• 執筆者一覧Contributors
  • ニューズレター登録Newsletter

生物多様性が林業経営の新たな評価軸に 令和6年度「森林・林業白書」049

Updated by 『森林循環経済』編集部 on June 04, 2025, 10:00 AM JST

『森林循環経済』編集部

Forestcircularity-editor

プラチナ森林産業イニシアティブが推進する「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の実現を目指します。森林資源のフル活用による脱炭素・経済安全保障強化・地方創生に向け、バイオマス化学の推進、木造都市の実現、林業の革新を後押しするアイデアや取り組みを発信します。

令和6年度の「森林・林業白書」が閣議決定され、農林水産省が6月3日に公表した。今年度の白書では、初めて「生物多様性を高める林業経営と木材利用」が特集テーマとして取り上げられた。これまでの資源供給を重視する林業政策から、森林の生態系機能を活用した産業モデルへの転換が明確に打ち出されている。

環境価値の市場化を目指す民間ビジネスにも影響

今回の白書では、林業の施業が生物多様性に与える影響を可視化し、適切な管理によって多様な動植物の生息環境を維持・向上できる可能性に言及。森林の多機能性に対する評価を、木材供給やCO2吸収といった従来の軸に加え、生態系サービスも含めた複合的な価値へと再定義している。

これは、自然資本への投資やJ-クレジット制度の活用といった環境価値の市場化を目指す民間ビジネスにも影響を与える動きである。白書では、多様性を重視した森林経営のモデルや、多樹種導入に取り組む地域の事例が紹介され、単一樹種で造成された人工林の転換が今後の政策課題となることが示されている。

林業経営体にとっても、伐採・再造林計画における生物多様性への配慮が、新たな評価指標となる可能性がある。加えて、木材の建築・流通・加工といったサプライチェーン全体においても、グリーン購買や国産材の価値向上など、環境配慮を起点とした再編が進むことが見込まれる。

森林政策の社会的意義が拡張へ

今回の白書では例年同様、森林資源量、林業就業者数、木材自給率などの基礎データも収録されているが、特集を通じて「森林を環境インフラとしてとらえる」という政策視点がより鮮明になった。これにより、自治体による自然共生サイトの整備や、ESG投資の対象として森林の価値を評価する動きが広がる可能性がある。

たとえば、生物多様性に配慮した手法で育てられた木材は、その生産背景を含めたストーリー性を伴い、新たなブランド価値を持つ可能性がある。環境意識の高い消費者やESG経営を重視する企業にとって、それは選択すべき素材としての魅力を持つ。

また、多様な生物が共存する豊かな森林は、エコツーリズムや環境教育の場としての価値も高まっており、地域経済における新たな収益源として期待される。白書は、こうした生態系サービスを含む多面的な価値を森林経営に取り入れることが、次世代の林業における現実的なモデルであることを明示している。

■白書のポイント
(令和6年度トピックス)

・ 森林経営管理制度5年間の取組成果
・「林業職種」の技能検定がスタート~「林業技能士」の誕生~
・木材自給率が近年で最も高い43%まで回復
・中高層建築物等における木造化の広がり
・プラスチックを代替するバイオマス由来素材「改質リグニン」の今後の展開
・令和6年能登半島地震と大雨による山地災害等への対応
(第1章)森林の整備・保全
再造林、花粉発生源対策、森林環境税・森林環境譲与税、J‐クレジット、治山対策、林野火災などの森林被害対策等
(第2章)林業と山村(中山間地域)
林業経営、林業労働力の動向、きのこ類・薪炭等の特用林産物、山村の活性化等
(第3章)木材需給・利用と木材産業
違法伐採対策、建築分野における木材利用、木材輸出、木材産業の競争力の強化等
(第4章)国有林野の管理経営
国有林野の役割、公益重視の管理経営、森林・林業施策全体への貢献等
(第5章)東日本大震災からの復興
復興に向けた森林・林業・木材産業の取組、森林の放射性物質対策、安全な特用林産物の供給等

Tags
森林循環経済 Newsletter
ニューズレター(メルマガ)「森林循環経済」の購読はこちらから(無料)
JA
『森林循環経済』創刊記念ウェビナー(Webinar)「森林循環で創出する未来」