Can carbon neutrality be bought with money? The paradox of forests and the economy
Updated by 小林靖尚 on July 04, 2025, 4:29 PM JST
Yasuhisa KOBAYASHI
株式会社アルファフォーラム
株式会社アルファフォーラム・代表取締役社長、プラチナ森林産業イニシアティブ・ステアリングコミッティー 1988年早稲田大学理工学部応用化学科卒、三菱総合研究所主任研究員(住環境担当)を経て、同社のベンチャー支援制度を活用し2001年に株式会社アルファフォーラムを設立。以降、木材利用システム研究会(常任理事)、 もりもりバイオマス株式会社(顧問)、富山県西部森林活用事業検討協議会(事務局)等を歴任。2023年9月には木材利用システム研究会賞を受賞。
林業、木材加工、木材利用の話に入る前に考えておきたいことがある。2050年のカーボンニュートラルに向けての方針だ。環境省HPによると、サプライチェーン全体で二酸化炭素排出量を実質ゼロへ(Scope3)が詳しく書かれている。もしも足らなければカーボンオフセット(二酸化炭素排出権取引)をすべし。またはCCSやCCUS等の技術を使うべしとなっている。
まず、実績のある二酸化炭素吸収は「森林」と「海洋」だ。計測の仕方等の定義によって数値は違ってくるが、おおよそ地球全体で50億トンの吸収力がある(IPCC報告より)。そのうち、森林が27億トン、海洋が23億トンだ。排出は80億トン近いので二酸化炭素濃度は増えるわけだ。地球は閉じたリアクターなので、自動車を運転して排気ガスを放出、化学的には無限希釈なんて呼ぶこともあるが、閉じたなかでの行為なので、その責任はある。
全ての経済活動において、現在の二酸化炭素排出を半分にすることは必須であろうが、吸収側の森林や海洋のチカラが急速に落ちていることも認識しなければならない。温暖化すれば永久凍土内のメタンも大量に放出されるという報告もある。
さて、Scope3、サプライチェーン全体で二酸化炭素排出削減に最善を尽くしたとしても間に合わなければカーボンオフセット、二酸化炭素排出権を購入してバランスすべしである。個人的な意見であるが、コントロール実績、管理実績のないCCSやCCUSは信じていない。これに頼ることはとても危険と思う。
信用経済での貨幣は、例えば東証プライムの時価総額が717兆円とする。日経平均株価は40000円程度で200円平均株価が上昇する≒0.5%と、3.585兆円の貨幣が生まれたことと同じである。もちろん、逆に平均株価が200円落ちると、ほぼ同額のお金が消えたのだ。95%の貨幣は虚業で創出されているという所以である。
いくらでも増加する可能性のある貨幣と、増えない地球外皮の機能をマッチングさせて良いものか? 人気投票を基礎とする資本主義経済がカーボンニュートラルを解決できるとは思っていない。森林に人気が集まる可能性が高いことはうれしいことだが、いくらでも増える貨幣で解決できるものではない。このパラドクスを人間は認識すべきだ。
グローバル化によって貨幣が全て・・の錯覚がある。それぞれが生活する地域の恵みを再認識して、地域をまたぐ取引、輸送を根本から見直す時期がきている。森林価値はその中心にある。東京をはじめとする首都圏に住む人々は、膨大なお金を払えば地域でカーボンニュートラルに向かうことができるか? 貨幣という「芋粥」に、ぼんやりとした不安を覚えるのは私だけではないだろう。
今年も暑い、だけど、10年後に振り返ると「2025年の夏は涼しかったね・・」と言っているかもしれない。10年後は地域ごとの新しい森林文化を感じたい。(株式会社アルファフォーラム・代表取締役社長、プラチナ森林産業イニシアティブ・ステアリングコミッティー 小林靖尚)
地域振興や脱炭素社会の鍵を握る「森林循環経済」。その最前線を紹介するウェビナー「森林循環で創出する未来」を開催します。登壇するのは、小林靖尚氏を含む産官学の実践者10名です。森林資源の活用がもたらす変革を、全国の先進事例も交えて議論します。
● 日時: 2025年7月10日(木)13:00~17:00
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● 主催: 一般社団法人プラチナ構想ネットワーク・プラチナ森林産業イニシアティブ『森林循環経済』編集部
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