The value of wood education that captures "space"
Updated by 青木和洋 on December 11, 2025, 7:26 PM JST
Kazuhiro AOKI
株式会社WSense 代表取締役 / DELTA SENSE 製作委員会
株式会社WSense 代表取締役 / DELTA SENSE 製作委員会 福島県会津若松市出身。華道/茶道/能楽を嗜む家柄で、幼い頃から日本文化に触れて来ました。木に興味を持ち始めたのは、宮大工の「カンナ削り」を目撃して業の奥深さに気付かされた時から。現在は神主として得た知見を基に公益に繋がる取り組みを推進中。東京青年会議所所属 / 大学院卒、MBA(経営学修士)取得 / 4歳の頃からボーイスカウトとサッカーも両立中。DELTA SENSE 公式HP 株式会社WSense
森は、一度壊れても、時間をかけて何度でも甦る力を持っています。
倒木が光を呼び込み、苔が土を覆い、小さな芽が少しずつ景色を変えていきます。
この「折れても、揺らいでも、戻っていける力」を、私たちはレジリエンスと呼びます。
人口減少や気候変動、災害リスク、担い手不足といった課題に向き合う森林・地域の現場にとって、いま最も必要とされているのは、まさにこのレジリエンスではないでしょうか。
しかし、現場に立つ人びとの時間は、森とは逆方向に流れています。
「止まらないように」「折れないように」「常に成果を出し続けるように」と押し出され続けるなかで、揺らぐことや迷うことに「ダメなこと」というレッテルが貼られがちです。
そのギャップを埋める鍵として、私は「木育 ✕ 神道」 という視点が、とても大切になってくると感じています。
日本では昔から、森は資源であると同時に「神さまのいる場所」としても大切にされてきました。
言い換えれば、鎮守の森や社(やしろ)の存在は、生活のすぐそばに「立ち止まり、耳を澄ますための間(ま)」を用意していたとも言えるでしょう。
祝詞(のりと)が唱えられるとき、ことばと言葉のあいだには、必ず「間(ま)」があります。
沈黙の一拍が入ることで、意味が深く浸透し、場全体の空気が整っていきます。

森も同じように、「間」を保ちながら生きています。
・大雨で倒れた斜面が、すぐには元に戻らず、何年もかけて再生していくこと
・手入れをした直後にはまだ不安定でも、数年後にようやく森の表情が落ち着いてくること
・一度失った多様性が、時間をかけて少しずつ戻ってくること
つまり、森のレジリエンスとは、「揺らぎをなくすこと」ではなく、揺らぎを含んだまま、全体として整っていく力と言えるでしょう。
この感覚を、人やコミュニティのあり方に重ねるときに必要なもの。
それが、「間」を意識した木育だと考えています。
木育の場では、木材や森林の知識だけでなく、木そのものと向き合う時間があります。
手のひらで木肌の温度を感じ、香りを吸い込み、年輪や木目の揺らぎを眺める。
一見ささやかなその時間の中には、「間」がたくさん含まれています。
そう、私たちの呼吸は木と向き合う度に自然と深くなっていく。
子どもたちも、大人も、最初はにぎやかにしていても、気づけば木の手触りや模様に集中し、会話のテンポがゆっくりになっていきます。
では、この「急がなくていい時間」は、何のために必要なのでしょうか。
それは、端的に言えば、「揺らいだ時に戻るための余白づくり」のためです。
・少し迷ってもいい
・すぐに答えが出なくてもいい
・相手と同じでなくてもいい
こうした感覚が育っていくと、人との関係も、チームの関係も、いきなり「切れてしまう」状態から少しずつ遠ざかります。
つまり、森のレジリエンスに学ぶ木育とは、木と向き合うことで「間」を取り戻し、人と人とのあいだにしなやかなクッションをつくる営みだと言えるのではないでしょうか。
日本の森には、古来より「目には見えないものと出会うための作法」が受け継がれてきました。
神社の拝殿に向かうとき、私たちは自然と歩幅を整え、胸の奥のざわつきをそっと置いて、ゆっくりとした呼吸に戻ります。
これは単なる慣習ではなく、心と場を整え、“聞く姿勢”に戻るためのプロセスです。
神道では、木や石、紙でつくられたものは「依り代(よりしろ)」と呼ばれます。
目に見えない想いや祈りがそこに宿り、人びとは依り代を介して、自分の内側の声と向き合うのだと。

