必要。古くなったら修理費もかかってくるので、機械の更新も常に意識した方がいい」と、積極的な投資の重要性を説く。

2023年7月に導入したタワーヤーダ(画像提供・戸川木材)

理念「創意と工夫」の体現。自社での機械改造と年間2万トン超のチップ事業

戸川木材の経営理念は「創意と工夫」である。過去には現場の課題を解決するため、独自に機械の製作も行っていた。作業半径を2倍に伸ばす「スーパーロングリーチグラップル」の開発や、過酷な自然環境の中で社員の休憩場所を確保するため、フォワーダを改良してストーブなどを設置した「モービルハウス」の製作などだ。安全性や耐久性の問題から現在は使用していないものもあるが、現場のボトルネックを解消しようとしたこの時の経験は決して無駄になっていない。自ら機械に手を加えたノウハウは、現在の「自社整備工場での徹底した修理・点検体制」へと繋がり、現在では自社改造ではなく、最新鋭の機械をいち早く導入することで、安全性と圧倒的な効率化を両立させている。

プロセッサーで造材や運搬を行う段階になると現場の人数は2人程度に

また、伐採時に出る枝葉や曲がり材といった未利用材の処理にも合理性を追求している。 「山に残る枝とかをそのまま持って帰ると、空気を運ぶようなもの。10トン車でも2トンぐらいしか積めませんし。これの経費がかなりかかるので、実際に現場で移動式チッパーを持って行って破砕をするんです」と戸川雅之専務。 さらに運搬用トラックの運用にも同社らしい合理性が見える。一般的なチップ運搬車は積載量を稼ぐために軽いアルミ製の荷台が多いが、「アルミだと枝葉を積んだ時に変形してしまうため、軽いチップしか運べない。うちは枝葉のまま持ち帰るハードな運用にも使えるよう、あえて鉄にしています」と語り、現場の実情に即した柔軟な選択をしている。

未利用材や林地残材の土場を兼ねた自社チップヤードでは1日約100トンのチップが生産・出荷される

製造された木材チップは、隣接する真庭市のバイオマス発電所などへ安定供給される。丸太として出荷される木材だけでなく、山に残る枝葉や曲がり材まで徹底的に資源化する同社において、そのインパクトは大きい。「(素材生産量の)4割ぐらいはチップ材。平日ほぼ毎日運んで、年間2万3000〜4000トンぐらい出してます」と戸川専務。未利用材を現場でチップ化し、近隣の発電所へ安定供給するこの取り組みは、同社の収益を支えるとともに、地域内で森林資源を使い切る循環の一端を担っている。

「170ha植えたいのに40haしか植えられない」再造林の現実

圧倒的な機械力で「伐る」「使う」事業モデルを確立した同社だが、ここで森林循環最大の壁に直面する。それは「木がない」のではなく、「植えられない」という現実だ。

戸川社長は新見市の厳しい現実をこう明かす。 「新見市内で170ヘクタールぐらい植える申請は出たもんだけど、実質年間40ヘクタールとかしか植えられていない。毎年こう積み残しが増えてくるような状態。このままじゃとんでもないことになるから、まあうちでも植えようと」。

再造林が進まない最大の理由は、深刻な苗木不足にある。苗木生産者の減少が進む一方で、需給バランスの調整などから新規参入のハードルが高いという構造的な課題が存在する。「植えたくても植えられない状況をなんとかしなければ」という強い危機感から、同社は自社での苗木生産という新たな挑戦を始めている。「環境さえ整えば、投資をして何十万本でも生産できる自信はある」と語るように、2024年2月には自社で試験的な育苗をスタートさせた。長年の経験で培った実行力で、業界のボトルネック解消を目指している。

少花粉ヒノキのコンテナ苗(画像提供:戸川木材)

自社育苗と大型ドローンによる「一貫体制」の構築

苗を育てる過程でも、同社ならではの現場の知恵と工夫が光る。岡山県内で需要の高い少花粉ヒノキを中心に、セルトレイへの播種から40穴コンテナへの移植までを手掛けているが、特にこだわっているのが、鉄筋の特製台座を用いてコンテナを地べたに置かないことだ。戸川社長は「空中に浮かす(空中根切り)ことで根が下に出ない。下に出たら抜けなくなるし、うまく根が巻かないから」と、その理由を語る。さらに出荷時には、下から押し上げて効率的に苗を抜く専用機械を活用しており、将来的には自動灌水システムの導入も視野に入れるなど、独自の徹底した管理体制を築いている。

苗木運搬用の大型ドローン(画像提供・戸川木材)

