Updated by 『森林循環経済』編集部 on January 30, 2026, 11:19 AM JST
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プラチナ森林産業イニシアティブが推進する「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の実現を目指します。森林資源のフル活用による脱炭素・経済安全保障強化・地方創生に向け、バイオマス化学の推進、まちの木造化・木質化の実現、林業の革新を後押しするアイデアや取り組みを発信します。
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資源自給国家への転換と都市の木造化、産官学で挑む「岡山モデル」【森林循環経済シンポジウムレポート・前編】
シンポジウム後半のパネルディスカッションには、林業(川上)、製材・加工(川中)、建築(川下)、そして行政とコンサルティングの各分野から、岡山を拠点に活動する実務者たちが登壇した。高い志を、いかにして具体的なビジネスと地域経済の循環に落とし込んでいくのか。先進的な事例紹介と共に、現場の課題解決に向けた示唆に富む議論が繰り広げられた。

ディスカッションの冒頭、モデレーターの鎌形太郎氏(プラチナ構想ネットワーク顧問)は、森林循環経済の実現へ、木造都市の展開・木質バイオマス活用・林業の革新という3つの柱とその連携の重要性を提示した。
岡山県内の戸建住宅で9年連続トップシェアを誇るライフデザイン・カバヤ代表取締役社長の窪田健太郎氏は、同社が推進する「木造ゼネコン」としての先進的な取り組みを紹介した。同社は住宅分野のみならず、10年前からCLT工法と木造軸組構法を融合させた「LC-core構法」の研究開発を進めるなど、非住宅分野へも積極的に展開している。
一方、住宅分野で主力の木造軸組構法にCLT耐力壁を導入した「CLTハイブリッド構法」は、県産材サプライチェーン構築への取組が評価され、グッドデザイン賞とウッドデザイン賞を受賞した。実物大振動台実験では、震度7の激震を含め70回に及ぶ地震動を受けても損傷が極めて少なく、変位が4cm程度にとどまるという耐震性能を実証している。窪田氏は「日本一地震に強い家という自負がある。自宅をそのまま避難所にできるほどの強度だ」と自信をのぞかせる。
また、同社はハード面だけでなく、森林への理解を深める教育にも注力している。社員が自ら2年かけて苗を育て、実際に植林に携わる独自の研修を通じ、家づくりと森林の繋がりを「自分ごと」として学ぶ体制を構築している。さらに、2025年4月にはCLTの魅力を発信するショールーム「構造Lab.」をオープンし、斬新なデザインを提示することで顧客の支持を広げている。同社は「5年間で1万立方メートルの県産材を使用する」という目標を掲げ、わずか3年で達成しており、岡山県産材の利用拡大と森林循環経済の実現を力強く牽引している。

CLTの普及で先駆的な役割を果たしてきた銘建工業代表取締役社長の中島浩一郎氏は、耐火規制などの「壁」を突破することの重要性を説いた。同社が手がけるCLT建築は、震度7の加振実験でも損傷がない極めて高い耐震性を誇るだけでなく、居住者から「電気代が約4割削減された」と報告されるほど優れた断熱・省エネ性能を有している。しかし現在、木造中高層建築の多くは耐火性の確保のために石膏ボードで木部を覆わなければならず、この作業には構造体の組み立て以上の手間とコストがかかり、現場の重労働や危険も伴うという。
この課題を解決するため、同社は岡山大学と5年以上にわたる産学連携を続けており、樹種ごとの燃焼温度差を利用した「純木質耐火構造」の確立に挑んでいる。被覆なしで木を見せることが実現すれば都市の景観は劇的に変わり、工期も大幅に短縮されると期待を寄せた。
また、日本の所得水準や将来の社会構造を背景に、良質で長く使え、エネルギーロスの少ない木造賃貸住宅の提供が不可欠であるとの視点を示した。歩留まりを劇的に向上させ合板に対抗しうる新たな製材技術の開発など、停滞する業界に「風穴」を開けるための具体的な挑戦についても言及した。
Cキューブ・コンサルティングの重久孝介氏は、ちゅうぎんフィナンシャルグループとして地方創生や森林産業の振興を支援する立場から、木造都市の実現に向けた課題と解決策を提示した。重久氏は、工務店へのヒアリングを通じて、施主が木造建築を避ける最大の理由が「コスト」にあると分析し、これを打破するために「コスト以外の価値」を定量的に見える化して伝える重要性を提言した。

具体的には、以下の3つのポイントを「価値」として挙げている。第一に、睡眠改善やリラックス効果、集中力の向上といった「住空間・生活空間としての価値」である。第二に、輸入材と比較した際の輸送時のCO2排出量の少なさをはじめとする「脱炭素の優位性」の数値化であり、特に排出量開示が求められる企業にとって強力な動機付けになると指摘した。そして第三に、非木造と同等の資産価値維持や、木造化による賃料・地価の上昇といった「資産価値」の向上である。また、木材という「モノ」の販売だけでなく、J-クレジットや企業の森づくりといった「サービス」の展開、さらには原木を余さず使い切るカスケード利用の構築が産業化には不可欠であると述べた。
重久氏は、岡山県北には伐採から加工までを担う強力なプレイヤーが今なお健在であることを強調した。岡山市や倉敷市という大規模な需要地が近接し、さらにコンビナートでのバイオマス化学利用のポテンシャルも秘めた岡山は、「森林循環経済を実現するうえでこれ以上の場所はない」と断言し、その実現に強い期待を寄せた。
木材の加工・流通を担う川中の視点では、森林資源をいかに無駄なく使い切るかが焦点となる。院庄林業常務取締役の田原義彦氏は、日本の森林資源が持つ巨大なポテンシャルについて、森林率が世界3位、人工林の保有面積が世界8位であり、いつでも利用可能な成熟した資源を豊富に有している点を強調した。同社は森林資源を有効活用するため、山での伐採から製材、プレカット、そして住宅建築までを一貫して手がける垂直統合型のシステムを構築している。これにより、建築現場のニーズを製材や伐採工程へ直接フィードバックして歩留まりを向上させ、中間マージンを削減することで、国産材のコスト競争力を高めている。
技術革新の面では、日本の急峻な地形に対応するためオーストリア製の集材機タワーヤーダーや大型ホイルローダーを導入し、機械化による生産性向上を推進している。さらに、従来は同一チームが行っていた道づくりと伐採・搬出工程を分業化し、あらかじめ別チームが路網を整備しておくなどの工程改善により、伐採搬出量を30%向上させた事例を紹介した。

