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「東濃ひのきの里」が挑むGX 岐阜・白川流域で木材製品のCO2排出量を可視化・環境性能表示へ014

Updated by 『森林循環経済』編集部 on May 01, 2025, 1:43 PM JST

『森林循環経済』編集部

Forestcircularity-editor

プラチナ森林産業イニシアティブが推進する「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の実現を目指します。森林資源のフル活用による脱炭素・経済安全保障強化・地方創生に向け、バイオマス化学の推進、木造都市の実現、林業の革新を後押しするアイデアや取り組みを発信します。

東濃ひのきやスギなどの銘木を産出する岐阜県白川流域から、木材産業のGX(グリーントランスフォーメーション)を進める新たな取り組みが始まった。東濃ひのき製品流通協同組合は、白川ローカルサプライチェーン(LSC)の構成事業者と連携し、木材製品の製造工程におけるCO2排出量を可視化するプロジェクトを開始した。SaaS型のCO2可視化サービスを活用し、「環境性能を見て選べる木材」の実現を目指す。

木材の環境価値を伝える次のステージへ

白川流域(白川町、東白川村、中津川市加子母など)は、岐阜県東部に位置し森林率が高いエリアだ。東濃地域で育まれた「東濃ひのき」は、その緻密な木目と高い耐久性から、社寺建築や高級住宅の構造材として全国に出荷されている銘木である。

白川流域は、伐採・製材・加工・出荷までを地域内で完結できる「地産地消の木材供給圏」が形成されている。これまでも、木材の含水率や曲げ強度などの物理的特性を明示する「性能表示」に地域ぐるみで取り組んできた。今回から新たにCO2排出量と固定量を明記する「環境性能表示」に挑戦し、木材の環境価値を伝える次のステージへと踏み出した。

白川流域産材でCO2排出量を算定する場合の業種内訳

かつて、CO2排出量を正確にモニタリングするには多くのコストや専門知識が必要とされ、中小の林業・木材関連事業者にとっては実施が困難だった。しかし近年、より安価で簡易なサービスが登場したことで、手軽に排出量の可視化に取り組める環境が整ってきている。

白川LSCでは、CO2排出量の可視化・削減支援プラットフォーム「e-dash」を活用。電気やガスなどエネルギー関連の請求書をアップロードするだけで、CO2直接排出・CO2間接排出の量を自動で算出できるようになった。サプライチェーン全体の排出量についても業種別のデータを活用して、簡便に算出・可視化できる仕組みが整っている。こうしたシステムを通じて、白川流域の複数の製材・加工・流通事業者が連携し、地域全体で排出データを共有・蓄積する体制を構築しつつある。

地域材の競争力を高める狙い

木材は、その生産・加工過程においてエネルギーを消費し、CO2を排出する一方で、成長過程でCO2を吸収・固定する再生可能な資源としての側面も持つ。近年、カーボンニュートラルへの意識の高まりとともに、製品のライフサイクル全体における環境負荷を正確に把握し、低減していくことの重要性が増している。

木材が持つ環境優位性を定量的に示す取り組みはまだ限られている。特に環境価値を訴えるには、製造過程における排出量の明確化が不可欠だ。環境性能を製品ごとに可視化し、数値として表示することは、建材選定や公共調達などにおいてますます重要な要素となっている。白川LSCの取り組みは、単にサステナブルな木材を届けるだけでなく、環境配慮の証拠を明示できる体制を整えることで、地域材の競争力を高める狙いがある。

この地域では、伐採・製材・乾燥・加工といった工程を一貫して行うことが可能であり、「人と山が近い」サプライチェーン完結型の木材供給圏が形成されている。まさに、林業と製造・流通が地理的に一体化していることが、今回のCO2排出量の可視化を地域で実現する背景となっている。

今回の取り組みが注目されるのは、サプライチェーン全体におけるCO2排出量を網羅的に把握しようとする点にある。これにより、どの工程でどれだけのCO2が排出されているのかが明らかになり、具体的な削減目標の設定や対策の実施、さらには環境負荷の少ない木材製品の供給へと繋がることが期待される。

環境性能の可視化は、単なるCO2の数値ではない。信頼性ある環境データが、地域材の付加価値を高め、流通の透明性を担保する。それが健全な森林管理と地域経済の持続的発展にもつながっていく。林業地の中小事業者がテクノロジーを活用し、率先してCO2可視化に取り組むことの意義は大きい。

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