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森林と都市、そのあいだをつなぐ構想力 資源の循環で生まれる、建設の新しいかたち126

The power of imagination to connect forests and cities: A new form of construction born from resource recycling

Updated by 株式会社大林組 on September 02, 2025, 8:45 PM JST

株式会社大林組

OBAYASHI CORPORATION

本社は東京(港区)、1892年(明治25年)創業。 国内外建設工事、地域開発・都市開発・その他建設に関する事業、及びこれらに関するエンジニアリング・マネージメント・コンサルティング業務の受託、不動産事業等が主たる事業。 中期経営計画2020では「建設事業の基盤の強化と深化」「技術とビジネスのイノベーション」「持続的成長のための事業ポートフォリオの拡充」を基本戦略としている。 公式サイト

都市のかたちは、木によって変えられるのか。そんな問いに、総合建設会社としての立場から本気で取り組むのが、株式会社大林組だ。同社が、いま「木」に注目しているのは、単なる素材の転換を目指すためだけではない。「都市の建物を“第二の森林”と捉える」――そんな視点から、都市そのものを環境循環の一部に組み込もうという構想が進んでいる。

大林組が掲げるのが、「OBAYASHI WOOD VISION」。都市の木造・木質建築を増やすことにより脱炭素化を進め、木質空間の増加による健康増進や快適な生活環境の提供を目指し、建材の製造や建設、エネルギー利用までを見通したサステナブル・サプライチェーンを構築する——これら三つの柱によって、木を中心に据えた豊かな循環型社会の実現を目指すビジョンだ。

とりわけ、循環型社会の実現に向けての取り組みとして重要なのが、三つ目のサステナブル・サプライチェーンの構築だという。

「われわれはゼネコンとして、建物をつくる川下に位置する存在ですが、それだけでは木造建築の未来は実現できません。川下から川中――つまり、森林育成や製材にまで踏み込んでこそ、はじめて循環が成り立つと考えています」

そう語るのは、技術本部環境・エネルギーソリューション部長の赤松伯英氏。同本部に着任してから10年、循環型森林利用やエネルギー地産地消といった地方創生プロジェクトに携わってきた。

赤松氏(左)と岡氏

「地域のエネルギー、地域の建材、地域の仕事がぐるぐると回る。そこにわれわれの建設技術が加わることで、都市そのものが生きた循環をもてるようになる。木造をやるからには、その起点と終点まで責任をもちたいというのが出発点でした」

赤松氏をはじめとした現場の思いが結実し、進んでいるのが「サーキュラーティンバーコンストラクション」だ。建材としての木が生まれ、育ち、使われ、再び活かされていく――建築という営みに、森林とのつながりを最初から最後まで組み込もうという発想だ。

この中で「起点」となるのが、「森をつくる」取り組みである。同社では、人工光と自然光を組み合わせた「ハイブリッド型苗木生産システム」を開発し、苗木の育成期間を従来の約3分の1に短縮、コストも大幅に抑えることに成功している。鳥取県日南町ではカラマツの苗木生産を行うパイロットプラントを整備し、年間約1万本を供給する体制を整えている。

さらに、北海道のグループ会社社有林では、皆伐・再造林を繰り返す循環型の森林経営を実践。地域とともに持続可能な森林利用モデルの構築を目指している。これらの取り組みは、「木を使う」だけでなく、「木を育てる」という責任を自分たちの中に取りこもうというものだ。

そして育てた木を建材とする過程を強化するべく、同社は木材の加工や調達の段階にも深く関与している。2021年、国産材を用いたCLT(直交集成板)の製造に強みを持つサイプレス・スナダヤをグループ会社化。これは、中大規模木造建築に不可欠な構造部材の安定供給体制を整えると同時に、川下である施工部門との一体運用を実現しようという目的だ。

「単に買う側ではなく、つくる側に入ることで、木材の調達リスクを減らし、建築プロジェクトとの連動もスムーズになります。使う側のニーズを開発に活かせる体制は、合理的かつ無駄のない木造建築を実現するうえで大きな強みになる」と赤松氏。そして、サプライチェーン全体の透明性や追跡性を高め、さらに木材の産地や伐採時期、加工工程を把握できるような情報の可視化にもつながり、建設業が森林資源の持続可能な活用を支える仕組みづくりにまで視野が広がるという。

