Finland makes forest resources visible: Forestry digital transformation and strategic data management with an eye to the future of forests
Updated by 金本望 on July 02, 2025, 2:22 PM JST
Nozomi KANEMOTO
株式会社リーフレイン
2021年(一社)日本森林技術協会に入協。ODA事業森林分野に複数従事し、GHG排出削減量の計算やプロジェクト運営管理を担当。2024年に独立し、現在はフランスを拠点として森林分野で活動中。
日本は国土の約3分の2が森林で覆われており、「森林大国(※1)」として知られています。この広大な森林は豊かな自然環境と多様な生態系を支える重要な資源である一方、その管理と保全には多大な労力と時間が求められます。加えて、少子高齢化や林業従事者の減少により、従来の手作業を中心とした森林管理には限界が生じつつあります。
こうした課題の解決と、2050年までの実現が目指されているカーボンニュートラル、さらにはSDGsの達成に向けて、「森林・林業DX(デジタルトランスフォーメーション)(※2)」が推進されています。森林・林業DXとは、デジタル技術を活用して森林管理や林業の効率化・高度化を図り、持続可能な森林経営を実現する取り組みを指します。具体的には、ICTやAIなどの先端技術を導入し、森林の状態を正確に把握しながら管理・保全を行う仕組みの構築などが挙げられます。
森林・林業DXは日本各地で広がっています。熊本県森林組合連合会ではリモートセンシング技術の導入を進めており、2016年以降、航空機搭載レーザーを用いて約1,000ヘクタールの山林における森林境界の明確化を進めています(※3)。リモートセンシングは、ドローンや人工衛星、航空機に搭載したセンサー、地上設置型レーザーなどを用いて、直接計測することなく森林情報を取得する手法です。このように森林・林業DXは、リモートセンシングなどの先端技術を活用し、これまで人手と時間がかかっていた作業を省力化・高精度化し、持続可能な森林経営を支える重要な手段として注目されています。
※参照1:「2025年3月号 食とくらしの「今」が見えるWebマガジン」農林水産省(参照日2025年6月19日)
※参照2:脇谷美佳子(パシフィックコンサルタンツ株式会社)「革新的テクノロジーで森林の課題を解決する専門家集団が新たに手がける8ツールとは?」FOREST JOURNAL(参照日2025年6月19日)
※参照3:林野庁「高精度な森林情報の整備・活用のためのリモートセンシング技術やその利用方法等に関する手引き」2018年3月, 86ページ
北欧諸国やカナダなどの海外では、森林・林業分野のDXがさらに進んでいます。なかでも注目すべきは、国土の約74%が森林で覆われているフィンランドの事例です。日本とは気候や地形が異なる一方、森林面積と森林率、そして森林の所有形態として小規模な私有が多いなどの共通点があり、フィンランドの林業は日本の林業の進むべき方向性を示しているといわれています(※4)。同国の林業は1980年代から現場の機械化とデジタル化を同時に進め、今ではデジタル技術を活用した林業が社会に根付いています。特筆すべきは、国レベルで管理されている森林資源データの網羅性と先進性です。
同国森林センターが運用する森林資源データベースは世界最大級の規模を誇り、私有林の99%にあたる約1,390万ヘクタール分のデータを保有しています。データはサンプルプロットの測定に加え、航空機搭載レーザーや航空写真を用いて収集されます。さらに、伐採時に取得する情報(樹種・伐採ロケーション・樹質・長さ・太さなど)も併せて登録されます。これにより、森林所有者は自分の森の状況を正確に把握し、伐採計画や森林管理に関する提案を確認できます。
さらに、デジタルサービスから森林税の申告、木材販売、管理作業の発注、各種相談も可能です。無料で登録できるデジタル木材取引(KUUTIO)を利用すれば、森林資源データをそのまま使用して、販売したい内容を木材業者にリクエストとして提出し、取引まで行えるのです。このように、現場データの収集から森林税の申告、販売までがデジタル上で可能となる林業インフラが整っています。
こうしたフィンランドの取り組みは、単なる林業の生産性向上のためのデジタル化ではなく、「今の森を、未来にどう残すか」という視点に基づく、持続可能な森林資源管理のための有用な手段だといえるでしょう。もっとも、フィンランドの手法をそのまま日本に適用することは樹種や地形などの前提条件が異なるため困難です。ここで重要なのは、その思想と実装の方法論を学び、日本の森と文化に即した形で落とし込むことです。実際、長野県では2019年にフィンランド・北カルヤラ県と森林・林業分野で覚書を結び、持続可能な林業経営のノウハウの交換などを目的とした技術交流の取り組みを続けています(※5)。
これからの森林経営において求められるのは、日本の現状を踏まえたうえで、現在の森林資源の状態をいかに正確に把握し、適切に管理し、次世代へ受け継ぐかという明確なビジョンを持つことでしょう。その実現に向けて、リモートセンシング技術やデジタルデータを活用した森林・林業DXは、もはや不可欠な取り組みとなっています。森と共に生きてきた文化を持つ国だからこそ、未来の森林のあり方を見据え、データに基づく戦略的な管理と実行へと踏み出す時が来ています。フィンランドをはじめとする北欧の先進事例は、その具体的なヒントを私たちに与えてくれています。(株式会社リーフレイン 森林コンサルタント 金本望)