The impact of the GX-ETS price cap of 4,300 yen on forestry-related J-Credits (Part 2)
Updated by 相川高信 on February 06, 2026, 8:51 PM JST
Takanobu AIKAWA
PwCコンサルティング合同会社
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー/森林生態学および政策学をバックグラウンドに、林野庁や地方自治体の森林・林業分野の調査・コンサルティングに幅広く従事。特に欧米先進国との比較から、国内における林業分野の人材育成プログラムや資格制度の創設に貢献した。東日本大震災を契機に、バイオマスエネルギーを中心とした再生可能エネルギーの導入のための調査・研究に従事。FIT制度におけるバイオマス燃料の持続可能性基準の策定に参画。2024年7月より現職にて、気候変動を中心にサステナビリティ全般の活動をリードしている。京都大学大学院農学研究科において森林生態学の修士号、北海道大学大学院農学研究院において森林政策学の博士号を取得。
※前回のコラムはこちら
GX-ETS上限価格「4300円」が森林系J-クレジットに与える影響(前編) 制度設計と市場環境の変化を読む
2026年から始まるGX-ETSの第二フェーズでは、J-クレジットとJCM(二国間クレジット)の2種類が適格クレジットに決まった。JCMは、Joint Crediting Mechanismの略であり、日本が途上国と協力し、温室効果ガス(GHG)排出削減・吸収を行った場合、その貢献分を「クレジット」として両国で分け合う制度である。
対象企業の排出量は、日本の国内排出の6割をカバーするとされ、その10%であれば単純計算で約6,000万t-CO2/年となる。もちろん、その全てがクレジットでオフセットされるわけではないが、JCMの創出量は40万t-CO2/年程度であり、J-クレジットの大幅な不足も予測されていたところであった。
2024年度は、J-クレジットの創出量も160万t-CO2/年と過去最高を記録し、省エネ・再エネ系を中心に価格も上昇傾向にあった。一方で、この年の無効化・償却量は44万t-CO2と低位にとどまり、GX-ETSの開始を見据えた、プロバイダーや商社、もしくは多排出企業による「買いだめによる在庫」になっていたと考えられる。この「買いだめ」が2024年に入り増加傾向を示した市場で取引されるクレジットの価格動向の背景にあったことが実証的研究により示唆されており、上限価格の設定の際に考慮されることになった。

そもそもGX-ETSにおける上限価格は、排出枠が高騰して企業の負担が増え、生産拠点を海外に移転するなど、いわゆるカーボンリーケージを予防する観点から導入された。価格が高い方がCO2削減の促進につながるが、企業負担とのバランスも考慮する必要がある。
そのため、4,300円という上限価格は、石炭から天然ガスに転換するときの追加費用に相当し、企業が技術的・経済的に無理なく実施できる削減方策を想定したと解釈できる。
しかし、この価格設定は、石炭使用時よりCO2削減になったとしても、天然ガスも化石燃料であり、設備が10年~20年稼働すれば、やはり排出を続けることになる。そのため、2050年のネットゼロに向けては、4,300円という設定は、物価上昇も含めれば毎年5%程度の上昇が見込まれるとしても、当面の水準として決して十分とは言えない。せめて、石炭からバイオマスへの転換など、他の脱炭素化のオプションも考慮して価格水準が議論されるべきだっただろう。
現状では、森林系J-クレジットは5,000円~6,000円/t-CO2で推移しているため、GX-ETSの対策としては経済的合理性がなくなってしまった。つまり、「買いだめ」された森林クレジット在庫は、予定通りの価格では償却されない可能性が出てきているのである。このような状況を、森林・林業界はどのように受け止めればよいのだろうか?
第一に、森林クレジットは、あくまで追加的な収入と割り切るべきであろう。森林クレジットの創出には、認証費用などかかることは確かだが、そもそも炭素吸収のために森を育ててきた人もいないだろう。IEAは2050年のネットゼロ実現には、200米ドル/t-CO2程度の価格が必要としているが、日本のGX-ETSは国の削減目標(NDC)達成と結びついておらず、現行の制度設計では、そこまでの価格上昇は期待できない。
第二に重要なことは、GX-ETSというルール外での販売は引き続き可能だということだ。もともと、J-クレジットはGX-ETSとは別に発展してきたものであり、品質による差別化が可能で、相対取引により高く販売することもできる。J-VERの時代から、企業と良好な関係を構築し、地域課題の解決への貢献の意味合いも込めて、相場よりも高い価格でクレジットを販売してきた事例も多くある。また、森林認証の取得などにより、生物多様性や水源涵養など他の環境価値の保全効果をアピールして、ブランド化に成功してきた地域や林業事業体もあった。国際的にも、炭素の吸収・固定価値に加えて、地域コミュニティなど社会的な便益があるプロジェクトが好まれる。こうしたことから、売り手の工夫次第で、GX-ETSでの活用とは異なる価格帯の形成を目指すという方向性が考えられる。(PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー 相川高信)
※参考文献
広瀬朗子・大野輝之(2025)「排出量取引制度におけるクレジットの役割とは」連載コラム・シリーズ「GX-ETSを機能するカーボンプライシングにするために」第2回
竹林幹人ら(2025)「カーボン・クレジット市場におけるJ-クレジットの価格動向に関する分析」(一財)電力中央研究所社会経済研究所ディスカッションペーパー: SERC25003
Ecosystem Marketplace(2025)“State of the Voluntary Carbon Market 2025”