自ら植林事業を始めてみて、急斜面での苗木運搬の過酷さを痛感した同社は、大型ドローン「森飛25」を導入した。「昔は担いで登ってたんですよ。今は20mぐらいのワイヤー巻いたやつで、苗木50本入りの袋を4つ、だいたい20キロ(計200本)を運んでます。600m先の山の上にも渡したことがあります」。多大な労力をドローンで代替することで、再造林の劇的な省力化を図っている。

生産性向上が支える「完全週休2日制」と多様な人材の活用

深刻な人材不足の中、同社は働き方改革にも大きく舵を切った。 「週休3日もある時代に、まだ休みが日曜日しかないとかでは誰も来てくれんだろうなということで、思い切って完全週休2日制に移行しました」と戸川社長。

「稼働日数が13%減って、生産量も13%落ちたんですね。休みを増やせば生産性を維持するのは無理だとつくづく感じた年でした。でもこれのおかげで、新卒が来てくれるようになった」。一時的な売上減という痛みを伴いながらも、同社は働きやすさを最優先する「人材への投資」を選択。これが功を奏し、2021年度の有給休暇取得率は全国平均を大きく上回る94.6%を実現。今年6月4日にはユースエール認定(※若者の採用・育成に積極的で、雇用管理の状況などが優良な中小企業を国が認定する制度)も受けた。さらに、入社した若手が最新鋭の機械を乗りこなすことで、中長期的な生産体制の維持・強化へと繋げている。

1時間あたり310立方メートルの破砕能力を誇る破砕機「アクスター6210」。女性社員もオペレーターとして活躍。

さらに特筆すべきは多様な人材の活躍である。林業分野で女性人材の確保が課題となる中、同社では女性専用トイレの現場設置など環境整備を進め、現在3名の女性が現場オペレーターなどで活躍している。現場で働く女性従業員からは「完全週休2日制の導入や有休の取得しやすさなど、子育て中でもとても働きやすい環境が実現している」との声があがる。伐採現場に比べて危険性が少なく、林業の基礎を学べる造林事業を若手の教育のスタートラインに据える工夫も功を奏し、次世代を担う多様な人材が定着し始めている。

新たな資源利用への期待と、川上企業の責任

森林資源の可能性について、戸川社長は強い期待を寄せる。 「今までは建築用材やただ燃やすだけだったのが、プラスチックの代替になるとか燃料になるとか。燃やすんじゃなくて、もっと利用価値があって、日本の資源がそうやって生かされるとなると、夢が広がる」。 「川上の立場なんで、原料の供給は自信を持って安定的にする自信がある」と意欲を見せる。

同社のすべての実践の根底には、次世代へ豊かな山を残すという強い使命感がある。 「この地域にある環境を、ここで生まれ育った自分がうまく活用して、仕事につなげていけたらいいかなと。本当の原点は、やっぱりそこですよね」。 制度の壁や困難に直面しながらも、投資と工夫で一つひとつ突破口を開く戸川木材。自社育苗や植林体制の確立など課題は残るが、「採る・大切に使う・育てる・植える」を川上企業として自ら回す事業モデルは、日本の森林循環経済を社会実装へと導く力強いモデルケースとなるだろう。

【用語解説】樹木採取権
国有林野の一定区域について、長期間にわたり安定的に立木を採取できる権利。2020年度に創設された制度で、林業経営体による計画的な投資や木材の安定供給を後押しすることを目的としている。
樹木採取権制度について:林野庁

【企業概要】
商号:株式会社戸川木材
本社所在地:岡山県新見市哲西町矢田3569-1
設立:平成8年8月1日
代表者:戸川睦徳
主な事業:素材生産業、バイオマスチップ製造業、建設業(平成20年3月許可)
従業員数:37名(役員含む)
年間生産量:56,000立米(うち3割程度が間伐材)
企業URL:https://togawa-timber.co.jp/

【戸川木材との事業連携・商談のご相談はこちら】
お問い合わせフォーム

【戸川木材での働き方や採用情報はこちら】
採用ページ

(企画・制作協力:株式会社戸川木材)

森林循環経済インタビュー特集『ここがターニングポイントだった』

森林循環経済の実装に取り組む企業・団体を取材し、事業やプロジェクトの転機となった出来事や判断、制度、技術、連携のあり方を掘り下げるインタビュー特集です。企業・団体にとって、何がターニングポイントだったのか。地域循環、木質バイオマス、脱炭素、自然資本などの業界文脈と接続しながら、その知見を政策・産業の意思決定層へ届けます。

Tags.
Forest Circular Economy Newsletter
Subscribe to our newsletter "Forest Circular Economy" (free of charge)
EN