Forests as a starting point, their management and challenges
Updated by 小林靖尚 on May 11, 2025, 2:05 PM JST
Yasuhisa KOBAYASHI
株式会社アルファフォーラム
株式会社アルファフォーラム・代表取締役社長、プラチナ森林産業イニシアティブ・ステアリングコミッティー 1988年早稲田大学理工学部応用化学科卒、三菱総合研究所主任研究員(住環境担当)を経て、同社のベンチャー支援制度を活用し2011年に株式会社アルファフォーラムを設立。以降、木材利用システム研究会(常任理事)、 もりもりバイオマス株式会社(顧問)、富山県西部森林活用事業検討協議会(事務局)等を歴任。2023年9月には木材利用システム研究会賞を受賞。
森林経済の未来を考えるとき、その出発点はとりもなおさず山林という〝現場〟だ。株式会社三菱総合研究所に在籍後、プラチナ構想ネットワークのスマート林業WG事務局で主任研究員を務めるなど、同分野のキャリアも長い株式会社アルファフォーラム代表取締役社長の小林靖尚氏に、山林経営の現状と課題について伺った。
「三菱総研時代、住宅関係の研究から木材の研究に進んだ、ということもあり、エンドユースの視点から木材、木、森、さらには林業全体を考える訓練ができたのかもしれません。当時の日本では、建築に使う木材の品質についても昔ながらの規格頼みで、現状に合った基準は未整備のまま。その間にも、規格化されて安価でそこそこ強度があり、見栄えもいい海外製の集成材が国内市場へどんどん入ってきていました」
そうした事態に直面し「内地材に戻す手を打っておかないと、日本の林業は大変なことになる」との危機意識をもった小林氏。構造計算に基づく合理的な設計や建材の研究を進めるうち、手がけるコンサルティング分野も木造建築物工構造から、より広い森林資源へと拡大していく。お手本に選んだのは、林業の先進国として輸入材の多くを占める欧州、特にオーストリアだった。
「平地に森があって林道をつくらずに端から伐採・運搬ができる北欧に比べ、オーストリアの林業はほとんどがアルプスの東側の斜面で営まれています。条件的には日本と近いのですが規模は桁違いです。毎年2500万立米近い森林を出荷できるまでに育った分だけどんどん伐って、さらにどんどん植えて、働いている人にも活気と誇りがある。子どもが親の運転する大きなハーベスタ(伐倒・枝払い・玉切り用の機械)に一緒に乗り、『僕も林業やるんだ!』なんて目を輝かせる姿、日本では見たことがありません」
効率良く、持続的で、従事者たちも生き生きと働く、日本とはまるで違う林業のあり方を前に小林氏が感じたのは「森の循環とは、すなわち人の循環」という点。資源としての木が動くと同時に、森を中心にしたコミュニティ全体が活性化しない限り、本当の意味で持続可能な「林業再生」は成功しない。
「そんなころ、三菱総研時代の仲間のひとりから『地元の福井県で、バイオマスによる熱供給事業で町おこしをしたい』と声をかけられ、これは何かできる!と飛び込んだのが、今、あわら市で展開中の『もりもりバイオマス株式会社』です。設立メンバーを連れてオーストリアへ見学と研修に行き、とにかく『これをこのまま真似てやりましょう』とスタートして8年。森林組合を巻き込んでの森の管理から木材の運搬、さらにチップ化、熱供給にいたるまで、すべてを地元で行い、初年度からコンスタントに利益を出し続けています」
地場の金融機関も加えた全体のコンサルティングをアルファフォーラムが担当し、自治体がオブザーバーとなった〝オール福井〟による民民連携のプロジェクトと言えようか。おもに杉や広葉樹の二次林に残された未利用木材(間伐や主伐後の放置木材)から得たチップを燃料に、ホテル等への温水ボイラ導入で熱供給を行い、需要者が「熱エネルギー」を購入。あわせて植林による高齢・荒廃した森の更新を行うことで、熱供給の際に発生した分のCO2を吸収する流れだ。
「同じバイオマスでも熱源に特化したのは、送電時などにロスが大きい発電ではCO2の排出とのバランスが取れないと考えたためです。ただ、課題はチップの安定供給で、これを確保するためにも肝心なのは、やはり山と森のあり方だ、と痛感しました。そこで2024年からは、同じく北陸の富山県で、高岡市を中心にした県西部の森林フル活用事業に参画しています」
