Opportunities and risks of the new GHG Protocol land sector standard, "Biomass is not unconditionally recognized as carbon neutral," on the forest circular economy.
Updated by 相川高信 on June 03, 2026, 8:42 PM JST
Takanobu AIKAWA
PwC Consulting Godo Kaisha
Senior Manager, PwC Intelligence, PwC Consulting LLC / With a background in forest ecology and policy studies, he has been extensively engaged in research and consulting for the forestry and forestry sectors for the Forestry Agency and local governments. In particular, he contributed to the establishment of human resource development programs and qualification systems in the forestry sector in Japan, based on comparisons with developed countries in Europe and the United States. In the wake of the Great East Japan Earthquake, engaged in surveys and research for the introduction of renewable energy, particularly biomass energy; participated in the formulation of sustainability standards for biomass fuels under the FIT system; since July 2024, in his current position, leads overall sustainability activities with a focus on climate change. He holds a master's degree in forest ecology from the Graduate School of Agriculture, Kyoto University, and a doctorate in forest policy from the Graduate School of Agricultural Science, Hokkaido University.
2026年1月、GHGプロトコルの「土地セクターおよび除去基準」が公開された。策定作業は2020年から始まっていたので、実に6年越しの公表となった。農業など土地セクターに分類される多くの関連企業が、この基準に従って温室効果ガス(GHG)の排出・吸収を計上・報告することになる。
しかし、同基準において、「バイオマス製品は炭素中立(カーボンニュートラル)とは見なすことができない(Biogenic products cannot be assumed to be carbon neutral)」と明記されており、バイオマスの利用拡大を目指す「森林循環経済」においては、どう解釈すればよいのだろうか?
今回の基準はいわゆる農業セクターが中心であり、森林セクターは除外されている。しかし、今後公表されるであろう森林セクター基準においても、同様の整理が適用される可能性が高く、今から的確な理解を持ち、必要に応じてルールメイクに参画することも重要であろう。

まず初めに、GHGプロトコルについて簡単に整理しておこう。
GHGプロトコルは、企業のGHG排出量算定の包括的なフレームワークである。米国のWRI(世界資源研究所)とWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が1998年に開発した民間の自主的スキームであり、2001年にコーポレートスタンダード(第1版)が発行され、その後も、関連する基準の発行や改訂が行われて発展してきた。多くの国の制度でも参照され、事実上の世界標準になっている。
土地セクターについては、2020年から策定が始まり、2022年に公表されたドラフト版のパイロットテストを経て、2026年1月に待望の第1版が発行された。これを使う対象企業は、農業とその他の土地利用セクターである。自社で農地を所有して農業生産を行う企業に加えて、食料・飼料・バイオマス燃料などの農産物を購入、消費、加工、販売する企業も含まれるため、対象はかなり広い。また、植物体や土壌、そして地層に二酸化炭素(CO2)を貯蔵する、いわゆる炭素除去を行う企業も対象としている。
今回の土地セクター基準の発行の最重要ポイントは、バイオマス製品を無条件に炭素中立とは見なさなくなったことであろう。ただし、バイオマス生産の持続性を前提として、バイオマスが炭素中立であると主張することを妨げるものではない。
図のシナリオ1で示したように、土地排出および、後述する土地炭素リーケージが計上・報告されていれば、バイオマス炭素排出は、物理的インベントリ外の「追加的計上カテゴリ」で、グロスの排出として計上される。
この方法はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が策定している国のGHG排出インベントリのガイドラインの考え方と整合している。具体的には、バイオマス起源のCO2排出はインベントリのメモアイテムとして別途記載されるが、基本的には土地利用変化による排出として計上されている。これに対して、GHGプロトコルは一歩踏み込んで、土地排出が計上できない場合は、バイオマス燃焼時のCO2排出を物理的インベントリに含めることを明確にした点が新しい(シナリオ2)。
この決定については、元々ドラフト版の時点でも予見されていたので、筆者には驚きはない。EUの再生可能エネルギー指令(RED)や日本のFIT制度も、バイオマス由来CO2の排出をゼロとしてきたが、土地排出の確認を要求してきたこととも矛盾するものではない。
