How to develop "platinum talent" that can adapt to changing times: Turning education into a sustainable industry through "autonomous, decentralized collaboration"
Updated by 小宮山 宏 on January 16, 2026, 9:07 PM JST
Hiroshi KOMIYAMA
(一社)プラチナ構想ネットワーク
東京大学工学部教授、工学系研究科長・工学部長、東京大学総長(第28代)を経て、2009年三菱総合研究所理事長に就任。2010年プラチナ構想ネットワーク会長(2022年 一般社団法人化)。その他、STSフォーラム理事長、一般社団法人超教育協会会長、公益財団法人国連大学協力会理事長、公益財団法人国際科学技術財団会長、一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター理事長など。また、ドバイ知識賞(2017年)、イタリア連帯の星勲章(2007年。)や「情報通信月間」総務大臣表彰(2014年)、財界賞特別賞(2016年)、海洋立国推進功労者表彰(2016年)など、国内外の受賞も多数。
「知識詰め込み型教育はもう限界だ」と叫ばれ続けて半世紀以上が経過しましたが、教育現場の抜本的な変革はいまだ実現していません。しかし、生成AIの台頭によって、「正解」を教える教育は完全に賞味期限を迎えました。今、私たちに求められているのは、既存の教育システムを単に壊すことではありません。各地で芽吹いている優れた事例を繋ぎ、経済原理に乗せて持続させる「人財産業」を構築することです。自らの意志で挑戦し続ける「プラチナ人財」をいかに育むか。2026年に向けた「自律分散協調系」の教育ビジョンを提言します。
私が提唱する「プラチナ人財」には明確な定義があります。それは、「自分の意志で変わる勇気を持って、新しいことに挑戦し、自己実現を追求する人」です。
現代は変化のスピードが極めて速く、江戸時代のように「祖父母が見た社会と孫が見る社会が同じ」ではありません。企業が求めるニーズも数年単位で変容するため、指示待ちの人間や、特定のプログラミング言語の習得だけに固執する人間は、すぐに通用しなくなります。
AIという最強の「知識の宝庫」が登場した今、人間に求められるのは、AIには決して宿らない人間固有の「意志」を持ち、自らをアップデートし続ける力なのです。
プラチナ人財に必要とされるスキルは、複数の領域を横断してこなす能力です。現在、あらゆる産業の報告書が「人材養成が鍵である」と結ばれます。しかし、それぞれの専門家を一人ずつ養成していては「一億人いたって足りない」のが人口減少社会の現実です。
例えば林業一つとっても、苗の育成から経営、AI活用、何種類もある重機の管理まで多岐にわたる知識が求められます。特定の分野に閉じこもるのではなく、「林業のシステムが整えば、その知恵を隣の農業にも転用する」といった領域横断的な能力こそが、唯一の解決策となります。人間的な交渉力やAIの根本的な仕組みを理解していれば、どの分野でも活躍できるプラチナ人財になれるはずです。
プラチナ人財には、個別の課題を「メタ(俯瞰)」で捉える能力も求められます。
「メタ」と言っても難しく考える必要はありません。要は「山積する問題の中で、何が根本原因なのか」「どのレバーを引けば全体が解決するのか」を見極める思考法です。この俯瞰的な視点を持つことで、独りよがりの課題解決に徒労することなく、資源自給、生涯成長、住民出資が調和(in concert)して機能する「プラチナ社会」の実現に向けた、最短ルートの実行が可能になります。

私は教育に携わる一人として断言しますが、実は教育に関して「全く新しいアイデア」など存在しません。現在語られている理想の多くは、100年前から言われ尽くしています。
例えば、羽仁もと子・吉一夫妻によって1921年に創立された「自由学園」が掲げた「生活と学びの一致」「自主自立」「画一的・詰め込み型教育への批判」は、驚くほど現代のプラチナ人財の理念と重なっています。私の秘書を務めた女性の一人も自由学園の出身でしたが、その教育の影響を受け、見事に自立していました。
