Turning water resource conservation into economic value: Quantifying and evaluating the effects of forest management.
Updated by 相川高信 on April 22, 2026, 8:44 PM JST
Takanobu AIKAWA
PwCコンサルティング合同会社
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー/森林生態学および政策学をバックグラウンドに、林野庁や地方自治体の森林・林業分野の調査・コンサルティングに幅広く従事。特に欧米先進国との比較から、国内における林業分野の人材育成プログラムや資格制度の創設に貢献した。東日本大震災を契機に、バイオマスエネルギーを中心とした再生可能エネルギーの導入のための調査・研究に従事。FIT制度におけるバイオマス燃料の持続可能性基準の策定に参画。2024年7月より現職にて、気候変動を中心にサステナビリティ全般の活動をリードしている。京都大学大学院農学研究科において森林生態学の修士号、北海道大学大学院農学研究院において森林政策学の博士号を取得。
森林が持つ重要な公益的機能の一つに、水資源の涵養がある。雨量に恵まれた日本は、普段は水資源の不足を感じることは少ないかもしれないが、これまでも少雨による渇水や断水はしばしば発生し、古くから水源林の造成や確保が行われてきた。さらには、気候変動の影響で豪雨が増加する一方で、降水量が少ない水不足の時期が続くことも増えると予測されている。また、半導体製造業や飲料メーカー、データセンターなど、水を大量に消費する企業活動が地下水資源を枯渇させるという懸念が起こっている地域もある。
こうした中で、森林の水資源涵養機能に注目が集まっている。科学的知見の蓄積とテクノロジーの進歩により森林整備作業による効果の見える化が進むことで、流域ランドスケープを単位とした森林管理の高度化につながることが期待されている。

水源涵養機能は、森林が持つ重要な公益的機能の一つである。その中には、洪水緩和、水質浄化、そして水資源貯留の3つがある。このうち、降雨から流出までの時間をずらす洪水緩和機能は、豪雨イベントが激甚化している中では重要であるが、稿を改めて論じることにしたい。
さて、2001年に日本学術会議は、農林水産大臣の諮問を受けて、森林の各公益的機能価値の貨幣換算を行った。洪水緩和、水質浄化、そして水資源貯留については、それぞれ5.6兆円/年、12.8兆円/年、8.7兆円/年と試算されている。
この学術会議の計算は森林の全ての機能について統一的に経済価値を算出した画期的なものであり、その後、現在に至る四半世紀の間まで、その結果が広く使われてきた。日本全体の森林を対象とした答申の金額を、その森林の状態にかかわらず、全国一律の値を案分して、各地域の森林の価値を算出するということが行われてきたのである。
このような経済的価値評価の推計が行われた背景には、20世紀後半からの国内外における環境意識の高まりと、同時に進んだ農林水産業の経済性の悪化と農山村の衰退への危機意識があった。
特に、森林を抱える中山間地域の市町村の多くは、水源涵養などの公益的機能、つまり生態系サービスを下流域の都市部も費用負担すべきだと考えていた。恒久的な財源の確保を求める市町村などを中心とした団体は、1986年の水源税構想に始まり、2003年には全国森林環境・水源税、2006年の全国森林環境税などの提案を繰り返してきた。そして、ついに2018年森林環境税・森林環境譲与税として悲願が実現することになり、現在、私たち納税者は、一人当たり年間1,000円を負担している。
この過程で注目すべきことは、税の名称から「水」が取れ、「森林環境」というより一般的な名称が用いられるようになったことである。これは、森林が持つ公益的機能のうち、二酸化炭素吸収への関心が高まったことによる。
1997年に京都議定書が成立し、2000年代前半から森林吸収源対策として、全国的に間伐が推進されるようになり、森林の整備が二酸化炭素の吸収・固定に貢献していることが広く理解されるようになった。森林環境税・森林環境譲与税も、税の目的として、地球温暖化防止が一番に掲げられている。
