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日本が動かし始めた完全循環経済 スマホなどの都市鉱山資源や農地のソーラーシェアリングが描く未来198

Japan's fully circular economy: A future envisioned by urban mining resources such as smartphones and solar sharing on farmland

Updated by 小宮山 宏 on December 12, 2025, 5:21 PM JST

小宮山 宏

Hiroshi KOMIYAMA

(一社)プラチナ構想ネットワーク

東京大学工学部教授、工学系研究科長・工学部長、東京大学総長(第28代)を経て、2009年三菱総合研究所理事長に就任。2010年プラチナ構想ネットワーク会長(2022年 一般社団法人化)。その他、STSフォーラム理事長、一般社団法人超教育協会会長、公益財団法人国連大学協力会理事長、公益財団法人国際科学技術財団会長、一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター理事長など。また、ドバイ知識賞(2017年)、イタリア連帯の星勲章(2007年。)や「情報通信月間」総務大臣表彰(2014年)、財界賞特別賞(2016年)、海洋立国推進功労者表彰(2016年)など、国内外の受賞も多数。

少子高齢化や資源エネルギー問題など、他国に先駆けて課題が顕在化している「課題先進国」である日本には、課題解決を通じて世界のロールモデルを創るチャンスがあります。私たちが目指すべき「プラチナ社会」とは、環境との調和・共存や活力ある社会を実現するものであり、そこで欠かせないのが、エネルギーと資源の枯渇から人類を解放する「完全循環経済」です。日本には、この新しい経済モデルを世界に先駆けて実現する技術力と実績があります。

「完全循環経済」は、すでに動き出している

日本は、素材開発から最終製品までを一貫して作り上げる高い技術力を持ち、高いエネルギー効率や資源利用の効率を誇る社会システムを構築しています。資源の乏しい日本にとって、リサイクルによって鉱物資源の自給率を高めることは最適な姿であり、それが人類の目指すべきモデルともなり得ます。

リサイクルの実現には、「資源を回収する社会システム」、「資源を分離しやすい製品設計」、そして「分離技術」の三つが要となります。

スマホから金がとれる都市鉱山

都市には膨大な資源が蓄積されています。「都市鉱山」において、特に電子機器は品位が高い「鉱石」と見なせます。

例えば、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のメダルは、市民が提供したスマホなどから作られました。これは都市鉱山の価値を象徴する事例です。スマホを1トン集めると、そこに含まれる金は、平均的な金鉱山の30倍に当たる約150グラムにもなります。銀や銅も同様に、天然の鉱山よりも品位が高いのです。

都市の資源を効率的に回収するために、私は「都市鉱山のデジタルツイン」の構築を提言しています。これは、日本の都市のインフラすべて、例えばどこに鉄が、どこにレアアースが、どこにガラスがあるかをデータとして把握する仕組みです。例えば建物のBIM/CIMデータやエアコンなど設備メーカーの設置データと連携させることで、膨大な「資源」の場所をデータドリブンに把握し、効率的な回収を可能にするのです。

鉄鋼リサイクルと建設端材の循環

産業界では、製造時におけるエネルギー消費の削減が重要です。

鉄鋼業の分野では、スクラップを溶かして鋼材に再生する電炉が注目されています。電炉は、鉄鉱石を使用する高炉と比べ、エネルギー消費を約5分の1に抑えることができます。電炉メーカーの東京製鉄が、品質要求が非常に厳しかった自動車用の軽量で強い高張力鋼(ハイテン)をスクラップから生産し始め、それをトヨタ自動車が購入する契約を結んだというニュースは、まさに循環経済への移行を示す大きなトレンドです。

ライフサイクル全体での省エネが求められる自動車産業において、製造時のエネルギー負荷を大幅に削減できる電炉の鉄を採用することは、環境負荷低減の観点から重要です。

また、建設分野では、大成建設と日本通運が連携し、新築工事現場から出る建材の端材(建設副産物)を効率的に回収・再資源化する取り組みが進んでいます。従来、非効率に廃棄物として処理されていたこれらの端材を、物流を担う日本通運が効率的に収集・仕分けし、素材別にまとめて再資源化工場へ輸送するシステムを構築しました。これにより、輸送効率の向上やCO2削減を実現しています。ゼネコンの間でもこの取り組みを広げる動きが出てきているそうです。

