Rediscovering the feeling of "touching wood on the body" - The benefits of Japanese lifestyle and culture and its circulation in modern society
Updated by 小倉朋子 on December 24, 2025, 9:54 AM JST
Tomoko OGURA
株式会社トータルフード/日本箸文化協会
(株)トータルフード代表取締役 食の総合コンサルタント/東証上場企業2社の社外取締役/亜細亜大・東洋大学・東京成徳大学兼任講師/食輝塾主宰/日本箸文化協会代表ほか/トヨタ自動車広報部に勤務後、国際会議ディレクター、海外留学を経て現職。飲食店、食品関連企業のコンサルティング、メニュー開発のほか、諸外国の食事マナーと総合的に食と生き方を学ぶ教室「食輝塾」を主宰。「食と心」を柱に、トレンド(分析、開発)から食文化、マナー、栄養、健康経営、食環境とメンタルまで、あらゆる食の分野に精通、専門が幅広いのが特徴。「箸文化と儀式」「日本の箸と特異性」「割箸と外食産業」について学術論文、箸に関する著書、監修多数。世界で唯一の日本箸文化の研究者といわれる。 トータルフード公式サイト 日本箸文化協会サイト
日本は古来より、国土の約7割を森林が占めるという環境の中で、木と深く関わりながら生活文化を築いてきました。日本にとって木というものは資源としてだけではなく、生活の基盤でもあり木材の利用は生活のあらゆる場面にありました。また、日本人の精神文化の象徴でもあったのだと思います。前回書いたように、近代社会においては、木製製品は減少していますが、そんな中、新たに木との関わりを繋げる生活商品も作られています。
長年日本の家屋の多くは木造建築であり、柱や梁だけでなく、床、建具、家具に至るまで木が用いられてきました。また、燃料としても木は欠かせず、マキを使って火をおこし、調理をし、風呂をたいて、暖をとって暮らしていました。生活道具も木製が多く、特に食器はほとんどが木製で、口に触れるものは木であることが当たり前でしたので、常に日本人は日々の生活の中で「身体に木が触れている」瞬間をもち、木に囲まれた生活をしてきたわけです。木に守られてきた、ともいえるのではないでしょうか。木の温かみや柔らかさは、生活の中に安らぎをもたらしていたと考えられます。

それだけではなく、木は精神文化とも深く結びついていました。日本では古くから「木には神が宿る」と信じられ、寿命の長い巨木や森は神聖な場所として祀られてきました。神社の御神木に願いをかけたり、自分の身体の一部を木に触れさせて祈る風習を通して、木の生命力を自身に取り込もうとし、また、木の生命力への敬意を示してきたのです。
現代社会では木製品の存在感は薄れつつあり、今では木製のものは「特別なもの」になりつつあると感じます。しかしその現実に日本人のDNAのような魂が寂しく感じることもあるのではないでしょうか。木がもたらす精神を安定させる効果が世界中で注目されていますが、日本人の場合は科学的な研究に留まらず、そこに精神文化が加えられているのです。
現代ならではの木との関わり方として、リサイクルやアップサイクルの取り組みがあります。例えば、折れたプロ野球のバットを本物そっくりの形状の箸に生まれ変わらせた「かっとばし」は、日常の道具としての箸に楽しさをプラスした良品といえます。また、木を薄く削って名刺やメッセージカードにする試みもあり、名刺をもらった側にとっては驚きがあり、思わず木の香りをかいで会話が弾むきっかけにもなっています。

そのほか木製の扇子やご祝儀袋など、通常は紙やプラスチックで作られるものを木でアップサイクルしているのです。本来は木製ではない商品を木製にして手掛けることで、忘れかけた木の魅力に意識が向く効果もあるでしょう。木の文化を現代の生活に取り戻すだけでなく、森林資源の循環を考えるきっかけ作りにもなっています。
AIが発展し、デジタル化が進む現代だからこそ、自然素材である木がもたらす効果や精神面における恩恵、そして、循環社会への両立など、木の商品は様々な課題を私達に問いかけているのだと思います。(トータルフード代表取締役・日本箸文化協会代表 小倉朋子)