[Austria Inspection Report] The balance of culture, environment, and structure is the key to "high-quality forestry"
Updated by 小林靖尚 on December 25, 2025, 9:35 AM JST
Yasuhisa KOBAYASHI
株式会社アルファフォーラム
株式会社アルファフォーラム・代表取締役社長、プラチナ森林産業イニシアティブ・ステアリングコミッティー 1988年早稲田大学理工学部応用化学科卒、三菱総合研究所主任研究員(住環境担当)を経て、同社のベンチャー支援制度を活用し2001年に株式会社アルファフォーラムを設立。以降、木材利用システム研究会(常任理事)、 もりもりバイオマス株式会社(顧問)、富山県西部森林活用事業検討協議会(事務局)等を歴任。2023年9月には木材利用システム研究会賞を受賞。
パスポートのスタンプの数からすると、25回目のAustria(オーストリア)出張だった。今回は私を入れて16名のグループで、プラチナ構想ネットワークとの共同企画にて実施したAustria森林業の視察ツアーであった。私は林業~製材所~木造建築~木質バイオマス利用熱供給事業などAustriaとも幅広くネットワークを作ってきたつもりだ。特に木質バイオマスボイラを使った地域熱供給事業には興味があり、Austriaの木質バイオマスボイラメーカの基礎研修を受講しにいったこともある。どこに行っても技術研鑽と開発意欲は高く、行くたびにさらに先を進んでいる実績に驚かされる。林業も木質バイオマス熱供給事業も「競争」を意識して切磋琢磨の関係が羨ましい。
今回は2025年11月30日に羽田から出国し、12月7日に帰国。現地6泊の行程だ。林業に詳しくない方や、初めて欧州の林業を見るメンバーもいらっしゃったので、在日本Austria大使館にお願いして、Vienna(ウィーン)のBOKU大学(Universität für Bodenkultur Wien)とGraz(グラーツ)から近いPichl研修所という2つの公的な機関に行ってプレゼンテーションを受け、さらに現場視察も行った。

そもそも森林に触れること、活用していくことは「公共事業」の位置づけが濃い。私は欧州の歴史についてモノ申せるほどわかっていないが、自国の土地、土壌、空気(気候)からくる「恵み」については日本よりも認識が高く、Pichl研修所の所長からも「温暖化しているので、次に何を植えて育てて活用するか?」は大きな課題であり検討が進んでいる…という言葉は重たかった。次世代に引き継ぐ森林資源について「とりあえず」はない。
私はAustriaの森林業を「高品位森林業」と位置づけ、その要素3つで説明してみたい。
一つは「環境の質:Quality of Environment(QOE)」だ。海のないAustriaにとっては、カーボンニュートラル実現には森林の徹底的な保全整備と活用が第一にある。成長する量の90%程度の素材生産を毎年計画的に実施しており、これをフォレスターの連携によって情報を共有している点は見習うべきと思う。実は、8000~10000haを管理する上級フォレスターは、BOKU大学(直訳すると土壌大学)の必要な単位をとることが条件となっているので、BOKU大学が森林情報をとりまとめ分析しているといっても過言ではない。

次に「文化の質:Quality of Culture(QOC)」である。グローバル化が当たり前になっている現代日本では、集落や地域のコミュニティーが希薄になったり、活力がなくなっているとの指摘がある。Austriaも観光産業を含めグローバル化が進んでいるが、集落や地域はそれぞれがきれいに維持されているように見える。教会の存在も大きいと思われるが、林業や農業の一次産業がしっかりとしていることが、集落の活力につながっている。
グローバル化は利用するものであって、地域コミュニティーを重視・先行させる雰囲気が好きだ。Austriaでの林業は安定した産業として位置づいており、中学生の段階で林業について学び始めることができるそうだ。今回は高性能林業機械メーカーのコンラッド社の工場も視察させていただいたが、複数人の20歳以下の若者が工場での研修を受けて、溶け込んでいる姿が印象的であった。分野を明確にすること、確固たる信念と近しいコミュニティーを重視する文化が基礎となっていると思った。
3番目に「構造の質:Quality of (Business) Structure(QOS)」だ。カッコ書きでビジネスを入れてもイメージし易いと思うが、林業において素材生産量を向上させたいから高性能林業機械を導入してみよう…ではなくて、稼ぐために(競争に勝つために)は一人当たりどれだけの生産量を上げなければいけないか? どのような林地を対象とするのか? そのための道具に求められる機能や性能は? を考えていくと、自ずと課題解決をして開発しなければならない内容が明確になってくる。機械が高価ならば、補助金や投資も検討するわけだ。日本の林業が競争していないとはいわない。しかし欧州の林業を見るたびに逞しいと思う。林道の仕様・規格も緻密に整理されており、安定して稼げる、海外と競争し続けられる構造(Structure)の質は高い。

この3つの「質」を全て考えバランスさせたところに「高品位森林業≒プラチナ森林業」がある。次回以降、日本の林業と比較したコラムも追加していきたい。(株式会社アルファフォーラム・代表取締役社長、プラチナ森林産業イニシアティブ・ステアリングコミッティー 小林靖尚)