問題は新しいアイデアを出すことではなく、既にある理想を今の時代に合わせていかに「実行」するか。その一点に尽きるのです。
明治以来の中央集権的な教育システムを、行政主導で一気に作り変えるのは不可能です。創造性のない教育を受けてきた者が、創造性のある人材を育てる仕組みを作ることは極めて困難だからです。
だからこそ、強い意志を持った教育者が全国各地で成功させている「点の事例」をネットワーク化する「自律分散協調系(in concert)」の構築が重要になります。
軽井沢の「ISAK(アイザック)」では、小林りん氏が多くの財界人から寄付を集めて国際的な学びの場を作りました。徳島県の「神山まるごと高専」では、大南信也氏らが、学費無償化に向けた約100億円規模の奨学金基金の仕組みを背景に、「テクノロジー×デザイン×起業家精神」を実装しています。本城慎之介氏が軽井沢で設立した「風越学園」には、幼小中混在の一貫教育に共感した移住者が続出しています。これら実行された成功事例を模倣し、連携させることが、プラチナ人財育成の突破口となります。
優れた教育を全国で展開し持続させるためには、経済原理で回る「産業」にせねばなりません。例えば「教育と探求社」は、高校生の探究学習支援で企業からスポンサー料を得ています。これは若者の斬新なアイデアを求める企業の「研究開発(R&D)」として成立しているからです。
また人財育成のアウトカム(成果)は、もはや「東大に何人入れたか」などという旧来のKPIで測るべきではありません。東京大学の菊池康紀教授らが実践する「種子島モデル」はその象徴的な事例です。菊池教授は初年度には300日も島に入り、サトウキビの搾りかす(バガス)の活用、地域の再エネ導入、農業AIの実装など地域産業・先端技術・教育を高度に連携させ、まさに「生活と学びの一致」を追求しました。その結果、以前は大学進学後に島に戻りたいと願う高校生が「0%」だったのに対し、数年後には「44%」にまで激増したと、菊池教授から直接うかがいました。これこそが、若者に「自分の意志で社会を変えられる」という実感を与えた、教育の真の実績です。
教育を持続可能な産業にするためのヒントとなる事例が、具体的な課題に挑む「懸賞レース(賞金ビジネス)」の導入です。
北海道上士幌町で行われた「Japan Innovation Challenge(ロボットによる山岳遭難救助コンテスト)」では、「遭難者に見立てたマネキンの発見に500万円」「レスキューキットを届けることに300万円」「マネキンを救助し指定の場所まで搬送することに2000万円」という、具体的な賞金が設定されました。そして昨年ついに東大のグループが最難関の「救助」をクリアしました。
こうした賞金ビジネスは、成功しなければコストが発生せず、成功すればその技術を即座に社会実装できるという、極めて合理的な仕組みです。知力を総合的に発揮する「競技」のような熱量で課題に挑む舞台を日本中に作ることが、プラチナ人財を鍛え上げる最強のエンジンとなるでしょう。
プラチナ構想ネットワークは2026年に「プラチナ人財産業イニシアティブ」を立ち上げるべく準備を進めています。公教育のシステム全体を一度に作り変えるのは、資金的にも人材的にも現実的ではありません。そこで、既存の枠組みの中にある「総合的な学習(探究)の時間」を突破口にすることを提案します。大学生やシニア世代をチューターとして活用し、自律分散した優良事例をネットワーク化することで、あらゆる世代が共に学ぶ「Lifelong Co-Learning(生涯共創学習)」を社会実装します。
「自らの意志で変わり、複数の領域を横断して課題を解決する」プラチナ人財が社会の至る所で調和(in concert)を持って活動することで、日本は世界に先駆けた課題解決先進国へと生まれ変わるのです。(プラチナ構想ネットワーク会長・『森林循環経済』名誉編集長 小宮山宏)
■参考リンク
プラチナ未来人財育成塾
自由学園
UWC ISAK JAPAN
神山まるごと高専
軽井沢風越学園
山の遭難救助 ロボットコンテスト 2025 Japan Innovation Challenge