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木材などから燃料や化成品を生産、先行する海外企業に学ぶ商用化のポイント―森林循環経済と化学産業:バイオマス化学の実用化に向けた企業の取組み(1)209

Producing fuel and chemical products from wood and other materials: Key points for commercialization learned from leading overseas companies

Updated by 鎌形 太郎 on December 26, 2025, 9:16 PM JST

鎌形 太郎

Taro KAMAGATA

(一社)プラチナ構想ネットワーク

1982年慶応義塾大学経済学部を卒業後、凸版印刷株式会社に入社。1988年三菱総合研究所に転職。都市・地域経営及び官民連携(PPP、PFI等)に関わる業務を担当。その後執行役員となり、地域経営研究本部長、プラチナ社会研究本部長、常務執行役員研究開発部門長等を歴任。2018年三菱総研DCS専務取締役として出向、 2021年に三菱総合研究所役員を退任、2022年プラチナ構想ネットワーク顧問に就任。プラチナ森林産業イニシアティブの事務局リーダー。

前回は、バイオマスの転換技術を紹介しました。今回は、それらの転換技術を活用し、実用化に向けて動き出している企業の取り組みを紹介します。

日本国内では製紙会社が実証段階へ

海外ではすでに、廃植物油や非食用トウモロコシなどのバイオマス資源に加え、木質バイオマスを活用して、化学製品の原料となるバイオナフサ等を実用レベルで生産している企業が複数存在します。代表例として、フィンランドのNeste、UPM、ノルウェーのBorregaard、スウェーデンのSödraなど北欧の企業が挙げられます。

一方、日本国内では、海外から輸入したバイオナフサ等を活用してフェノールなどの化成品を生産する動きは出てきていますが、国内バイオマス資源から商用レベルで化学原料を生産・販売している事例は、まだ限定的です。

国内で実用化に最も近い動きを見せているのは製紙会社です。紙需要の減少を背景に、既存の製紙工場のプラントや、木質チップなどの原料サプライチェーンを活用しながら、バイオリファイナリー事業に取り組み、実証段階まで進めています。

これに対して、国内の木質バイオマス由来の化学原料やバイオ燃料を新規プラントで生産する事業は、現時点では検討・研究段階にある案件が多く、本格的な立ち上がりはこれからです。

グリーンケミカルの国内外の取組動向

北欧勢は紙パルプ事業などから転換し商業ベースに

バイオマスや廃棄物からバイオ燃料やバイオナフサ等の化学原料を商業ベースで生産する企業は欧米では多く見られますが、木質バイオマスを原料に商業ベースで事業展開している企業は北欧やオーストリアなどの紙パルプ事業等から転換している企業に限られています。各社それぞれ異なる技術や原料(残渣含め)を活用して特徴ある事業展開を行っています。

木質バイオマス等再生可能資源を活用する海外企業:各社ホームページ等より作成

●Neste(フィンランド)
Nesteは、持続可能な航空燃料(SAF)、再生可能ディーゼル燃料、各種高分子・化学物質向けの再生可能原料ソリューションを提供する世界有数のメーカーです。使用済み食用油、動物性脂肪残渣、植物油加工残渣などを原料とし、原油精製とは異なる独自の製造プロセス(再生可能原料の前処理、水素反応による脱酸素、分子構造変換など)を有しています。完成燃料(ナフサ含め)を大規模に生産していることが大きな特徴です。
日本国内でも、Nesteが生産するバイオナフサを活用して化学原料を生産・販売する取り組みが、複数の化学企業で進み始めています。