また、そもそもBECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage)など、大気中からの炭素除去を考えるのであれば、バイオマスの燃焼によるバイオマス由来CO2を計上するのだから、排出ゼロではつじつまが合わない。同様に、バイオマス製品中の炭素固定量が認められているが、これも廃棄(燃焼・酸化)前のバイオマス炭素量を計上するものであり、ゼロとすることはできない。
一方で、土地炭素リーケージ(Land Carbon Leakage)の指標として示された炭素機会費用(Carbon Opportunity Cost:COC)には注意が必要であろう。
現在、農地拡大は、森林減少の世界で最も大きな要因となっている。そのため、森林を伐採して農地を造成する場合は、「土地利用変化(Land Use Change)」として排出インベントリに含めるのが一般的であり、前述のとおり、EU-REDや日本のFITなどでもそのような対応が取られている。
一方、GHGプロトコルの土地利用基準で、物理的インベントリとは別に計上・報告が求められることになったのは、間接的土地利用変化(Indirect Land Use Change)と呼ばれるものである。これは、従来食料生産が行われていた農地で、例えばバイオ燃料のためのエネルギー作物の生産を行うことになった場合、食料生産の減少分を補うために、どこか別の場所で森林伐採が行われて農園が開発されるような事態を想定している。
GHGプロトコルでは、これを土地炭素リーケージと呼び、バイオ燃料の生産など「高リスクな活動」を行う場合に、計上・報告を行うことを求めている。逆に、供給元の情報が不足して、計上もしくは報告が行われない場合は、バイオマス製品からの排出を物理的インベントリの中で計上・報告する必要があり、「炭素中立ではないバイオマス」になる(シナリオ2)。
注意が必要なのは、土地炭素リーケージの指標として採用された炭素機会費用である。経済学的な機会費用はある選択を行ったことで失ったものの価値を指す。炭素機会費用はこれを炭素会計に応用したもので、バイオ燃料生産のために転換された(と想定される)森林の炭素蓄積の減少だけではなく、将来に渡って吸収したであろう炭素の量を、割引率を乗じて現在の炭素量に割り戻すという計算を行う。この方法では、場合によってはバイオマス製品が化石燃料製品に比べても多くの排出が計上されることになる。炭素機会費用の計算方法は現時点では公表されておらず、2026年の6月までに公表予定のガイダンスで示されるものと思われるが、注意が必要である。
最後に、今後の森林セクター基準の策定を見据えて、現時点での森林循環経済へのインプリケーションをまとめておきたい。
まず、農地によるCO2吸収(除去)が任意であるが計上できるようになったことから、同様に森林セクターにおいても吸収の計上が認められる可能性が高い。また、バイオマス製品中の炭素固定量も認められたことは、木造建築など長寿命のバイオマス製品を使うことへのインセンティブとして働くだろう。
バイオマス燃料やバイオマスプラスチックなどの短寿命のバイオマス製品については、使用・燃焼時のCO2排出を計上しなければならなくなってくるのは、ポイント1で解説したとおりだ。また、ポイント2で説明したとおり、炭素機会費用の計算が森林セクターにも求められた場合、非常に大きな排出が計上される恐れがある。例えば、WRIが2023年に公表した報告書では、この方法で炭素機会費用(COC)を計算すると、木材の燃料利用だけではなく、長寿命の建築材などでも、化石燃料や鉄筋コンクリートなどの現状と比較して、CO2排出が多いという計算結果になっている。
一方で、耕作放棄地や劣化牧野など、世界に大量に存在するとされる劣化した土地に植林をする場合など、バイオマス生産と同時に、土壌への炭素貯蔵や生物多様性の保全などに寄与する活動が適切に評価されるかどうかにも注意したい。
また、森林循環経済が目指しているのは、既存用途である建築用材や紙・パルプ材の減少を見越して、プラスチックなどの新素材やエタノールなどの燃料への切り替えである。こうしたケースは、土地炭素リーケージは発生せず、炭素機会費用の計算の必要性はないように考えられる。そのため、こうしたケースが適切に考慮されるように、関係者は、国際的に連携しながら森林セクターのガイドライン作成に積極的に参加することも求められよう。(PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー 相川高信)
参考文献:
・ GHG Protocol (2026) “Land Sector and Removals Standard Version1.0”
・ 相川高信(2023)「Climate Neutrality of the Biomass Carbon Cycle Understanding the Forest Biomass 'Carbon Debt' Debate」
・ 環境省(2021)「再生可能エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関する LCA ガイドライン第Ⅳ部 複数の機能を有する事業」国内バイオマス利活用等編interpoint (interword separation)輸入バイオマス利活用等編
・ バイオマス持続可能性ワーキンググループ(2025)「FIT/FIP 制度におけるライフサイクル GHG 計算方法」
・ バイオマス持続可能性ワーキンググループ(2026)「FIT/FIP 制度におけるバイオマス燃料のライフサイクル GHG 排出量の既定値」
・ WRI(2023)”The Global Land Squeeze: Managing the Growing Competition for Land”
・ Searchinger et al. (2023a) “Wood Is Not the Climate-friendly Building Material Some Claim it to Be”
・ Searchinger et al. (2023b) “Harvesting Wood Has Overlooked Carbon Costs”