The historical significance of disposable chopsticks, which originated in Japan; The use of cedar wood supported the dining-out culture of the Edo period
Updated by 小倉朋子 on February 25, 2026, 10:22 AM JST
Tomoko OGURA
株式会社トータルフード/日本箸文化協会
(株)トータルフード代表取締役 食の総合コンサルタント/東証上場企業2社の社外取締役/亜細亜大・東洋大学・東京成徳大学兼任講師/食輝塾主宰/日本箸文化協会代表ほか/トヨタ自動車広報部に勤務後、国際会議ディレクター、海外留学を経て現職。飲食店、食品関連企業のコンサルティング、メニュー開発のほか、諸外国の食事マナーと総合的に食と生き方を学ぶ教室「食輝塾」を主宰。「食と心」を柱に、トレンド(分析、開発)から食文化、マナー、栄養、健康経営、食環境とメンタルまで、あらゆる食の分野に精通、専門が幅広いのが特徴。「箸文化と儀式」「日本の箸と特異性」「割箸と外食産業」について学術論文、箸に関する著書、監修多数。世界で唯一の日本箸文化の研究者といわれる。 トータルフード公式サイト 日本箸文化協会サイト
割り箸は日本で生まれました。そのため箸を主に使用して食事をする国の中で、割り箸を使用するのは日本の特長のひとつです。今日、外食産業において割り箸は、利便性や価格の側面に価値を置かれていますが、それ以外の役割があるのではないか、という視点で研究し、私が日本フードサービス学会に出した論文(2016)をもとに、利便性以外の割り箸の意義について書いてみたいと思います。
割り箸の始まりには2つの説があり、ひとつは14世紀、後醍醐天皇が吉野の皇居にいた1336~39年頃、下市から杉箸を献上したことに始まったという説です。いっぽうで19世紀に巡礼僧だった杉原宗庵が吉野の地を訪れ、吉野地方の樽丸割りを目にしたことから、杉の木の余材を利用して 下市町にて割り箸を作らせたのが始まりという説もあります。
いずれにしても「杉」の木がキーワードです。なぜ杉だったのでしょう。
杉の素材の生産地でもある吉野地方で割り箸の製造が盛んになった要因のひとつに雨量が挙げられます。吉野地方は年間降雨量が高いことで木々が育ち密集してしまうことになり、杉を一定期間ごとに間引く必要が生じ、間引かれた杉が様々な用具として使用された経緯があるのです。

もうひとつのはじまりとされる説の背景は、江戸時代になり大阪と江戸を結ぶ樽を運ぶ廻船の出現により酒樽用の杉材の需要が高まったことが要因にあります。吉野地方が供給地として酒樽生産の廃材を割り箸に加工するようになっていったのですが、江戸時代には江戸に料理茶屋が多く出来たため、酒樽を再利用した割り箸は、客に未使用の箸を提供できることに加え、洗浄の必要がなく管理が容易であったことから、需要が高かったと推察できます。
江戸時代の初期には、日本橋に白箸屋九郎が店を構え、京の一条新町では、天皇の箸を作る商いとともに箸屋という業種が定着しました。さらに江戸時代中期には、多くの料理茶屋などの飲食店が江戸だけで6000店舗でき、食事の場が家庭から外食へと広がりを見せます。芝居見物やお花見、行楽などの余暇の過ごし方も盛んになり、割り箸を使用する機会も増えていきます。こうして現在の外食産業に似たスタイルは江戸時代に確立されたといっても良いでしょう。
江戸時代の外食の一例を挙げると、鰻屋です。鰻屋では竹の割り箸である「引裂箸」「割かけ箸」が出現します。なぜ竹なのかというと、竹串は鰻を刺すには裂け易く、匂いがつきにくく油も浸みこみにくい等の利点があるからです。
また同時期には、蕎麦粉を団子状にした蕎麦掻きに代わり、細長い形状の切り蕎麦が生まれますが、これは箸で早く食べやすいことから生まれたと言われています。さらに各藩の地方料理の技術が伝えられて、現代の郷土料理店が発達していきます。郷土の特性を活かした箸や竹箸が添えられ、外食店における箸の種類も全国に広がりを見せていったのです。
以上のことから、江戸時代には人や物資の動きとともに飲食店が流行し、東西に流通していったと思われますが、割り箸が人と人との結びつきや料理との結びつきを深める役割も果たしていたのです。
現在使用されているような形の割り箸が全国に出回ったのは、明治30年頃とされています。飲食店は、会席料理から軽食を出す店まで業態のバリエーションが広がり、交通機関も整って商売の往来が盛んになり割り箸の需要も増大していきます。
明治から大正初期にかけて5種類の割り箸が考案され、割り箸も産業化されます。さらに大正時代には中国の都市部へ輸出されるようになり、その後、機械の開発に伴い、昭和初期には、杉素材でなくても種々の木々が割り箸の原料になり得るようになったといわれています。
客に「他人の使っていない未使用の箸を提供する」というサービス形態として、割り箸は外食産業において重宝な道具となり、様々な種類の「木の協力」を得て、今もなお、割り箸は外食には欠かせない道具として存続しています。(トータルフード代表取締役・日本箸文化協会代表 小倉朋子)