What are the "choice" domestic structural and interior materials? Differentiation through collaboration with building material manufacturers and designers is the key to growth
Updated by 加藤聡悟 on August 13, 2025, 8:15 PM JST
Sougo KATO
株式会社リーフレイン
金融機関でハイテク分野の企業調査に携わったのち、造園建設現場における監督業務を経て現在独立。素材産業や再生可能エネルギー、木材利用の分野に関心を持ち、近年は林業に関する企画執筆に取り組んでいる。かつて現場を通して山林作業に携わった体験を背景に、現場のリアルと産業構造の接点を探る執筆を目指している。
木材の総需要は長期的に減少傾向にあり、特に国産材の主用途である建設用材は、戸建て住宅着工数や人口動態の影響で縮小が懸念されている。一方、国産材の自給率は2023年に43.0%まで上昇。2014年頃から始まった木質バイオマス需要の拡大により林業の収益性が改善し、さらに近年ではウッドショックや円安による輸入材高騰の代替需要が後押ししている。需給の絶対量は大きく伸びていないが、国産材は競争力を回復し、生産量も増加傾向にある。
ただし、円安や地政学リスクといった外部要因は中長期的観点からは一過性であり、今後のさらなる持続的発展には川下産業、特に構造材・内装建材業界の動向がカギとなる。これら業界はウッドショック後に価格反動を受け、さらに新築戸建ての減少により収益性が悪化傾向に。現在は新築戸建て依存から脱却し、リフォームや非住宅建築への展開に注力している。加えて、建築物の木質化推進政策により、非住宅木造建築の成長も注目される。
構造材業界では、学校や保育園、福祉施設、商業建築など一定規模の建物で木造化が可能となる建築基準法の改正が進み、非住宅分野において集成材をはじめとする構造材の需要が拡大している。
非住宅建築では、耐火性・構造強度・耐久性などが厳しく求められ、使用される集成材にはJAS認証が一般的に必要とされる。従来、非住宅向けの集成材は輸入材がコストや安定供給の面で優位とされ、国産材、とくに地域材の活用には構造的なハードルがあった。
木材産業は地産地消型の構造を持ち、多くの地域で中小の製材所が地域資源を活かした製品を供給しているが、JAS認証には高額な設備投資と管理コストが伴うため、中小製材所にとっては大きな負担となり、結果として中規模建築に活用しづらいという課題がある。
この課題に対し、岐阜県では独自の取り組みを進めてきた。森林資源が豊富で、木材加工業者が多い岐阜では、JAS未取得の中小業者でも一定の性能を証明すれば建築用途に供給できる制度が整備されている。具体的には「ぎふ性能表示材制度」と呼ばれるもので、含水率やヤング係数、強度などの物性値を第三者機関が測定・表示し、JAS認証材と同等の信頼性を担保する。
この制度により、岐阜県内では地域の木を、地域の加工業者が扱い、地域の建築に使うという循環が、非住宅建築でも現実的に実現している。他県では制度が整わず、大手企業のJAS認証材に依存せざるを得ないなか、岐阜では行政・業界団体・設計者が連携し、制度と流通の工夫によって地域独自の道を切り拓いている。これは単なる技術的対応ではなく、制度設計が木造建築の持続可能性を支えることを示す好例である。
一方、住宅用建材メーカー各社は、従来の戸建て向け大量供給型モデルからの転換を迫られている。共通の方向性は、「非住宅市場への進出」、「リフォーム対応の強化」、「機能性・高付加価値製品へのシフト」の3点に集約される。
非住宅分野では、病院や介護施設、学校など一定の需要が見込まれ、永大産業の「セーフケアプラス」やノダの「ケアシスト」など、安全・バリアフリー性に配慮した内装建材が投入されている。リフォーム市場向けには、省施工製品の開発も進んでいる。たとえばウッドワンの「スリム側板」は、下地の有無を問わず棚設置が可能で、現場作業の効率化に貢献する。
こうした動きを俯瞰すると、内装建材のトレンドは「省施工」、「安全・バリアフリー」、「高耐久」、「高意匠・工業化」の4点に集約される。中でも意匠性と施工性の両立を追求したパネル・ユニット化の流れは加速しており、建材には工業製品としての完成度が強く求められている。
このような市場環境のなか、国産材の内装用途での存在感は依然として限定的とみられる。感性価値やストーリー性は評価される一方で、反りや節の多さ、柔らかさなどの物性や、寸法モジュールの不統一、施工手間の多さが実用化の障壁となっている。
コスト効率や標準化が求められる一般流通建材の領域で、国産材が直接競争するのは現実的ではないだろう。だが、建材メーカーの高付加価値化の流れに対し、国産材は素材の質感やストーリーに価値を見出す方向で補完的な役割を担えるのではないかと考えられる。重要なのは、扱いやすさを備えた「準工業製品」への転換であり、建材メーカーや設計者との協業による差異化戦略が成長のカギを握る。
たとえば国産ヒノキを台座に使い、広葉樹の化粧材を貼り合わせたフローリングは、耐久性・意匠性・物語性をバランスよく備えた好例だ。プレカットやモジュール化による省施工対応、非住宅展開などを含め、「現場発想の製品設計」が今後のスタンダードとなるだろう。
国産材を「感性訴求」で終わらせず、都市生活に対応した「実用的な選択肢」へ育てること。これこそが、日本の木材産業が次のステージに進む現実的な出発点である。
国産材の活用には、用途や産業構造に応じた課題と可能性がある。構造材では、自治体・木材メーカー・林業の連携による制度整備と流通の工夫が引き続き重要となる。内装材では、リフォームや非住宅向け製品が広がるタイミングに合わせ、「準工業製品」としての精度や施工性を備えた対応が求められる。
林業・製材業には、素材の魅力を都市の建築ニーズに翻訳し、協業を通じて具体的な価値へとつなげる姿勢が期待される。制度と現場、素材と都市をつなぎ直すことが、国産材を社会に根づかせる現実的な一歩となるだろう。(株式会社リーフレイン 林業ライター 加藤聡悟)