Updated by 『森林循環経済』編集部 on April 25, 2025, 4:23 PM JST
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プラチナ森林産業イニシアティブが推進する「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の実現を目指します。森林資源のフル活用による脱炭素・経済安全保障強化・地方創生に向け、バイオマス化学の推進、木造都市の実現、林業の革新を後押しするアイデアや取り組みを発信します。
山梨日日新聞社とプロジェクトデザインが共同開発したカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」が、新しい「森育・木育」を推進する教材として注目を集めている。「森の未来」について考えるこのユニークなツールは、学校教育から企業研修まで多様な場で活用されている。
moritomiraiは、自分たちの行動によって20年後のまちや森がどう変化するかを疑似体験できるシミュレーション型カードゲームだ。参加者は「山の持ち主」「行政職員」「猟師」「住宅メーカー」「学校の先生」など、10種類の職業に割り振られ、それぞれが異なるゴールを目指しながら行動する。
「仕事」「生活」「お金」などのカードを選びながらゲームを進める中で、森の状況を示す4つのメーター――「森への愛情」「手入れ・管理」「整備森林(資源量)」「林業の経営力」――が変化していく。各プレイヤーが自分の利益だけを追求して行動すると、森の状態は徐々に悪化していく仕組みであり、森林経営の複雑性と相互依存性を体験的に理解できるよう設計されている。
単一の正解が存在しない中で、経済的な価値と環境的な価値、短期的な利益と長期的な持続可能性といった、時に相反する要素のバランスをどのように取っていくか、参加者自身が考え、他のプレイヤーと対話しながら、より良い「森の未来」を協力して目指すプロセスそのものが学びとなる。
ゲームに没頭する中で自然と森林経営の複雑さや奥深さ、そして他者と協働することの重要性を体感的に学べる点が大きな特徴だ。従来の座学中心の教育とは異なり、「遊び」の要素が参加者の主体性を引き出し、難しいテーマへの心理的なハードルを下げる効果も期待できる。
このカードゲームは全国の学校においては、SDGs学習や林間学校の一環として活用され、子どもたちが森林の多面的な機能や社会とのつながりを体験的に理解する貴重な機会となっている。
企業や自治体においても、新人研修やチームビルディングにおけるコミュニケーションツールとして、あるいは組織全体の環境意識を高めるための研修プログラムとして導入されている。様々な価値観を持つ参加者が、ゲームを通じて共通の目標に向き合うことで、相互理解を深め、建設的な対話を生むきっかけとなる。
さらに、市民向けワークショップなど、地域社会における具体的な環境教育・啓発活動の実践ツールとしても有効であり、多様なステークホルダー間の合意形成を疑似体験する場としても機能しうる。
moritomiraiが提供する学びは、森林に関する断片的な知識の習得にとどまらない。ゲームのプロセスを通じて、参加者は森林が自らの生活といかに深く結びついているかを実感し、その恵みを将来にわたって享受し続けるために何が必要かを考えるようになる。近年注目されている「森育」「木育」の実践教材としての評価が高く、自然資源を未来世代へどう引き継ぐかという問いに、遊びながら向き合うことができる仕組みとなっている。
この教材の特長は、知識の習得だけでなく、参加者の間に“合意形成”や“葛藤の理解”といったリアルな学びを生む点にある。単なる情報伝達型の教材とは異なり、ゲームという形式を通じて当事者意識が育まれ、参加者が「自分ごと」として森林の課題に向き合う姿勢を促す。
ゲーム内で体験する他者との協力や交渉は、現実社会におけるコミュニケーションと協働の重要性を体感的に学ばせる。そして何より、持続可能な森林経営を実現するためには、経済活動と森林資源保全の間に健全な循環を築く必要があるという、経済合理性をも踏まえた本質的な視座を獲得できる点が、学習効果と言えるだろう。