Updated by 『森林循環経済』編集部 on November 20, 2025, 10:08 AM JST
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プラチナ森林産業イニシアティブが推進する「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の実現を目指します。森林資源のフル活用による脱炭素・経済安全保障強化・地方創生に向け、バイオマス化学の推進、まちの木造化・木質化の実現、林業の革新を後押しするアイデアや取り組みを発信します。
林野庁は、木材利用によって建築物に固定される炭素量を温室効果ガス排出量の算定に反映させる方向で、SHK制度(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度)の改正を進めている。令和8年4月の施行が予定されており、建築物を新築し所有する企業や自治体は、自らの排出量から木材利用による炭素貯蔵量を差し引いて報告できるようになる。
木材利用が“定量的な排出量削減”として公式制度に位置付けられるのは国内で初めてであり、大きな意味を持つ政策転換となる。林野庁によると、スギ製材200立方mの利用で121トンのCO2を長期間固定できる試算が示され、木造化の環境価値が数値として説明できる段階に入ったといえる。制度改正により、企業のサステナビリティ戦略、自治体の気候政策、そして建築の構造選択の前提が大きく変わる。木造化が環境配慮の象徴ではなく、排出量管理の実務として扱われる局面を迎える。

制度改正の影響が特に大きいのは非住宅建築物だ。倉庫、事務所、商業施設、賃貸マンションなどは特定排出者が所有する割合が高く、木造化によって排出量が削減できるなら、建築方式の判断基準に直接作用する。林野庁が示す事例では、木造倉庫や木造事務棟が基礎工事の軽量化によりRC造やS造より低コストとなるケースもある。制度と経済性の両面で木造化の合理性が高まり、非住宅分野の構造転換が加速する可能性がある。
自治体においても木造公共施設と炭素貯蔵の見える化が始まっている。屋久島町は新庁舎の木造化を通じて222トンのCO2固定量を公表しており、脱炭素先行地域の政策とも連動しながら地域材利用を進めている。SHK制度改正は、こうした自治体の取り組みを制度面で後押しする。木材利用による炭素固定を地域の排出量管理に反映できるようになり、森林整備や地域経済の循環と政策がより密接に結びつく。
制度改正にあわせ、林野庁は「『森の国・木の街』づくり宣言」の募集を開始しており、11月18日時点で207の自治体・企業等が宣言を行っている。参画団体は今後も林野庁のウェブサイトで公表され、木造化や見える化に関する情報提供を受けられる。宣言の役割は制度改正の実装フェーズを担うことであり、自治体・企業が木造化を一斉に進めるための社会的な基盤として機能し始めている。
企業経営においても制度改正のインパクトは大きい。国内のサステナビリティ開示基準では、SHK制度を基礎にした排出量開示が有価証券報告書に位置付けられる見通しであり、木材利用による炭素貯蔵量を「調整後排出量」として記載できる可能性が広がる。
日本の人工林は約1000万ヘクタールに達し、その半数が50年以上の利用期を迎えている。蓄積量は毎年6000万立方メートル増加しており、森林の健全性を保つには「植えて・育てて・使う」という循環が不可欠だ。都市側の制度がその循環を下支えする枠組みを整えることは、森林と地域、そして都市の関係を再構築する大きな意義を持つ。
■参考リンク
『森の国・木の街』づくり宣言:林野庁