CSV as a management strategy for the forest industry: Common regional value created by forest resources
Updated by 中野正也 on March 11, 2026, 8:19 PM JST
Masaya NAKANO
株式会社グローバル事業開発研究所
1981年早稲田大学理工学研究科応用化学専攻修了後、株式会社三菱総合研究所入社。エネルギー政策、経営コンサルティング、海外事業に関わる業務を担当。2012年株式会社三菱総合研究所を退社、同年株式会社グローバル事業開発研究所設立、代表取締役に就任。併せて2015年株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツ取締役、2024年同社取締役副社長に就任。著書に「成功率を高める新規事業のつくり方」。
CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)ということばがあります。これはマイケル・ポーターとマーク・クラマーが2011年に新たに提唱した経営戦略の概念です。その最初の論文は、DIAMONDハーバードビジネスレビュー(2011年6月号)に、「経済的価値と社会的価値を同時実現する共通価値の戦略」として発表されました。それ以降、CSVの考え方は多くの企業で取り入れられています。プラチナ構想ネットワークが提唱している、森林産業の革新や森林資源を活用したバイオマス化学への展開は、まさにこのCSVの概念に合致する活動であると考えられます。
CSVと対比してよく論じられるものとしてCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)があります。CSRは、企業本来の営利活動と並行して、従業員、取引先、地域社会、環境などのステークホルダーに対して責任ある行動をとる概念です。具体的には、労働環境の整備、社会貢献活動、環境保護活動などを自発的に行おうとするものです。いわば、企業の営利活動とCSR活動を切り離して考え、両者をそれぞれ行うものと言えます。
これに対してCSVは、経済的価値と、社会課題の解決(すなわち社会的価値)を同時に実現することが、企業が追求すべき事業であるという考え方です。
CSVの考え方は、すでに、GE、ネスレ、ダノンなど欧米の多くのグローバル企業に広がっています。日本でも、例えば伊藤園は「グループ行動規範」と「方針」の中でCSVを明示しそれに沿った事業活動を行っています。伊藤園が展開する「茶産地育成事業」では、茶葉原料の安定確保による経済的価値の追求と同時に、茶栽培者に対して、栽培技術、経営管理技術の支援などを行っています。これにより、耕作放棄地の解消、地域雇用の創出、環境負荷の低減といった社会的価値を創造することを追求しています。
また味の素は、「経営の基本方針」として、ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)を掲げ、「事業を通じて社会価値と経済価値を共創する取り組みにより成長」するとしています。このほかにも様々な業種で多くの企業が、CSVを企業経営の基本に据えて活動しています。これに加えて最近は、農林水産省がCSVに関する研究を実施しているほか、日本農業経営学会が研究大会のテーマとして掲げるなど、CSVに関する研究も広がっています。
これに対して森林産業ではどうでしょうか? CSVということばはまだあまり聞かれないように思います。
しかし翻って考えてみると、森林の管理を適切に行いながら樹木を育成して活用することは、その木材製品の販売を通じて経済的価値を得るのと同時に、森林の有するCO2の吸収能力や生態系の維持に貢献し、地域に雇用を生み出すなど、その事業活動を通じて様々な社会的価値を同時に実現するものと言えるのではないでしょうか。
更に近年、日本が有する豊富な木質資源を原料として活用し、バイオマス化学により、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空機燃料)やガソリン混合用のエタノールなどの燃料やプラスチックなどの化学品を製造しようという取り組みが始まっています。これまで、原油という輸入された化石資源から作られていた燃料や化学品を、国内で得られる木質資源から作ることができれば、エネルギー資源の自給率を高め、かつCO2の削減にも大きく貢献できます。これにさらに廃プラスチックリサイクルという資源循環も組み合わせれば、将来は、国内の木質資源により、持続可能な化学品のバリューチェーンを構築することさえ可能と考えられます。
これらの活動は、木材や、木質由来の燃料・化学品の生産・流通を通じて、経済価値を生み出すと同時に、社会課題の解決に貢献し、持続可能な社会を実現するものです。これはまさにCSVの活動そのものであると言えます。
しかしこれらの活動のためにはまだ課題もあります。
日本の林業は、急峻な地形や管理が不十分なことなどから、まだ生産性が低く、コストが高いのが現状です。この木質資源を原料として燃料や化学品を生産すると、当面は、既存の原油由来の製品に比べて、どうしても燃料や化学品のコストが高くなってしまいます。これに対しては、CSVの2つの価値のうちの社会価値を、経済価値に換算して再評価し、木質由来の燃料や化学品の導入・普及のための施策を講じていくことも一案ではないかと考えます。
森林産業は、各地域の中で、地域社会や地域内の様々な産業と連携しながら活動する地域産業であるとの側面もあります。今後、地域に賦存する森林資源から、木材、木製品のほか、燃料や化学品までを生産する地域産業の将来の姿を描き、地域内の関係者がその実現に向けて協力していってはどうでしょうか?
森林産業に関わるすべての企業が、CSVの考え方を経営戦略の根幹に据え、経済価値と社会価値を同時に実現する事業活動を通じて、社会課題の解決に貢献しながら、持続的に発展することを期待したいと思います。(株式会社グローバル事業開発研究所 代表取締役 中野正也)