Updated by 『森林循環経済』編集部 on April 01, 2026, 8:52 PM JST
Forestcircularity-editor
プラチナ森林産業イニシアティブが推進する「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の実現を目指します。森林資源のフル活用による脱炭素・経済安全保障強化・地方創生に向け、バイオマス化学の推進、まちの木造化・木質化の実現、林業の革新を後押しするアイデアや取り組みを発信します。
※前回の記事はこちら
【オーストリア林業に学ぶ素材生産革新:2】 林道密度は日本の3倍 伐出コストを下げる「道端林業」とは
一般的に日本の丸太は、山土場から原木市場あるいは中間土場などを経由して製材工場へと運ばれる。この過程で、検寸・はい積み、市場手数料、そして繰り返される輸送費が積み重なり、合計で約4400円/立方メートルものコストが発生しているのが現状である。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の久保山氏はこの状況を「下手すると3回も検寸しており、2000円もかかっている場合がある」と指摘する。おおむね1万2000円程度とされる丸太価格に対し、これほどまでの流通コストがかかっていては、森林所有者の手元に入る立木代金が低くなるのは当然の結果といえる。流通の仕組みこそが、所有者の林業経営意欲を減退させ、日本の林業を停滞させているボトルネックともいえる。
対照的に、オーストリアの丸太取引はシンプルに統一されている。「林道端での販売」が基本であり、工場への直送がスタンダードとなっている。日本のように多段階の流通を介在させるのではなく、トラック1台分(フルトレーラー約27立方メートル)を基本単位として、山から直接、製材工場やボード工場へと運ばれる仕組みが確立されている。

この簡素化を支える決定的な要因が「検寸の統一」である。オーストリアでは産業用丸太の90%以上が、工場の選木機によって自動で検寸・精算されるシステムとなっている。選木機では1センチ刻みで径級や品質が仕分けられ、そのデータに基づいて短期間のうちに精算が行われる。ここで懸念される計測データの透明性については、認証機関による「抜き打ち監査」がシステムとして組み込まれており、所有者と工場の間の高い信頼関係を担保している。
さらに興味深いのは、森林所有者の経営姿勢である。所有者は森林組合連合会(WV)に代理交渉を依頼することもあれば、より高い収益を目指して直接工場に営業をかけ、自ら販売先を開拓するケースも珍しくない。久保山氏は、所有者が自らの丸太がいくらで売れるのかに対して非常にシビアであり、その意識の高さが流通の透明性と効率化を支えていると分析する。
輸送効率の向上も、オーストリアの競争力を支える大きな柱である。日本の林道では12トン程度のトラック(積載量約15立方メートル)が一般的だが、オーストリアでは2連結の「フルトレーラー」が主役を担っている。これにより、1台あたりの積載量は25〜30立方メートルと、日本の約2倍に達する。

輸送の効率化により、運材コストは「100km圏内で10ユーロ(約1800円)以内」に抑えられている。日本における50km圏内の運材コストが約2000円/立方メートルであることを考えると、その差は歴然である。特筆すべきは、こうした大型車両の運用を可能にするためのハード面の工夫だ。オーストリアでは、山の中の林道のカーブ部分などに、トレーラーが転回や待機をするための空き地があらかじめ設計されている。こうしたインフラへの細かな投資が、物流全体の巨大なコスト削減を生んでいる事実は、日本にとって極めて示唆に富んでいる。
伐出や流通におけるコスト削減の成果は、最終的に森林所有者の利益へと直結する。オーストリアでは、流通のムダを削ぎ落とした結果、高い立木価格が維持されており、所有者の手元に十分な収入が入る仕組みができあがっている。これが原資となり、所有者はさらなる再投資や伐採へと向かう。

その結果として、オーストリアでは「連年成長量の89%を伐採する」という、高い伐採性向が維持されている。資源をただ蓄えるのではなく、経済的に活用しながら循環させる理想的なモデルがここにある。また、造林コストそのものも、天然更新を主軸とすることで10万円/ha程度に抑えられており、大規模所有者が植林を行う場合でも、造育林コストが低いため、経営として十分に成立しているのである。
一方で、オーストリアも現状に安住しているわけではない。近年、気候変動の影響で主力樹種のトウヒが温暖化に弱いことが露呈し、甚大な被害が出ている。そのため現在は「トウヒ一斉林の植林には一切補助金を出さない」というほど強力に、自然植生に近い広葉樹への樹種転換(混交林化)が進められている点は、日本にとっても無視できない最新動向である。
久保山氏は、日本においてもコスト削減は十分に可能だと断言する。ただし、植林本数の削減や一貫作業による効率化を議論する際、「シカの密度低減」が大前提であると強く警鐘を鳴らす。シカ柵などの防護対策に多大なコストがかかる現状では、せっかくの効率化の成果が相殺されてしまうからだ。
講演の最後、久保山氏は日本の将来への期待を短くこうまとめた。
「いよいよ人手が集まらなくなっている今、イノベーションによって労働生産性を劇的に引き上げる必要があります。それにより、林業労働者にしかるべき賃金を払いながら、同時にコストも下げていく。日本にはまだ多くの改善の余地があり、ポテンシャルは極めて高いのです」
オーストリアが証明したのは、林業を山での作業だけに閉じ込めず、物流や取引、製材工場のあり方まで含めたトータルシステムとして最適化することの価値である。このプロセス・イノベーションを実装し、森林所有者に利益を戻す仕組みを作れるか。それが、日本林業が「成長産業」へ脱皮できるかどうかの分水嶺となるだろう。
久保山裕史氏のコラムはこちら
■参考書籍
木材科学講座10:バイオマス(海青社)
森林未来会議(築地書館)
フォレスト・プロダクツ(共立出版)