Updated by 『森林循環経済』編集部 on April 06, 2026, 8:53 PM JST
Forestcircularity-editor
プラチナ森林産業イニシアティブが推進する「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の実現を目指します。森林資源のフル活用による脱炭素・経済安全保障強化・地方創生に向け、バイオマス化学の推進、まちの木造化・木質化の実現、林業の革新を後押しするアイデアや取り組みを発信します。
ホルムズ海峡を巡る中東情勢の不安定化は、化石燃料を海外に依存する日本のエネルギー・経済安全保障の脆弱性を改めて浮き彫りにした。資源確保や脱炭素への抜本的な構造転換が急務となる中、日本が豊富に有する「森林資源」を燃料や化成品の原料として活用し、国内生産基盤を構築する構想が本格的に動き出している。
一般社団法人プラチナ構想ネットワーク(小宮山宏会長)は「国内森林資源を活用した成長戦略型バイオエコノミーの推進」を4月2日に発表した。脱炭素化と経済成長を両立させる「森林循環経済」のビジョンを示した上で、コスト高や市場未形成といった課題をいかに乗り越え、ビジネスとして社会実装していくかについて、現実的なロードマップを提示している。
国内におけるバイオマス資源活用の最大の課題は、既存の化石燃料に対する価格競争力の欠如と、それに伴う需要の不確実性である。この壁を突破するため、大きく4つの骨子からなる推進アプローチを提示している。
第一の骨子は、市場原理に委ねる努力目標ではなく、一定割合の利用を「規制」することによる確実な初期市場の創出である。
第二に、社会実装の起点として、サプライチェーンが比較的単純な「車両燃料」をターゲットに据え、ガソリンにバイオエタノールを10%混合する「E10」の早期導入を第一弾のアクションとする。燃料分野で需要を創出して生産基盤を確立し、将来的には化成品へと段階的に利用を拡大していく戦略だ。
第三は、国産バイオ燃料・化成品の一定割合使用を後押しする「規制・支援策」である。国産品の利用インセンティブ設計に加え、生産設備転換等の新規投資支援、実証に向けた規制緩和などを通じて、民間企業が設備投資に踏み切れる環境を整備する。
第四は、ゼロからの設備投資を回避し、既存の「製紙産業と石油化学産業の基盤」をフル活用する点にある。全国に点在する製紙工場が既に構築している木材集荷ルートや製造設備を活用して、国産バイオエタノールの量産化を進める。製紙工場をバイオリファイナリー拠点へと構造転換させ、既存の石油化学コンビナートと連携させることで強固なサプライチェーンを構築し、木質バイオマス資源で日本の産業を支える。

提言では、2030年・2040年・2050年を区切った段階的ロードマップを提示している。
2030年までの「短期フェーズ」は、規制と政府支援によって強制的に初期市場を立ち上げる期間と位置づけられる。車両燃料では特定地域での先行導入を経て全国で「E10」を導入し、国内製造エタノールを10%混合する体制を確立する。同時に、航空分野ではSAFの混合義務化をスタートさせ、化成品分野でも200万トンのバイオプラスチック導入を法的枠組みとともに進める。この期間は、ガソリンスタンドの改修や既存工場の転換に対する国からの設備導入補助など、官民の集中投資が促される。

2030年から2040年への「中長期フェーズ」は、確立したインフラをテコにバイオ産業を自立した成長産業へと押し上げる期間である。車両燃料は「E20(エタノール20%混合)」へと基準が引き上げられ、航空分野のSAF混合比率も35%まで高められる。化成品分野でもバイオプラスチックの導入量を500万トンへと一気に拡大し、経済性を確保していく。
そして2050年に向けた「最終フェーズ」では、車両燃料の「E100」導入やSAFの70%混合を経て、段階的に「化石資源由来ゼロ」のネットゼロ社会を達成する。リサイクルとバイオ資源のみで化学産業の原料供給を100%賄い、エネルギー分野でも化石資源ゼロを目指すというこのロードマップは、企業が巨額の設備投資リスクを取るための極めて強力な後ろ盾となる。
この需要創出のシナリオを背景に、各産業界による具体的な実証や事業化に向けた動きが進んでいる。「プラチナ森林産業イニシアティブ」には、2026年4月時点で法人71社を含む109の団体が参画し連携している。
サプライチェーンの中核を担う製紙業界において、王子ホールディングスは鳥取県の米子工場に、年間最大1000キロリットルの木質由来エタノールの製造能力を持つパイロット設備を2025年に竣工した。2030年には年間10万キロリットルの商用生産を目指し検討を進めている。また、日本製紙も2030年ごろをターゲットに数万キロリットル規模の国産材由来バイオエタノールの製造開始を計画し、SAFなどの原料としての利用を見込んでいる。レンゴーの子会社である大興製紙も、建築廃材などの未利用バイオマス資源を活用し、2027年までに年間2万キロリットルのバイオエタノール生産を目標とした商用化準備を進めている。
化学・エネルギー・商社を巻き込んだ連携も活発化している。三菱ガス化学はTREと提携し、千葉県で木質バイオマスなどを活用したグリーンメタノール製造の商業化を目指す検証を開始した。さらに、丸紅、三菱ケミカル、中国木材、日本航空、大林組の5社は、国内の森林資源からSAFやバイオナフサを製造する事業について、2030年ごろの商用化に向けた共同検討を進めている。
この森林資源フル活用構想は、初期段階における臨海部の製紙工場を活用するモデルからスタートし、中長期的には全国の森林地域において大規模林業・製材工場・バイオプラントを一体化して展開する「地域分散型モデル」へと移行していく。

現在の4倍の森林資源を活用し、伐採と再造林のサイクルを確立するこのビジョンが実現すれば、日本全体の約10%に当たる約1億トンのCO2排出量が削減される。同時に、輸入資源の削減効果や花粉症対策効果なども含め、約4.7兆円の直接経済効果が出ると試算している。
需要の確実な創出は、林地の集約化や機械化、林道整備といった上流のインフラ投資を促し、日本の林業を儲かる産業へと転換させる力を持つ。
森林資源の活用は、エネルギー安全保障、産業競争力、地域経済という複数の政策領域を横断するテーマである。今回の提言は、その接続を具体的な産業設計として提示した点に意義がある。
一方で、その実現は制度設計、コスト負担、産業構造転換という高いハードルを伴う。中東リスクを契機に浮上した資源自立の議論は、森林資源を起点とする産業再設計へと進むのか。それともコストと供給制約の壁に直面するのか。政策判断と企業投資の動向が、その現実性を決定づける。
高市首相が議長を務める「日本成長戦略会議」では、17の成長分野の一つとして「合成生物学・バイオ」が取り上げられ、検討が進められている。今回の提言にある国産バイオ燃料・化成品の生産・利用を推進する施策が盛り込まれることが期待される。
※参考リンク
プラチナ構想ネットワーク「国内森林資源を活用した成長戦略型バイオエコノミーの推進~輸入原油・ナフサ依存から森林資源が拓く国産燃料・化成品の時代へ」
日本成長戦略本部/日本成長戦略会議|内閣官房ホームページ