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森林資源フル活用の直接経済効果は2050年時点で4.7兆円と試算―森林循環経済総論(5)050

The direct economic impact of fully utilizing forest resources is estimated to be 4.7 trillion yen by 2050

Updated by 平石 和昭 on June 17, 2025, 5:05 PM JST

平石 和昭

Kazuaki HIRAISHI

(一社)プラチナ構想ネットワーク

1984年東京大学工学部土木工学科を卒業後、株式会社三菱総合研究所に入社。海外事業センター長、政策・経済研究センター長、政策・公共部門副部門長、アジアパイプライン研究会事務局長、Northeast Asian Gas and Pipeline Forum Secretary General、エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社取締役副社長を経て現職。専門は、インフラ計画、交通経済、エネルギー経済。博士(工学)、技術士(建設部門)

これまでに述べた森林循環経済の展開を想定し、木質バイオマスの需給やその効果を試算してみた。バイオマス化学や木造都市の進展で木質バイオマス需要は大幅に拡大する。さらにパルプ・紙用材や燃料材なども加えると、2050年時点の国内需要合計は1億4,500万立方メートル/年程度となり、現在の約2倍となる。一方で、2050年には、人工林だけでも1億4,000万〜1億7,900万立方メートルの供給が可能であり、需要の増加は国内の森林資源で十分にカバーできる。

資源代替で計約1億t-CO2の排出削減を見込む

こうした一連の取組により、2050年時点で、化成品製造が原油由来のナフサからバイオマス資源原料やリサイクルに置き換わることで9,000万t-CO2、木造都市の展開で鉄やセメントの資源が木質資源に代替されることで1,000万t-CO2、合計約1億t-CO2のCO2排出削減が見込まれる。これは現在の日本のCO2排出量の約1割に相当する。森林によるCO2吸収量は、主伐・再造林を現在の3倍のペースで実施し、かつそのすべてを早生樹で再造林すれば、現在よりも約600万t-CO2増加する。

森林資源フル活用の将来像(出典:プラチナ構想ネットワーク)

森林循環経済の実現で経済効果も期待される。国内資源のフル活用とリサイクルの推進で、石油資源、木質資源、鉄などの輸入が減少し、3.6兆円分の資源輸入削減効果がある。輸入削減分は国内に投資される。林業が活性化し、さらに森林資源から国産建材や国産ナフサが生産されることで、国内の林業や化学産業、建材・建設業等で輸入削減分と同等の3.6兆円の付加価値が生じる。また、従来の3倍のスピードで伐採・再造林を進めることに伴うスギ花粉対策の効果は極めて大きく、既往調査を踏まえれば1.1兆円程度の経済効果が生じると考える。合計すると2050年時点で4.7兆円の直接的な経済効果(付加価値増)があると試算している。

2050年を見据えて活動するプラチナ構想ネットワーク

総論の締めくくりとして、森林循環経済を推進する活動の母体であるプラチナ構想ネットワークを紹介しておきたい。プラチナ構想ネットワークは、第28代東京大学総長、株式会社三菱総合研究所理事長の小宮山宏が立ち上げ、会長を務めている一般社団法人である。「地球が持続し、豊かで、すべての人の自己実現を可能とする社会」を「プラチナ社会」と定義し、その実現を目指し、220を超える自治体首長会員(知事、市長など)、160を超える法人会員、70名の個人会員とともに活動を行っている。活動にあたっては、次の2つのアプローチを強く意識している。

出典:プラチナ構想ネットワーク

一つは、「課題解決先進国の実現」だ。21世紀に入り、日本は世界に先駆けて様々な課題に直面している。たとえば、「国内に資源が乏しく自給率が低い」、「経済が30年間停滞している」、「高齢化・少子化が進行している」、「東京一極集中が是正されず地方が疲弊している」ことなどは深刻であり、日本はまさに「課題先進国」である。豊富なポテンシャルを持ちながら、林業経営の衰退でポテンシャルを生かし切れていない森林・林業の再生も深刻な課題の一つである。まずは自らのためにこうした課題を解決し、日本を「課題先進国」から「課題解決先進国」にすることが重要だ。やがて世界各国も、同様な課題に直面する。「課題解決先進国・日本」は、これらの国々にモデルを示すこともできるだろう。

もう一つは、バックキャスティングアプローチである。バックキャスティングとは、あるべき未来の姿を想定し、そこから現在に戻って何をすればよいかを考えるアプローチだ。我々は、今、人類は大きな転換点に立っていると考えている。産業革命以後、石炭・石油などを燃やして自らエネルギー源を持った人類は、さまざまな活動を拡大し、人口を増やしてきた。こうした活動が、南極の氷(アイスコア)や地殻の中にも記録され、後世の生き物は、それを調べることによって「人新世」を区別できるといわれている。このままCO2濃度が上昇すれば、近い将来、地球上に人類が住めなくなる。こうした問題への対処は、あるべき姿を想定し、その実現に向けて今何をなすべきかを考えることが必須である。プラチナ社会は、我々が考える「2050年の社会のあるべき姿」である。(プラチナ構想ネットワーク事務局長 平石 和昭)

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