「建設副産物巡回回収システム」の構築と展開(出典:一般社団法人プラチナ構想ネットワーク)

農地が“発電所”になる

日本で物質循環を支えるエネルギーを脱炭素化する上で、農地の活用は不可欠です。

日本には、約420万ヘクタールの耕作地と約42万ヘクタールの耕作放棄地、そして約70万ヘクタールの牧草地があります。計約530万ヘクタールという広大な土地の潜在力を活用するのが、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)です。

千葉大学発ベンチャーである千葉エコ・エネルギーとつなぐファームは、千葉市緑区大木戸地域で、ソーラーシェアリングを核とした「ウェルビーイングを育む大木戸モデル」を推進し、第13回プラチナ大賞において大賞・個別テーマ賞(「人口減少との共存」)を受賞しました。

この大木戸モデルは、農業と発電を両立させることで、地域の持続可能性を高めます。1ヘクタールでの実証では、野菜の年間売上約300万円を維持しつつ、発電の年間収入が約2000万円となり、合算収入が8倍になるという驚くべき数字が出ています。設備投資(1億円)も5年で回収可能であり、農業とエネルギーの自給を両立させ、脱炭素化に貢献します。日本の農地全体(約530万ヘクタール)で、太陽電池パネルの被覆率30%でソーラーシェアリングを行えば、現在の総発電量の5倍もの電力が得られる試算もあり、再生可能エネルギーの推進が地方創生の鍵となることを示しています。

製品を回収しやすい社会を支える土台

完全循環経済の実現は、技術的な努力だけでなく、文化的な土壌と、製品の「設計思想」によって大きく左右されます。日本では、古くから「もったいない文化」が根付いており、分別回収という社会システムが比較的スムーズに機能しています。日本人の民意の高さは、この社会的な課題解決を進める上で強力な基盤となります。

特に重要なのは、リサイクルの要の一つである「資源を分離しやすい製品設計」です。アシックスは、分解しやすいランニングシューズを開発しました。これは、リサイクルしやすいように構造で工夫し、容易に分解できるように設計した事例です。

また、化学品メーカーの信越化学は、ゴムの原料に含まれる未反応の単一分子(モノマー)を極限まで減らした高純度なゴム原料を供給することで、ユーザー側が二次加工で熱処理(エネルギーを消費する工程)を行う必要をなくし、結果として省エネルギーに貢献しています。

製品設計は、使用中だけでなく、処分時やリサイクル時も考慮したライフサイクル全体でのマネジメントが求められます。例えば、ハイブリッド車に使用されているモーターのように、使用中は頑丈に保ちながらも、分解・回収時には簡単に部品が剥がれるような設計が、完全循環社会の実現には不可欠なのです。

完全循環経済は「金になる」とき一気に加速する

私たちが目指す完全循環経済は、「技術」「制度」「文化」の三点セットが揃うことで実現します。すでに「技術」と「文化」の面では、日本は世界のトップランナーになり得る素地を持っています。

残る課題は「制度」と「経済性」です。廃棄物処理を広域で行う上での法規制の壁など、制度的な制約は存在しますが、循環経済が「金になる」とき、すなわち経済的なメリットが明確になったとき、これらの壁は一気に崩れ、政治家や行政が動き出し、システムは加速するのです。(プラチナ構想ネットワーク会長・『森林循環経済』名誉編集長 小宮山宏)

「建設副産物巡回回収システム」の構築と展開【第13回プラチナ大賞 発表04】 – YouTube

ウェルビーイングを育む大木戸モデル:ユニバーサル農業と地域資源循環で築く、持続可能なまちづくりを目指して【第13回プラチナ大賞 発表03】 – YouTube

【小宮山宏・登壇イベントのお知らせ】
岡山で進む「森林循環経済」の実装戦略 ― 県産材・CLT・大学が連携する「岡山モデル」【12/22シンポジウム】

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