A Forest-Based Landscape Approach: Defining "Nature Positivity" in Watersheds
Updated by 相川高信 on March 25, 2026, 10:31 AM JST
Takanobu AIKAWA
PwCコンサルティング合同会社
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence シニアマネージャー/森林生態学および政策学をバックグラウンドに、林野庁や地方自治体の森林・林業分野の調査・コンサルティングに幅広く従事。特に欧米先進国との比較から、国内における林業分野の人材育成プログラムや資格制度の創設に貢献した。東日本大震災を契機に、バイオマスエネルギーを中心とした再生可能エネルギーの導入のための調査・研究に従事。FIT制度におけるバイオマス燃料の持続可能性基準の策定に参画。2024年7月より現職にて、気候変動を中心にサステナビリティ全般の活動をリードしている。京都大学大学院農学研究科において森林生態学の修士号、北海道大学大学院農学研究院において森林政策学の博士号を取得。
2026年7月、熊本市で第2回グローバルネイチャーポジティブサミットが開催される。主催はネイチャーポジティブイニシアティブと国際自然保護連合日本委員会、ICLEI日本。2026年10月にはアルメニアのエレバンで開催される国連生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)で、生物多様性世界枠組(GBF:Global Biodiversity Framework)の進捗状況の評価が行われる予定である。本サミットではそれに先立つ形で、企業や金融機関と地方自治体の貢献が議論される。
その中で、重要なテーマの一つになっているのが、ネイチャーポジティブの実践に向けた「ランドスケープアプローチ」である。そもそも、本サミットが熊本で開催される理由の一つは、水資源を守りながら活用していくランドスケープアプローチが官民連携で進められていることにある。会議終了後のエクスカーションでは、阿蘇山から有明海・八代海までの流域単位でのランドスケープの見学が予定されている。
一方で、国内の森林・林業関係者にとって、ランドスケープアプローチという言葉は、あまり馴染みがない。そこで、本稿ではランドスケープアプローチの概念の発展、そして森林を含む日本のランドスケープにおける「ネイチャーポジティブ」の方向性について論じてみたい。
「ランドスケープ」は日本語では「景観」と訳され、「森と草地のような異質な生態系(景観要素)がモザイク状に分布する空間の全体的なシステム」のことである。
ランドスケープアプローチの提唱者の一人であるJeffrey Sayer氏は2013年の論文で「農業や鉱業、その他の生産的な土地利用が環境と生物多様性目標と競合する地域において、社会、経済、環境目標を達成するために土地を配分、管理するための道具とコンセプトを提供するためのアプローチ」としている。つまり、開発利用と保全が、それぞればらばらに個別最適を目指すのではなく、一定の空間(ランドスケープ)内で利害調整を行い、空間全体の最適化を目指すものである。
ただし重要なことは、「全体として何が最適か」という問いの答えは、科学的に一つに決まるものではなく、関係者の合意形成の結果として導かれるものであることだ。そのため、Sayer氏らはランドスケープアプローチの10の原則を考案している(表)。この中では、「多様なステークホルダーの参画」を得て「合意に基づく透明な変化のロジック」に基づき「多機能性を追求」するなど、具体的にランドスケープレベルを用いて地域開発を行うための原則が整理されており、参考になる。

森林・林業関係者にとって、連続した空間を考えること自体は目新しいことではない。
例えば森林が持つ多様な機能を最大限に発揮させるために、場所ごとの特性に合わせて森林の役割を区分する「ゾーニング」がある。日本においては、木材生産を優先させる「生産林」と水源かん養や山地災害防止などの公益的機能を重視する「環境林」の大きく二種類に分けて、誘導施策を当てはめることが行われている。制度的には、全ての市町村が作成する市町村森林整備計画において、上記の考え方に基づくゾーニングが行われてきた。
ただし、これらの調整はあくまでも森林内での区分であり、他の土地利用区分、例えば農地は農地法の中で、河川とその周辺環境は河川法、海岸は海岸法の枠組みで考えられている。そのため、ランドスケープアプローチで想定されているような、農業や宅地造成など複数の土地利用目的の間での調整を行う土地利用マスタープランのような行政ツールは今のところ存在しないと言ってよい。
一方で、実際的には森林から河川を通じて、農地や草地、市街地、海までのつながりを「流域」という言葉で意識した研究やイニシアティブが複数存在する。例えば、宮城県で牡蠣の養殖漁場を守るために、養分供給により漁獲資源を支えている上流の森林の整備を行う活動などが有名である。
興味深いことに、日本発の国際的なアジェンダ創出として、2025年10月に提案された「SWGs宣言―⼈と社会と地球の調和による、持続可能なウェルビーイングの未来へ―」でも「流域」について言及されている。ポストSDGsのグローバルアジェンダとして構想されているSWGs(Sustainable Well-being Goals)では、「ヒト・社会・地球の調和」を掲げており、その活動単位として流域というランドスケープがふさわしいと考えられている。
ただし、気を付けないといけないことは、流域単位で何を「ポジティブ」と捉えるかは、10原則のとおり、ステークホルダーの「共通の関心事項から始める」、つまりボトムアップで決定されるという点である。何を保全したいのか、それを保全することがなぜポジティブなのかを地域ごとに決めなければならない。
このようなアプローチにおいて、森林がランドスケープの構成要素として重要な役割を果たしているものは多い。例えば、群馬県みなかみ町や宮城県南三陸町では、イヌワシ保全のために人工林を伐採して餌場を創出したり、広葉樹林化を進めたり、といった取り組みを「ポジティブ」なものとして捉え、自然保護団体や地域協議会などの参画も得て活動している。
これらのイヌワシ保全のプロジェクトの目的も実は「持続的な地域づくり」である。SWGsで掲げられた「豊かさと希望を次世代へとつないでいく」目標を達成するために、地域の森林・林業関係者の積極的な参画が期待される。
※参考文献
・ Sayer et al.(2013)”Ten Principles for a landscape approach to reconciling agriculture, conservation, and other competing land uses”
・ 日本景観生態学会ホームページ(2026年3月10日閲覧)
・ SWGs宣言―⼈と社会と地球の調和による、持続可能なウェルビーイングの未来へ―