• 執筆者一覧Contributors
  • ニューズレター登録Newsletter

十津川「空中の村」から学ぶ、森を守り地域を育てるアウトドア体験 フランス出身起業家が届ける「大人の遊び場」128

Learn from Totsukawa's "Aerial Village": Outdoor experiences that protect forests and develop the community

Updated by 金本望 on September 05, 2025, 9:43 AM JST

金本望

Nozomi KANEMOTO

株式会社リーフレイン

2021年(一社)日本森林技術協会に入協。ODA事業森林分野に複数従事し、GHG排出削減量の計算やプロジェクト運営管理を担当。2024年に独立し、現在はフランスを拠点として森林分野で活動中。

日本は豊かな森林資源を有していますが、放置された里山林(※1)の問題や林業従事者の減少(※2)など、森林の管理や活用には依然として課題が残されています。森林を守りつつ、いかに持続的に活用していくかは、環境保全や地域振興の観点からも重要なテーマです。こうした課題に対して、新たな視点で事業を展開しているのが、奈良県十津川村にある「空中の村」です。

森林に関わる活動を志して十津川村に移住

本事業を手掛けたのは、フランス出身のジョラン・フェレリ(Jolan Ferreri)氏。大学院留学を機に来日し、森林や林業に関わる活動を志して十津川村に移住しました。フェレリ氏の企画で誕生した「空中の村」は、吊り橋を渡り、ツリーハウスでコーヒーを味わい、夜は木々に囲まれて眠るなど、森と一体になるアウトドア体験を提供しています。

「空中の村」とフェレリ氏(写真:フェレリ氏提供)

※参照1:林野庁『里山広葉樹林の利活用を通じた再生に向けての提言』p4(2025年8月20日閲覧)
※参照2:林野庁「林業労働力の動向」(2025年8月20日閲覧)

フランス流「森を楽しむ文化」が原点に

フェレリ氏の発想の背景には、彼が育ったフランスの森文化があります。フランス南東部グルノーブル近郊で育ったフェレリ氏は、子どもの頃から森の中で遊ぶことが日常で、自然の中で過ごす時間は生活の一部でした。

フランスでは、森林は単なる資源ではなく、レクリエーションの場としても広く活用される文化が根付いています。国有林管理局(ONF)の推計では、年間の森林来訪者数は約7億人にのぼり(※3)、森はフランスの人々の暮らしに欠かせない存在となっています。

「空中の村」(写真:フェレリ氏提供)

このような環境で育ったフェレリ氏が日本に来て最も驚いたのは、「大人が山で遊ぶ感覚を持っていない(※4)」という点でした。加えて、過疎化や林業の衰退によって森林が十分に活かされていない現実も目の当たりにします。こうした課題を前に、フェレリ氏はフランス流の森の楽しみ方を取り入れ、森林活用と地域活性化を両立させる新しいビジネスに挑むことを決めました。

※参照3:République français「Accueillir le public en forêt」(2025年8月20日閲覧)
※参照4:スタジオパーソル「人口3,100人の秘境の村で、MBA取得のフランス人が「森の遊び場」をつくった理由」(2025年8月20日閲覧)

自然と地域に寄り添う誠実な取り組み

フェレリ氏が事業運営で特に重視しているのは、「木への配慮」「地元資源の活用」「環境と体に優しい体験」の三つです。建設には、地元産の木材や間伐材を使用。木に負担をかけないように「あて木」を使って施工し、冬にはワイヤーを緩めて木への負担を軽減する工夫も施しています。

場内では地元住民が焼いたクッキーを販売するなど、地域の人々も巻き込みながら事業を運営。宿泊・飲食・体験型観光を組み合わせることで滞在時間を伸ばし、地域経済への波及効果も期待されています。「日本の秘境にフランスから来た大人の遊び場(※5)」として、環境に優しく、地域に新たな活気をもたらす持続可能な取り組みが進められています。

宿泊可能な空中の村「ツリーハウス」(写真:フェレリ氏提供)

※参照5:空中の村 公式サイト「空中の村とは?」(2025年8月20日閲覧)

「森を楽しみながら守る」持続可能な共生モデル

2020年のオープン以来、「空中の村」は地域と森林をつなぐ新しい観光資源として評価されています。2021年には、地域活性化や所得向上に貢献するモデルとして『ディスカバー農山漁村の宝アワード 第8回 ビジネス部門 空中に輝く新林賞(※6)』を受賞。さらに2022年には、年齢を問わず多くの人々に森の魅力を伝える事業として、『はなやかKANSAI魅力アップアワード 第5回 モデル性部門 特別賞』も受賞しました。

フェレリ氏は、このように語ります。
「私が描く未来は、木々や森を活かした新しいアウトドア体験を通じて、人々を再び森へと呼び戻すことです。大規模テーマパークのように拡大するのではなく、小規模のまま心地よく働ける環境を大切にし、訪れる人々と近い距離でつながり続けること。自然の魅力を健全で環境に優しい方法で伝え、森と人との距離を縮めることこそが、私の目指す森林ビジネスの核となっているのです。」

「あて木」を添えてワイヤーを巻くなど、木の負担を軽減する工夫を施す(写真:フェレリ氏提供)

※参照6:空中の村 公式サイト「AWARD」(2025年8月20日閲覧)

森の可能性を未来へ広げる

十津川の「空中の村」は、森林を癒しの場として提供するレクリエーション空間、地域復興の起点、森の魅力を伝える場として発展してきました。この取り組みは、森林の持つポテンシャルを活かすことで、地域課題の解決や新たなビジネス機会の創出につながる可能性を示しています。

十津川地元住民にも親しまれるフェレリ氏(写真:フェレリ氏提供)

森をどのように守り、どのように活用していくのか。その答えは地域ごとに異なります。しかし、フランス流の「森を楽しみながら守る」という思想とフェレリ氏の取り組みは、今後の地域づくりや森林ビジネスにおいて大きなヒントとなるでしょう。(株式会社リーフレイン 森林コンサルタント 金本 望)

Tags
森林循環経済 Newsletter
ニューズレター(メルマガ)「森林循環経済」の購読はこちらから(無料)
JA