木を育て、さらに建材として効率的に加工し、自社の建築物へと役立てる。木材のルートの整備の仕上げは、使い終えたあとの「終点」だ。建材としての役割を終えた木材の出口として、それを再資源化するための木質バイオマス発電も用意している。現在、山梨県大月市に、間伐材などを燃料とする発電所を建設。ここで生み出されたエネルギーは電力として利用されている。まさに「木を余すところなく使い切る」モデルだ。

「都市に建てられた木造建築が、役目を終えたあともなお資源やエネルギーとして循環していく。設計・施工だけでなく、素材の生成から再利用までを視野に入れた建設のあり方が、少しずつかたちになってきているように思います」

こうした木の循環のなかで、同社は独自の木造建築を世に送り出している。その代表例が、2022年に竣工した「Port Plus」だ。地上の主要構造部をすべて木で構成した高層純木造耐火建築物として、日本で初めて建築基準法の制限をクリアし、実現されたプロジェクトである。

「Port Plus」は、耐火性能や耐震性、耐久性を満たす建物を、現行法規のもとでどこまで木造でつくり切れるかを検証する目的も担っていた。都市部において高層純木造建築を成立させるためのノウハウを蓄積することを重視し、施工からデータ収集、フィードバックまでを含めた“実証的建築”としての役割を果たしている。

「実験的な意味合いもありましたが、設計から施工までの工程を通じて、木造ならではの知見や課題を社内で共有することができました」と赤松氏は振り返る。「都市でも木造は成立する」という確信は、こうした地道な取り組みから生まれている。

現在、大林組ではその後のプロジェクトにも「Port Plus」で得た知見を反映させており、今後は非住宅の中層建築や公共建築など、多様な木造化に対応できる体制づくりを進めている。技術としての木造を磨き、同時に循環の思想をそこに取り込む——同社の描く木造建築の未来像である。

森林と共生する街「LOOP50」の構想図

そして、その延長線にあるのが、「LOOP50」。約2万haの森林と約1万5千人が暮らす街をセットで設計し、建物と森林のサイクルを同期させようという壮大な構想だ。その設計思想は非常にユニークで、建物の一部を50年に一度解体するとともに、隣接する森林で50年かけて育った木を建材として使い、増築。これを毎年続けることで、森林の成長と、街の更新というふたつのサイクルを“同じリズム”でまわそうというのだ。

「LOOP50は、サーキュラーティンバーコンストラクションの未来のかたちのひとつなんです」。と語るのは、営業本部カーボンニュートラル・ウッドソリューション部部長の岡有氏。「このコンパクトシティは、50年で必要な木材の量と、それを賄う森林の広さや成長量を見据えて設計されています。そして、解体した建物の木材はバイオマスやリユース材として活用することも組み込まれている。森林の成長、利用、再生のサイクルが、街の更新というサイクルと同期する。循環型の都市の理想形だと思います」

もちろん、LOOP50はまだ構想の段階だが、同社では地方自治体と連携しながら、循環型の森林ビジネスを実現するための実証的な取り組みを始めている。そのひとつが、埼玉県飯能市での取り組みだ。 同市はブランド材「西川材」の産地として知られ、古くから林業と都市が共存する地域。大林組はこの地で、スマート林業の技術導入や地域資源の活用モデルづくりを通じて、まちづくりの検討を進めている。森林データの可視化、先端的な施業システムの導入検討、木材コンビナート構想――こうした地に足の着いた取り組みの一つひとつが、LOOP50の実現へとつながっていく。

木を「使う」だけでなく、「育て、活かし、また使う」へ。大林組の取り組みは、単なる木造建築の推進にとどまらない。苗木から始まる森林の循環を、建築の現場へ、そして都市のかたちそのものへと拡張しようとする視座に、未来の建設業の姿が垣間見えるだろう。

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当Webメディアと同名の書籍『森林循環経済』(小宮山宏 編著)が平凡社から2025年8月5日に刊行されました。森林を「伐って、使って、植えて、育てる」循環の中で、バイオマス化学、木造都市、林業の革新という三つの柱から、経済・制度・地域社会の再設計を提言しています。政策立案や社会実装、地域資源を活かした事業づくりに携わる方にとって、構想と実例の接点を提供する実践的な一冊です。
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