Updated by 『森林循環経済』編集部 on July 14, 2026, 10:37 AM JST
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プラチナ森林産業イニシアティブが推進する「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の実現を目指します。森林資源のフル活用による脱炭素・経済安全保障強化・地方創生に向け、バイオマス化学の推進、まちの木造化・木質化の実現、林業の革新を後押しするアイデアや取り組みを発信します。
少子高齢化と過疎化が進む人口約3700人の町、鳥取県日南町。かつて年間約3万立方mだった木材生産量は、今や年間12万立方m規模の原木取扱量へと増加している。古くから「たたら」(製鉄)の歴史を持つ森豊かな町とはいえ、なぜこれほどの増産が可能になったのか。その入り口には、「木材団地」という巨大な受け皿と、行政の強力な支援、そして林業の採算構造を変え「循環型林業」を実現する緻密なシステムがあった。日南町から『森林循環経済』編集部が3回にわたりレポートする。

鳥取県南西部に位置する日南町は、面積の約9割を森林が占める自然豊かな町である。しかし、最新のデータでは人口は約3700人まで減少し、高齢化率は50%を超える過疎地域でもある。
町の中心部に近い「日野川の森林木材団地」に足を踏み入れると、その静かな町のイメージは覆される。敷地内にはスギやヒノキの原木が山積みにされ、木材を運ぶフォークリフトやトラックが忙しく行き交っている。
2006年ごろには日南町の木材生産量は年間約3万立方m程度に留まっていた。背景には、深刻な構造的課題があった。戦後の拡大造林で植えられたスギやヒノキが全体の約6割(8齢級〜11齢級)を占めて一斉に収穫期を迎えているにもかかわらず、林業従事者の減少や、手入れの同意が取れず集約施業を阻む「不在村地主」の増加により、森林の未整備が進んでいたのである。木は切って使わなければ新たな苗を植えることができず、森の循環は滞り、経済的価値も生み出せない。

しかし、日南町は「循環型林業」への転換を強力に推し進め、今や原木取扱量は約12万立方m以上に達している。この取り組みは、プラチナ森林産業イニシアティブが掲げる「10万立方m/年のストックヤード構想」の方向性と重なる先進的な事例として位置づけられる。
日南町でこれほどまでに木材が動くようになった最大の要因は、2006年に整備された「日野川の森林木材団地」の存在である。
通常、山から切り出した木材は、建築用の直材(A材)や合板用(B材)、チップやバイオマス燃料用(C・D材)など、用途に合わせて山土場で選木・仕分けされ、それぞれ別々の市場や工場へと運ばれる。しかし日南町では、これらすべての需要元を一つの団地内に集約した。

日南町森林組合の木村実次組合長は、その仕組みのメリットを次のように語る。「真っ直ぐな直材だろうが、曲がった木だろうが、ここに持ってくればお金になるということが非常に大きな魅力です」。加えて、この団地は町内のどの山林からもトラックで30分程度で到着する立地にあり、小回りの利く中型トラックでも効率よく運搬できるという地理的優位性も備えている。
山から出せば確実に買い取ってもらえる「全量引き取り」が可能になったことで、山土場での煩雑な選木作業や、複数箇所へ運搬する手間とコストが不要になった。この物流の大幅な合理化が現場の負担を減らし、木材搬出量の増加に直結したのである。
さらに、木材の価格決定プロセスにも独自のシステムが導入されている。木材価格は市況によって大きく変動しがちだが、日南町森林組合では、木材を買い取る工場側、森林組合、そして山から材を出す素材生産業者の3者で事前に協議し、数ヶ月先の買い取り価格を決定する「オープン価格協定」を結んでいる。これは、一定期間の買い取り価格を事前に取り決め、関係者に公開(オープン)にするという独自の仕組みである。
もちろん、ウッドショックのような急激な市況変動のリスクへのヘッジも備えられている。固定期間中であっても、異常事態の際には速やかに3者で緊急協議を行い、翌月からの価格を柔軟に再設定することで共倒れを防ぐルールとなっている。

「木を出す側からすると『この木を出せばいくらになる』と簡単に計算が立ち、安心できます。この仕組みがあるからこそ、その分を山主さんへ確実に還元できるのです」と木村組合長は語る。この画期的な仕組みを成立させるため、当時はまだ若手だった木村組合長らは、自ら素材生産業者のもとへ何度も足を運んでヒアリングや説得を重ね、緩やかな連合体である「日南町木材生産事業協同組合」を組織し、3者協議の土台を作り上げたという。
買い取りと価格の透明性が確保されたことで、山主への利益還元が約束され、安心して山から木を切り出す判断につながっている。
全量引き取りとオープンな価格協定の導入によって数ヶ月先の収益予測が確実に立つようになったことは、現場の事業者が高額な高性能林業機械への投資リスクに踏み切るための強力なインセンティブと安心材料にもなった。
町内の伐採現場を訪れると、急傾斜地対応のスイス製4輪多関節型作業機械「スパイダー」などが稼働している。急斜面でも四脚で歩行するように移動し、ハーベスターアタッチメントを装着することで伐倒から枝払い、玉切りまでをアーム1本でこなすこの機械は、チェーンソーを使った危険な手作業を減らし、労働災害の防止と生産性の向上を両立させている。

こうした現場の挑戦を、行政も強力にバックアップしている。日南町農林課の高木康平室長は次のように語る。「2017年から取り組んだ『林業成長産業化地域創出モデル事業』が近年の大きな転換点です。森林資源のカスケード利用を軸とした循環型林業の再構築などを目指し、町単独の補助事業などを展開しています」。
町の説明によれば、皆伐後の再造林では、国・県の補助に町単独の補助を上乗せして実質補助率を100%に引き上げている。さらに、本来は造林補助の対象外である事前の伐開費用や10年分の森林保険の経費までも補助対象にすることで、植栽時の自己負担を完全にゼロにしている。さらに、事業の規模拡大を条件に高性能林業機械の導入費も支援している。
加えて、植え付け後に必要となる下刈りや雪起こしといった保育経費についても、森林組合が独自の基金から自己負担分を支援しており、町と組合の両輪によって森林所有者の費用負担を無くす仕組みを整えている。
また、日南町自らが率先して地元産FSC認証材をふんだんに使用した木造庁舎を建設するなど、公共施設等への木材利用を通じて自ら「出口」を牽引してきた。


日南町の循環型林業は極めて完成度の高いシステムに見えるが、現場は決して手放しで喜べる状況にはない。現在は行政と森林組合の支援で山主の自己負担ゼロを実現しているが、植栽から十数年後に必要となる除伐や枝打ちといった「収益を生まない保育作業」の費用を将来誰が負担するのかという課題は未解決のままだ。
そして、この「日南モデル」を他地域へそのまま横展開できるかと言えば、ハードルは高い。トラックで30分圏内という比較的狭い集荷圏に、木材団地やLVL工場などの出口産業が集積していることが、日南町の特徴の一つだ。加えて、日南町においても「1つの山林に多数の共有名義人がいて合意形成ができない」といった根深い権利調整の壁には常に悩まされている。
先進地だからこそ見えてきたこれらの「次なる課題」をどう乗り越えていくのか。日南町の取り組みは、日本の林業が直面する構造的課題を映し出している。いくら生産体制を整えても、木材を最終製品へと変える強力な存在がいなければ循環は回らない。その中核を担うのが、構造用スギLVLのJAS認定を取得し、A材からC・D材までを使い切る出口産業、LVL工場「オロチ」である。=続く
※参考リンク
日南町森林組合
日南町の概要/日南町