ここでは、県が主導する富山県西部森林活用事業検討協議会の中核メンバーとして、「もりもり」では直接タッチしなかった〝川上〟にも積極的に関与しているという小林氏。なかでも強く推し進めようとしているのが、①山や森を集約し、②意欲ある業者の自伐をしやすく、③地元にお金がきちんと落ちる――そのための仕組みづくりだという。
「林業というのは、1000ヘクタールレベルで大きく計画できないと、事業として成り立ちません。ところが、現在は1970年代以降に植林された木が相当の部分を占めていて、そのような山は外材との価格競争に負けて間伐もされず、荒れ放題のまま。特に人里に近い里山では、ご高齢の所有者が適価で譲ってくれなかったり、若い世代が受け継いだところでは、今度は相続権が複雑で『どこまでがうちの山なのかよくわからない』という話になったり」
こうした事態を受け、2019年に施行された森林経営管理法では、市町村が所有者不明などで管理できないままの山林を意欲と能力のある業者に委ねられるとしているが、いざとなると所有権侵害を恐れた自治体側が二の足を踏むことも少なくないという。
「登記手数料は業者がもつことになっており、管理によって放置されていた森の利活用が進むわけで、地元にとってはいいことづくめのはずなんですが。現実に、わずか1ヘクタール、0.5ヘクタールの所有権が〝壁〟になってしまうこともしばしばです。むやみな権利の侵害はあってはならないにしても、山や森は公共資源であるという機運、共通認識を地域でもっと醸成する必要を感じます」
そもそも傾斜地が多く、伐採と運搬が大きなハードルとなってきた日本の林業。それが、里山の所有権問題でわざわざ奥山の木を伐らねばならず、キロ単位で作業用の林道をつくるというのでは間尺に合うはずもない。
「そのためにも、『林業は儲かる』という事実を一つひとつ積み重ねていくことが大切。『もりもり』での成功などを広く知ってもらうことはもちろんですし、技術面でも従来のハーベスタを用いての車両系オンリーから、索道を使って林道なしに効率的な運び出しを可能にする架線系のタワーヤーダの導入や器材のリースなど、意欲ある自伐業者の参入へ効率化と省コスト化を進めたい。製材にしても、和室でしか求められない大きな丸太のスライスといった高コストの加工ではなく、集成材をはじめとする建材や家具材にシフトし、きちんとお金の残る形の買い上げなどを考えるべきでしょう」
加えて、富山県西部を中心とする北陸では信託銀行も入れた枠組みで、山主に森林を信託してもらい、そこから生まれる利益を戻す「森林金融」も計画中という小林氏。
「それも単なる配当ではなく、都市部の石油関係、化学関係の企業が匿名出資組合の中心になる合同会社が信託受益権を所有する。投資家への配当にCO2の排出権を含める仕組みです。そうすれば、1ヘクタールあたり年間8トンを吸収……作業用の重機がCO2を出す分と差し引いても7トンくらいは十分いけますので、相対取引なら年間7万円になります。僕たちは、排出権はいりませんので、山主さんから山を集めて林業の再生に本腰を入れていければいい」
これら小林氏の発想の基本には、林業に代表される里山資本を通じ、コミュニティを核にした地域経済を日本の未来像にしたいという想いがある。
「林業ではコストの大半が運搬費と言われるくらい大きな比重を占めています。加えて移動は環境に大きな負荷がかかります。現在のように、東京一極にヒトとモノを集めた状態というのは、それらを運ぶのに大量のCO2を放出しているということになります。電気自動車、水素自動車と言いますが、その製造コストも勘案すれば、仮に70万キロ乗ったとしても間尺に合わないはず。言い方は少し過激になりますが、食べ物も、エネルギーも、高層ビルも含め、過剰な消費と引き換えに膨大なCO2を出している東京に暮らすのは恥ずかしい、と感じる時代がすぐそばに来ている。それに気がついている人はまだ少数派、ということじゃないでしょうか」
プラチナ森林産業イニシアティブに対しては「蓄積した客観的な研究データを基に、2050年のCN(カーボンニュートラル)も視野に入れたあるべきサプライチェーン、山林保全面積の目標を立てるなど、忖度のない提言をしてもらいたいですね」と、自ら事務局側にも関わる立場から答えた小林氏。
「そのためにも、関係者の皆さんにはぜひ現場である山に来てほしい。伐採の現場、製材しているところ、運搬の実際、値付けのされ方……そういう一連を見てこそ、フォーラムとしての実りある活動が生まれると期待します」
締めくくりに、少々厳しい〝注文〟も忘れなかった。