Transforming food waste through cutting-edge technology and business: A circular economy that fully utilizes the luxury of photosynthesis
Updated by 小宮山 宏 on March 12, 2026, 8:39 PM JST
Hiroshi KOMIYAMA
(一社)プラチナ構想ネットワーク
東京大学工学部教授、工学系研究科長・工学部長、東京大学総長(第28代)を経て、2009年三菱総合研究所理事長に就任。2010年プラチナ構想ネットワーク会長(2022年 一般社団法人化)。その他、STSフォーラム理事長、一般社団法人超教育協会会長、公益財団法人国連大学協力会理事長、公益財団法人国際科学技術財団会長、一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター理事長など。また、ドバイ知識賞(2017年)、イタリア連帯の星勲章(2007年。)や「情報通信月間」総務大臣表彰(2014年)、財界賞特別賞(2016年)、海洋立国推進功労者表彰(2016年)など、国内外の受賞も多数。
前回に続き「光合成の国・日本」を語るうえで欠かせない視点となるのが「食」です。私たちが日々消費するカロリーの源をたどれば、すべては植物が行う「光合成」に行き着きます。しかし、世界では生産された食料の約30%が失われるという「フードロス」が依然として深刻な課題となっています。この課題に対し、単なる「もったいない」という精神論にとどまらず、最先端の技術やビジネスの力によって、新たな価値を創出し、循環経済を実現していくための道筋を提示します。
人間は一人あたり「100W」相当のエネルギーを消費し熱を発する存在です。これを1日に換算すると、およそ「2100キロカロリー」の基礎代謝に相当します。そして、人間が消費するエネルギーの約20%である「20W」は、脳を働かせるために使われています。スマートフォンを動かすのに充電が必要なように、人間が生き、考え、動くためのエネルギー源も、その根本はすべて植物が行う「光合成」によって太陽エネルギーを固定化したものなのです。
私たちが食べているものは、米や小麦はもちろんですが、例えば豚肉や鶏肉も、元をたどれば飼料であるトウモロコシなどの光合成の産物です。実は、世界で生産されるトウモロコシの大部分は人間が直接食べるのではなく、家畜の飼料や燃料となっています。肉になるエネルギーの変換効率は、鶏で20%、豚で15%、牛に至っては10%程度にまで下がります。また、海の魚も、深層から湧き上がる窒素などの栄養塩を使って生長する植物プランクトンの光合成に行き着きます。すべての生物の営みのベースは光合成であり、私たちはその「光合成の成果」を食べているのだという認識に立つ必要があります。
現在、世界で生産される米・小麦・トウモロコシといった三大穀物の総発熱量を計算すれば、理論上は世界の80億人が食べていける水準の生産量があると考えられます。にもかかわらず、全体で約30%ものフードロスが発生しているのが現状です。
食べ物はすべてカロリーになる資源であり、決してゴミではありません。人間が食べて脳や身体のエネルギーとして使い切った後ならともかく、人間の体内に入らずにそのまま廃棄されるフードロスには、光合成で生み出された貴重なエネルギーが未利用のまま残っている状態なのです。これほどもったいないことはありません。
フードロスの課題に対する技術的アプローチとして、北海道大学の触媒科学研究所から生まれた「プラチナ触媒」をご紹介します。
野菜や果物は、収穫後も植物ホルモンである「エチレンガス」を放出し、自らの老化(追熟)を早めてしまいます。実はプラチナ触媒は、元々はエチレンから有用な化学物質を作る研究の中で、意図せず二酸化炭素と水に完全酸化(燃焼)させてしまったことから生まれたものでした。しかし、この特性が冷蔵庫内のような低温環境下(0℃など)でもエチレンガスを完全分解できる画期的な技術となり、青果物の熟成の進行を抑制することに成功したのです。

これにより、流通プロセスにおけるフードロス削減に大きく寄与しています。すでに日立GLSの家庭用冷蔵庫に搭載されているほか、北海道のコンビニエンスストアチェーンである「セコマ」グループの巨大な物流倉庫などで導入されており、白菜やキャベツなどの歩留まりが大幅に向上し、触媒の設置コストを上回る経済効果を生み出しています。
一方で、ビジネスの視点からフードロスの構造を変える動きもあります。JR東日本で駅ナカビジネス「エキュート」などを手掛けた鎌田由美子氏(ONE・GLOCAL代表)らによる青森の「シードル」(リンゴのお酒)の取り組みです。
従来、農産物は少し傷がついただけで「規格外=廃棄」とされてきました。しかし、その傷ついたリンゴに「発酵」という時間をかけることで、元の果実以上の高付加価値を持ったシードルへと転換させることができます。さらに、シードルは3年ほど寝かせると黄色く熟成し、より高値で取引されるようにもなります。また、ONE・GLOCAL社の取り組みには、耕作放棄地に放置されたお茶の実から、高い美容成分を含む貴重なオイルを抽出して販売するといった事例もあります。
フードロス削減を、単なる「もったいない」という精神論にするのではなく、時間をかけてより美味しいもの、美しいものを生み出す「贅沢な価値創造」へと昇華させること。これが、これからの持続可能なビジネスモデルの鍵となります。
現在、人間が化学肥料として人工的に作り出す窒素(ハーバー法による空中窒素の固定)の量が、自然界のバクテリアによる窒素固定量を上回るとの指摘もあり、地球の生態系が持続できる生産の限界に近づいていることを示す一つの兆候でもあります。時間をかけて生み出された「光合成という贅沢」を、私たちが食べることなく廃棄する余裕はもうありません。
技術による鮮度保存と、ビジネスによる価値変換。この両輪は、フードロスを「ゴミから資産」へと転換する重要な鍵となります。2050年に向けた循環型社会、すなわち私が提唱する「プラチナ社会」を築いていくための確かな一歩なのです。(プラチナ構想ネットワーク会長・『森林循環経済』名誉編集長 小宮山宏)
※参考リンク
フードロス削減コンソーシアム| 北海道大学 産学・地域協働推進機構
ワン・グローカル社長 鎌田由美子さん…好奇心がエネルギーを生み出す: 読売新聞