また、岡山の強みであるヒノキについては、従来の柱材としての利用に留まらず、梁や桁(横物)としての価値開発や強度研究を進めている。田原氏は、森林を健全に保つためには「切って、使って、植える」サイクルが不可欠であると述べ、今後の課題として再造林に向けた苗木の安定供給や、非住宅建築を担える木造建築士の育成、さらには木育を通じた社会のリテラシー向上の重要性を指摘した。
銘建工業の中島氏は、かつて産廃扱いだった樹皮(バーク)まで燃料として活用する真庭バイオマス発電所の事例を紹介した。この事業は地域を挙げた出資により運営され、資本金約3億円に対し、10年間にわたり12%の配当を継続している。これは、地域エネルギー自給と経済循環の成功例として注目されている。

豊かな資源を抱えながらも、川上の現場には深刻な課題が残る。真庭市長の太田昇氏は、市の森林の75%を占めるヒノキなどの人工林が46〜50年を経て主伐期を迎えているにもかかわらず、再造林が停滞している現状を指摘した。主な要因は、木材価格の低迷による採算性の悪化に加え、年間1500頭を駆除しても追いつかないシカによる深刻な食害、そして苗木の供給体制が独占的であることによる価格の高止まりといった業界構造にある。
太田氏は、日本のエネルギー自給率が11%、食料自給率(カロリーベース)が38%まで低下している現状を危惧し、「エネルギーと食料の自給率を上げなければ日本の未来はない」と断じた。真庭市全体でエネルギー自給率85%、電力で63%の自給を達成している実績をもとに、さらなる「電力の地産地消」による地域利益の創出を強調した。
特に、真庭バイオマス発電は地域経済を支える中核となっている。燃料となる枝葉等の未利用材を運び込む森林所有者らに対し、この10年間で累計約4億円を還元するなど、「捨てていたものを利益に変え、山に返す」仕組みを構築している。
今後のビジョンとして、地元の製材所へ安価な電力を供給することで企業経営に貢献する仕組みや、森林資源のケミカル利用(化学原料化)への挑戦を掲げた。さらには、木造建築の普及を阻む構造計算の専門人材不足を解消するため、岡山大学の真庭サテライトキャンパスでの共同研究を通じた人材育成に注力するなど、産官学が連携して「岡山モデル」の実装を急ぐ構えである。

岡山県農林水産部林政課長の三宅美裕氏は、2050年を展望した「おかやま森林・林業ビジョン」について解説した。このビジョンでは、林業に適した人工林には高性能林業機械の導入や集約化によって収益性の高い林業を展開する一方、山奥などの林業に適さない人工林は管理コストの低い「針広混交林」へと誘導し、水源涵養や土砂流出防止といった多面的機能を発揮させる。このように人工林を明確に区分することで、資源の循環利用と将来にわたる安定的な木材供給の両立を目指す戦略だ。
また三宅氏は、現在の木材価格が昭和50年(1975年)頃のピーク時から約3分の1にまで低迷している統計データを示した。令和3年から4年頃に「ウッドショック」による一時的な価格上昇は見られたものの、50年という長期的なスパンでは極めて限定的な変化に過ぎず、林業経営の意欲減退を招いていると分析した。加えて、現在は60年生程度の人工林が最も多い一方で、次の林業サイクルを担う若い林齢の人工林が極端に少ないという将来的な資源不足への懸念も示した。

これらの課題に対し、三宅氏はICTやデジタル技術を活用した森林経営の省力化、県産製材品の海外輸出への支援に加え、中高層建築や非住宅分野での新たな木材需要の創出を提唱した。県の森林研究所木材加工研究室による研究成果を活かし、製材所の加工技術を高めて新たな需要や付加価値を生み出すことで、森林所有者に確実に利益を還元する仕組みを構築する重要性を強調した。最終的には、川上・川中・川下が連携し、「伐って、使って、植えて、育てる」という林業サイクルを回すことで、持続可能な森林経営を実現していく方針を説いた。
今回のシンポジウムで示された「岡山の森林循環経済モデル」は、単なる林業振興ではなく、建築・エネルギーという多段階の需要創出を統合した「地域実装戦略」である点が極めて重要となる。岡山大学が進める純木質耐火研究やサプライチェーン全体を見据えたデジタル改革は、木造建築のコスト構造そのものを変える可能性を秘めている。これらは、まさに都市を「第2の森林」として機能させるためのインフラ構築とも言える。産官学の強固な連携による「森林資源のフル活用」は、地域経済を再生させるだけでなく、脱炭素という地球規模の課題に対する強力な解答となるだろう。
■参考リンク
【岡山大学】岡山大学シンポジウム「岡山発、森林循環経済の実現に向けて」を開催 | 国立大学法人岡山大学のプレスリリース
ライフデザイン・カバヤは、岡山大学主催・(一社)プラチナ構想ネットワーク共催のシンポジウム「岡山発!森林循環経済の実現に向けて」に登壇しました。 | ライフデザイン・カバヤ株式会社のプレスリリース