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【新刊】『森林生態系の保全管理 – 森林・野生動物・景観』 深刻化する獣害など複合課題を読み解くリテラシーとして「森林美学」に着目174

Updated by 『森林循環経済』編集部 on October 06, 2025, 8:57 PM JST

『森林循環経済』編集部

Forestcircularity-editor

プラチナ森林産業イニシアティブが推進する「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の実現を目指します。森林資源のフル活用による脱炭素・経済安全保障強化・地方創生に向け、バイオマス化学の推進、まちの木造化・木質化の実現、林業の革新を後押しするアイデアや取り組みを発信します。

クマやシカによる獣害が深刻化し、森林の生態系と地域社会の双方に影を落としている。科学的分野の細分化が進むなか、現場で知識を統合し解決へと結びつける力が問われている。『森林生態系の保全管理』では森林風致計画学・野生動物管理学・森林生態学などの知見を横断。「森林美学」という視点を、人間の風景認識を通じた“総合的な森のリテラシー”として再構成し、複雑化する森林課題に挑むための道筋を示している。

森林・環境課題の解決へ専門知を統合

現在、森林を取り巻く課題は極めて複雑化している。林業現場では、日本の人工林の本格的な利用期到来とともに、気候変動対策、生物多様性保全、そして特に世間を騒がせている野生動物による食害(獣害)への対応が同時に求められている。

従来の森林科学は、これらの課題に対し個別の専門分野で深い知見を蓄積してきたが、その結果、専門知が細分化・断片化し、現場でそれらを統合し、実効性のある施策へと結びつけることが困難になりつつある。

本書は、この「専門知の断片化」という現代的な課題を乗り越えるために登場した。古くから森林管理の思想として存在した「森林美学」を、単なる景観論ではなく、複雑化する課題に現場の人間が対応するための「森林管理のリテラシー」として再定義。これは、現代の政策要求である「生態系サービスの持続的な確保」と「地域経済の活性化」を両立させるための、分野横断的な統合アプローチを提示する未来志向の試みといえる。

森をヒューマンスケールで見つめ直す

本書は、森をヒューマンスケール(人の目線や暮らしの感覚)で見つめ直す「森林美学」の立場から、森林・野生動物・景観をつなぐ新しい保全のかたちを描き出す。

第一部「日本の人工林の課題と対処」では、現代の森林の健全性を脅かすニホンジカやクマ類による生態系へのインパクトを詳細に分析し、これを踏まえた施業方法に焦点を当てている。森林のゾーニング、林縁効果、将来木施業、混交林化、自伐林業など、具体的な技術や施業事例を紹介することで、野生動物の管理と両立する持続可能な人工林管理の実践方法を提示している。

第二部「生態系サービスと森林空間活用」では、森林の多面的な価値に注目する。森林景観の創出・保全に加え、都市林や都市近郊林の管理、環境変化への適応としての潜在自然植生、巨樹の保全といったテーマを扱い、社会資本としての森林の価値をどう活用し、地域社会に還元するかという視点を提供する。

そして第三部「近現代における森林利用の変遷と展望」では、ドイツで発展した森林美学の歴史的変遷と現代的意義を再検証し、未来の森林管理のあり方を展望する。野生動物の管理を「自然資本としての森林資源の再生」における最も重要な要素の一つと位置づけ、生態系全体を視野に入れた管理の必要性を強調している点が最大の特徴といえる。

本書の編者は、北海道大学、東京農工大学といった教育・研究機関の第一線で活躍する4名によって構成されている。造園学(景観・計画)、野生動物管理学、森林生態学(樹木・菌類)という、現代の森林課題に不可欠な専門分野を網羅的に統合しており、本書が目指す「分野横断的な統合的リテラシー」の理念を具現化している。

持続可能な森林と地域の実現へ

「森林美学」は、景観という人間の感性を介して森林の多様な価値を把握し、それを科学的・技術的な管理手法に結びつける。これは、単なる利用か保護かという二元論を超え、環境と地域経済を調和させる「ヒューマンスケールでの解決策」を模索する上で、最も重要な視点を提供する。

本書は、持続可能な森林管理の実現に向けた現代的な解のヒントを提示している。森林産業の未来を担うビジネスパーソン、政策を立案する行政関係者、そして研究者にとって、未来の森林をデザインするための確かな指針となるだろう。

出典:Amazon

【書籍情報】
『森林生態系の保全管理 – 森林・野生動物・景観』
編者:上田裕文、梶光一、宮本敏澄、小池孝良
出版社:共立出版
発刊日:2025年9月29日
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