Is plantation forestry nature-positive?
Updated by 相川高信 on December 10, 2025, 11:51 AM JST
Takanobu AIKAWA
PwCコンサルティング合同会社
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー/森林生態学および政策学をバックグラウンドに、林野庁や地方自治体の森林・林業分野の調査・コンサルティングに幅広く従事。特に欧米先進国との比較から、国内における林業分野の人材育成プログラムや資格制度の創設に貢献した。東日本大震災を契機に、バイオマスエネルギーを中心とした再生可能エネルギーの導入のための調査・研究に従事。FIT制度におけるバイオマス燃料の持続可能性基準の策定に参画。2024年7月より現職にて、気候変動を中心にサステナビリティ全般の活動をリードしている。京都大学大学院農学研究科において森林生態学の修士号、北海道大学大学院農学研究院において森林政策学の博士号を取得。
毎年開催される国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)では、気候変動枠組条約に関連する国際交渉だけではなく、各国政府や団体のパビリオンでさまざまなサイドイベントが開催され、イニシアチブやレポートの発表の場にもなっている。
林業関係者にとって重要だったのが、International Sustainable Forestry Coalition (ISFC)が発表した森林自然資本プロジェクトの中間レポートである。同プロジェクトは、林業活動を自然資本会計に組み込むことで、「林業活動が環境・社会面でプラスである」ことを客観的な枠組みで示すことを目指すものである。
本稿では、前回取り上げたTFFF(Tropical Forest Forever Facility)についてCOP30における成果も紹介した後に、ISFCの中間レポートを紹介しながら、その意義と日本林業へのインプリケーションについて考察したい。
COP30における森林に関する決定で、最もエポックメイキングだったのは、前稿でも紹介したTFFFの正式な発足であった。COP開幕に先立って行われた首脳会談において、ノルウェーやポルトガル、フランス、ドイツの欧州勢に加え、資金支援を受ける立場のブラジルとインドネシアも資金協力を表明し、66億米ドルの調達に目途をつけた。目標とする1,250億米ドルにはまだ届かないものの、ブラジル政府としては上々のスタートが切れたと考えているようである。なお、日本は資金は拠出しないものの、ブラジルなどに対して、森林監視などの技術・ソフト面での協力を続ける。
一方で、森林減少を食い止めるための工程表として、森林減少ロードマップの策定提案があった。しかし、同時に提案された化石燃料ロードマップの議論が紛糾し、結局どちらのロードマップも採択には至らなかった。COPの場においても、森林を含め、ネイチャーの話題が目立つようになっており、今後の進展にも注目が集まる。
熱帯林(原生林・天然林)を対象にしたTFFFが注目を集めたのに対して、人工林林業はCOPにおいて影が薄い。むしろ、森林破壊のリスクコモディティには、木材が含まれており、人工林林業は二酸化炭素(CO2)の排出源として見られかねない。こうした問題意識から設立されたのがISFCである。ISFCは、日本企業も含めた世界を代表する18の林業会社・機関から構成され、保有する森林は39カ国で3,100万haに達する。
2025 年からISFCは「森林自然資本プロジェクト」を実施しており、今回のCOP30に合わせて中間レポートを公表し、森林パビリオンにおいてイベントを開催するなどしてPRに努めた。最終レポートは、来年2026年のCOP31に合わせて公表される予定である。
レポートは、7つの生態系サービスの経済価値を定量的に示し、人工林林業のさまざまな便益を提示することを目指している(表)。中間レポートの段階では、定性的にサービスの内容を記述している。

ISFCの関係者が繰り返し主張していたことは、自然はタダではなく、価格付けが可能であるということであった。また、価格付けにより、どのように森林などの土地が管理・利用されるかを変えることができると主張している。さらには、自然資本会計が開発されて、そこに適切に組み込まれることで、企業の持続可能な森林経営・土地利用を促すことを狙っている。
また、もう一つの狙いは、林業が「ネットポジティブ」(価値創出が負荷を上回る状態)であることを示すというものである。ISFCのプロジェクトは、TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)と連携して行われている。TNFDは農林業以外の幅広い企業を対象としており、基本的に、自然資本への依存の状況とリスクのアセスメントを行い、その結果を開示することを求めている。そのため、「ネガティブ」な要素に情報が偏り、「ポジティブ」な面を示しにくい。また、持続可能な森林経営およびそこから生産される木材を認証する森林認証制度も、ネガティブチェックの面が強く、持続可能な森林経営による効果・アウトカムを示すには至っていないという問題意識が示されていた。
こうしたことから、ISFCはTNFDや自然資本会計の学術プロジェクトと連携し、(コストをかけた)森林経営により「森林はより多くの価値を生産するので、自然資本はタダではない」ことを示そうとしている。
このような国際的な議論は、日本の国内林業においてこそ適用されるべきである。日本の森林・林業基本法では、「林業については、森林の有する多面的機能の発揮に重要な役割を果たしていることにかんがみ(第三条)」とある。これ自体は誤っていないかもしれないが、林業活動の環境面での負の側面は無視されており、「林業活動により公益機能が維持される」という非常に単純化したロジックから脱却できておらず、「予定調和論」と批判を受けてきた。
日本では京都議定書の時代から、森林吸収源対策が大々的に行われ、間伐など人工林に手を入れることが「気候変動対策になる」と考えられている。しかし、世界的には、森林減少の実態などから「木を切ることは気候変動を悪化させている」というイメージが強いことはすでに述べたとおりである。
さらに近年は生物多様性保全への貢献が求められ、「ネイチャーポジティブ」という言葉を聞く場面が増えている。ここでも、林業は「自然によい」と漠然と考えている方もいるかもしれない。
しかし、日本でも多くの人工林は、第二次世界大戦後の拡大造林期に天然林を伐採してからスギやヒノキ、カラマツなどを植林したものである。この面で環境に負のインパクトを与えているのは明らかであり、その負の効果も考慮したとしても「ネットポジティブ」であることを主張しなければならない。特にグローバルのビジネス環境では、客観的な枠組みに基づく「開示」が求められているのである。
一方で、ISFCのような海外の大規模林業との規模の違いは考慮される必要がある。海外の大規模産業植林地帯では、保護区域やバッファーゾーンを設けることがその国の法律などで義務付けられているのが一般的であり、生物多様性保全の効果を主張しやすい。しかし、これは土地が十分に広いからこそ可能なアプローチである。一方、日本の人工林において、周辺の広葉樹二次林などは放置されているのが実態で、一体的に経営されているとは言い難く、その管理の効果を主張することは難しい。そこで、伐採時に一定数の広葉樹を残す「保持林業」と呼ばれ、木材生産と保全を同じ場所で行う「土地の共有」アプローチが有効になる可能性がある。
国際的な議論を的確にフォローし、日本の特徴を相対化することは、予定調和からの脱却に役立ち、日本の森林経営が「ポジティブ」であることを主張することに貢献すると考えられる。(PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー 相川高信)
■参考文献
・相川高信(2025)「ブラジルがCOP30で仕掛ける熱帯林保全ファンド「TFFF」の革新性 日本の地域森林管理の未来を考えるヒントにも」(森林循環経済2025年10月28日記事)
・ISFC(2025) “Forests and the Future Bioeconomy. Measuring the Contribution of Nature to Global Prosperity”
・『実証実験・保持林業』山浦悠一・山中聡編著(築地書館2025)