●UPM(フィンランド)
UPMはフィンランドを代表する森林・バイオ産業の世界大手で、紙パルプ企業から脱却し、バイオ燃料・バイオケミカル・先端素材生産へと事業転換を進めています。自社森林を背景に、パルプからバイオ燃料、バイオケミカルまで一気通貫で事業展開している点は、世界的にも稀有です。
クラフトパルプ工程で得られる副産物(リグニン、脂肪酸・ロジン混合油など)を処理・精製して、バイオディーゼル(BioVerno)、バイオナフサ(化学品原料)、ガス(工場エネルギー)などを生産しています。BioVernoは100%ディーゼル代替(B100)が可能で、欧州ではバス・トラック等での利用が広がっています。
また、森林資源を成分分離し、糖化・発酵でエタノールを製造した上でSAFへと転換するAlcohol-to-Jetの事業にも取り組むほか、糖由来のモノエチレングリコール/モノプロピレングリコール、リグニン由来の高機能樹脂原料などの開発も進めています。

●Borregaard(ノルウェー)
Borregaardは、1960年代からパルプ製造・製紙中心の事業構造を転換し、木材(木質資源)を原料とするバイオ化学品・高付加価値バイオマテリアルの製造へと舵を切ってきた企業です。
木材から得られるセルロース、リグニン、糖分を分離・精製・変換し、専門化学品、バイオ化学品、マテリアルへと高付加価値化しています。事業は「リグニン系バイオポリマー/バニリン」「スペシャリティセルロース製品」「セルロース・糖を基盤とした精密化学品、バイオエタノール、医薬品」の3セグメントで展開しており、とくにリグニン由来の多様な製品群が特徴で、独自のマーケットを開拓しています。

●Södra(スウェーデン)
Södraは、50,000人以上の森林所有者がメンバーとして参加するスウェーデン最大の森林所有者協同組合であり国際的な林業グループです。原木から木材・パルプ・バイオ燃料・バイオ化学品・建材まで一貫した製品群を持つ事業体です。
原料供給から製造・販売まで一貫した林業バリューチェーンを構築しており、建築・構造材の製造を始め、パルプ年間総生産能力は数百万トン規模を有し、クラフトパルプ(紙:段ボール用)、溶解パルプ(テキスタイル用途等)を製造しています。また、単なる木材・パルプメーカーを超え、パルプ工程からの副産物を活用しバイオベース化学品・燃料原料も製造。クラフトパルプ工程で発生する黒液からリグニン、トールオイル、メタノール等を分離・回収し、燃料および化学原料として高度利用するバイオリファイナリー型事業を展開しています。これにより、セルロース製品を中核としつつ、副産物をエネルギー・化学分野へ多段的に展開する循環型産業モデルを確立しています。

●AustroCel(オーストリア)
AustroCelは木質バイオマスを活用する欧州でも先進的なバイオリファイナリー企業の一つです。1890年創業の工場を持ち、溶解パルプは最大16万t/年規模の生産能力を有します。2021年から副産物を活用してバイオエタノールの生産を開始し、年間3,000〜3,500万リットル規模の能力を持ちます。加えて、溶解パルプ副産物由来のリグニンを活用した、生分解性ハイドロゲル保水材など農業向け新素材の開発も進めています。
同社のグリーンエタノールは、原料コストがほぼゼロ(パルプ副産物の活用)であること、自家発電を含むエネルギー面の優位性、副産物(リグニン)の外販価値が高いことなどから価格競争力があり、すでに商業販売を行い、オーストリア国営系石油会社への供給も進めています。

●Sekab(スウェーデン)
Sekabはバイオマス資源からエタノールを精製し、さまざまな基本的な化学物質や化学製品を生産しています。エタノールの応用分野は多岐にわたり、化学工場ではバイオアセトアルデヒド、バイオエチルアセテート、バイオ酢酸を生産しています。
第一世代のエタノールは、サトウキビ、穀物、トウモロコシなどの農産物から生産していましたが、現在、第二世代セルロースエタノールとして木質バイオマスを原料とした製品の製造に取り組んでいます。

Sekabの製造プロセス(出典:Sekab公式サイト)

(プラチナ構想ネットワーク顧問 鎌形太郎)

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