木でできたDELTA SENSEカードは、 この依り代と非常に近い働きを持っています。
一枚一枚、木目が異なり、手に取ると微かに香り、木目がひとつとして同じものがない。
自然が刻んだ“揺らぎ”そのものがカードの中に息づいています。
そのため、人は、カードを前にすると自然と呼吸が深くなり、 自分の意見を押しつけるのではなく、“聞く姿勢”に戻る準備が整うのです。
これは、祝詞(のりと)が唱えられる場に流れる、あの独特の「間(ま)」ともよく似ています。
また祝詞は、 人が心に抱えてきた思いを、ことばにして世界へ解き放つものでもあります。
そして「言霊(ことだま)」という言葉が象徴するように、言葉には人と場を整える力が宿ると考えられています。
DELTA SENSEカードは、まさにその現代版です。
カードに描かれた象徴は、ただのアイコンでも、ただの言葉でもありません。
・「いま、あなたの内側にどんな揺らぎがあるのか」
・「あなたはどの方向に未来を見ているのか」
・「この地域や森に、どんな願いを抱いているのか」
こうした“奥に隠れた本音”を引き出し、対話の場にやわらかく乗せていくことで、祝詞と同じように、沈黙していた思いへ光が差すのです。
参加者は、自分が選んだカードを通じて、普段なら言いにくい意見や、不安や葛藤、願いを語り出します。
言い換えればこれは、「人が語っている」のではなく、「カードが語らせている」状態です。
こうして生まれた言葉は、攻撃性を帯びず、場に浸透するように広がっていきます。
SDGsに端を発した循環経済に関わる現場では、どうしても「折れないこと」「持ちこたえること」に意識が向きがちです。
しかし、森の営みを見ていると、完全に折れないことを目指すよりも、 折れても、揺らいでも、戻ってこられる構造の方が、長い時間軸では強いことが分かります。
そして木育は、人の中にその感覚を思い出させてくれるものと位置づけられるのではないでしょうか。
その意味では、DELTA SENSEとは、コミュニティや組織の中に、その構造をつくる手助けをしてくれるものだと言えるでしょう。
・忙しさの中でも、立ち止まる「間」を持てているか
・意見がぶつかっても、関係が切れずにいられる余白があるか
・困難な状況でも、「一緒に考え直そう」と言える土台があるか

こうした問いに「はい」と答えられるほど、その現場にはレジリエンスが宿っていると考えられますが、皆さんの組織はいかがでしょうか。
森は、早く変わろうとはしないものですが、確実に変わっていくものです。
倒れた木は土に還り、やがて新しい芽が生まれ、いつの間にか、別の表情をした森になっています。
私たちの現場やコミュニティも、本来は同じはずです。
急激な変化だけを求めるのではなく、「間」を保ちながら、何度でも甦る力を育てていくことが、これからの森林循環経済にとって大切なテーマだと感じています。
森のレジリエンスに着想を得た「間」の木育。
そして、対話を育む木のカードゲーム。
この二つは、折れても戻れる現場づくりのための、ささやかですが確かな一歩になるのではないでしょうか。
そして、親子の対話が一往復増える。面接でひとこと深い問いが生まれる。
地域で知らない人同士が、カードを合図にことばを交わす。
そんな小さな接点の積み重ねが、やがて文化を変え、経済を変え、森を変えていくのだと私たちは信じています。
DELTA SENSEカードに少しでもご興味頂けた方は、ぜひ一緒に歩んでいきましょう。
(株式会社WSense 代表取締役 / DELTA SENSE 製作委員会 青木 和洋)