このような状況で、水に再び注目が集まるようになったのは、2023年9月にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言が公表されたことが大きい。TNFDは、投資家が自然関連の依存・影響を考慮した意思決定を行うことを目的として、企業に自然に関係するリスクと機会を特定・評価することを求めている。TNFDは、自然を陸域、海洋、淡水、大気の4つの領域に分類しており、捉えるべき自然の変化として「陸、淡水、海洋利用の変化」を挙げている。このことから、民間企業を中心に、水、そしてその涵養に寄与する森林に注目が集まっているのである。
こうしたことから企業の間で、自社の取水流域での森林の水源涵養機能の評価に注目が集まっている。学術会議の答申は日本の全森林による水資源貯留量を1,864億m3/年と推計しているが、前述のとおり、特定のエリアでの量を計算するためには、面積で案分するしか方法がなく、気象条件や土質、森林の状態などを反映するための確立された手法がなかった。
そこで、林野庁は簡易的な評価法の開発に着手し、解説資料と計算に用いる表計算シートを2026年3月に公表した。水資源涵養量を「森林流域で地下水を涵養し、基底流出に貢献しうる水量」とし、降水量、蒸発散量、直接流出量から基底流出量を算出する方法である。
具体的には、直接流出量は、主に地質で決まるとして、全国の観測データに基づき、降水量と直接流出量の関係を算出できるようにしている。蒸発散量については、樹種の違い(針葉樹/広葉樹、常緑樹/落葉樹)、森林の状態(立木密度、木の太さ・高さ)を反映できる。
これにより、必要な水源涵養量に対する森林面積の計算が、具体的な地域を想定してできるようになった。
ただし、この林野庁の簡易的な評価法は、間伐などの森林施業が適切に行われていることが前提となっており、個々の森林施業の効果を詳細に評価できるものではない。具体的には、間伐に伴う土壌水分条件の変化による降雨時の直接流出割合の増減、林床面蒸発の変化、下層植生の発達に伴う土壌浸透能の向上など、より複雑な水文過程の変化や実際には下層植生(とそれに保護される森林土壌)の状態を反映できないことに注意が必要である。
実は、かつても水資源涵養のために、上流の森林に投資を行う流域ランドスケープを単位とした取り組みがあった。例えば、当時の東京府は、水源である多摩川上流の森林の荒廃を防ぐために、1901年に8,000ha以上の水源林の経営に乗り出している。また、横浜市も1916年には山梨県道志村で2,800ha超の水源林を取得している。当時は、全国的に森林の荒廃が進んだ時期でもあり、森林を維持し表層土壌を保護することで水源涵養上の効果がすぐに期待できたのだろう。つまり、「森林があれば、水源涵養という公益的機能が発揮される」という単純な関係が想定されていたということである。
それに対して、現在の森林と水源涵養機能の関係は、もう少し複雑である。森林管理者としては、管理のための作業と水資源涵養量との関係を知りたいところである。具体的には、間伐の効果や、主伐(皆伐)による負の効果と周辺の保残帯(バッファーゾーン)の効果などがポイントとなる。
こうして、森林の水資源涵養機能・量をより精緻に定量化し、人為的な介入による「差分」を見える化する試みは、森林管理と水循環の指標の統合化を図るものであると言える。水資源に加えて、二酸化炭素吸収や生物多様性保全、土砂災害保全など、森林が持つ多様な機能と森林施業の関係が整理されれば、森林管理を一気に高度化させ、パラダイムを一変させる可能性を秘めている。
また、水源涵養量の評価には、シミュレーションソフトも開発されている。上述のような多様な森林の機能を組み込んだ科学的知見に基づくツールが開発され、流域ランドスケープ単位で森林管理の方針について合意形成を行っていくために活用されることが待たれる。(PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー 相川高信)
※参考文献:
・ 林野庁ウェブサイト「(参考)森林環境税を巡る経緯」(2026年4月13日アクセス)
・ 林野庁ウェブサイト「林地における水資源涵養量(貯留機能)の簡易評価手法」(2026年4月13日アクセス)
・ 日本学術会議(2001)「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申)付表 森林の多面的な機能の種類と定量評価の可否・試算例」(2026年4月13日アクセス)
・ 東京都水道局ウェブサイト「水道水源林とは」(2026年4月13日アクセス)
・ 横浜市水道局ウェブサイト「道志水源林」(2026年4月13日アクセス)