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【神主の目線】木質カードゲームは森と人をつなぐ対話の入口になり得るか 森林循環経済と文化の育て方を考える305

[The Priest’s View] Could a wood-based card game be a gateway to dialogue connecting forests and people?

Updated by 青木和洋 on June 01, 2026, 9:28 AM JST

青木和洋

Kazuhiro AOKI

株式会社WSense 代表取締役 / DELTA SENSE 製作委員会

株式会社WSense 代表取締役 / DELTA SENSE 製作委員会 福島県会津若松市出身。華道/茶道/能楽を嗜む家柄で、幼い頃から日本文化に触れて来ました。木に興味を持ち始めたのは、宮大工の「カンナ削り」を目撃して業の奥深さに気付かされた時から。現在は神主として得た知見を基に公益に繋がる取り組みを推進中。東京青年会議所所属 / 大学院卒、MBA(経営学修士)取得 / 4歳の頃からボーイスカウトとサッカーも両立中。DELTA SENSE 公式HP 株式会社WSense

森林循環経済という言葉を考えるとき、私たちはつい「木をどう使うか」「木材の価値をどう高めるか」という方向に意識を向けます。
もちろん、それは大切な視点です。
伐って、使って、植えて、育てる。
その循環を経済の中に組み込み、森が持続的に手入れされる状態をつくることは、これからの社会に欠かせない課題です。
しかし、私は神職として、またDELTA SENSEという木質カードゲームを制作する立場として、もう一つの問いを持っています。

DELTA SENSEがひらく、森・都市・人の新しい関係性

それは、木は本当に“使われた”だけで循環したと言えるのかという問いです。
木材として加工され、商品となり、誰かの手元に届く。
そこまでは、たしかに物質としての循環です。
けれど、その木に触れた人が森のことを考えたか。
地域のことを思い出したか。
自分の暮らしや仕事と、森との関係に気づいたか。
誰かと対話し、次の行動を起こすきっかけになったか。
そこまで含めて初めて、木は社会の中で本当の意味を持ち始めるのではないでしょうか。

私が取り組んでいるDELTA SENSEは、木質カードを用いた対話型のカードゲームです。
カードには、社会課題や未来の兆しを表す「現象」、それを支える資源や本質を表す「実態」、そしてそれらが結びついて生まれる世界観や可能性を表す「空間」という三つの視点があります。
参加者はカードを引き、組み合わせ、そこから問いを立てます。
たとえば、地域の課題と企業の資源を組み合わせる。
未来の社会変化と、自分たちの持つ技術を重ねる。
あるいは、普段は別々に考えていた人・物・土地・記憶のあいだに、新しい関係性を見つける。

DELTA SENSEが目指しているのは、正解を出すことではありません。
むしろ、すぐに正解へ飛びつく前に、見えていなかった前提や、言葉になっていなかった違和感を浮かび上がらせることです。
これは、森林循環経済にも深く関わる視点だと感じています。

単なる資源ではない森の価値

森の価値は、数値だけでは語りきれません。
炭素固定量、材積、価格、流通量。
もちろん、それらは重要です。
しかし、森は単なる資源ではありません。
森は、時間です。
記憶です。
水を蓄える場であり、空気を整える場であり、地域の営みを支える背景でもあります。
そして、人間が自然との距離感を考えるための鏡でもあります。

にもかかわらず、都市で暮らす私たちは、森を遠いものとして捉えがちです。
木製の商品を手にしても、それがどこの森から来たのか、どのような人の手を経て届いたのか、なぜその木を使う必要があったのかまでは、なかなか想像が及びません。
ここに、森林循環経済の一つの難しさがあります。
森の価値は存在している。
木を活かそうとする人もいる。
地域で挑戦している事業者もいる。
けれど、その価値を都市の人間が自分ごととして受け取るための“入口”が不足しているのです。
私は、木質カードゲームという小さな道具が、その入口になり得るのではないかと考えています。
カードは、手に取ることができます。
並べることができます。
人と人のあいだに置くことができます。

そして不思議なことに、カードが一枚そこにあるだけで、人は少し話しやすくなります。
「このカードは、今の地域課題に似ている」
「この資源は、うちの会社にもあるかもしれない」
「この組み合わせなら、新しい企画になりそうだ」
「自分はこの言葉を、こう捉えていたのだと気づいた」
このように、木のカードは単なる遊具ではなく、対話を生むきっかけになります。
そして、その対話が生まれた瞬間、木はただの素材ではなくなります。
人の認識を変え、関係性をつくり、行動のきっかけを生む存在になります。

人の関心も回すための対話

森林循環経済を進めるうえで、私はこの「対話」の役割をもっと重視してよいのではないかと感じています。
なぜなら、循環とは物だけの話ではないからです。
お金が回る。
木材が回る。
資源が回る。
それも循環です。
しかし、その前提として、人の関心が回らなければなりません。
理解が回らなければなりません。
問いが回らなければなりません。
そして、森に関わる意味が、次の誰かへ手渡されなければなりません。
その意味で、DELTA SENSEは森林循環経済を「知るもの」から「考えるもの」へ変えるための試みでもあります。

森林循環経済という言葉を聞いただけでは、自分に何ができるのか分からない人も多いはずです。
しかし、木のカードを手に取り、誰かと話し、自分の仕事や地域と結びつけて考えたとき、その言葉は少しずつ自分ごとになります。
「森を守る」と言われると遠く感じる。
けれど、「この木を使って、誰とどんな未来を考えるか」と問われると、人は話し始めることができます。
この差は、とても大きいと思います。
私は、木の価値を高めるとは、必ずしも高価な製品にすることだけではないと考えています。
木に触れた人の意識が変わること。
森の背景を想像する人が増えること。
地域との関わり方を考える人が増えること。
それもまた、木の価値を高める行為です。

森の価値を共に考える

端材や地域材も同じです。
余りものとして扱われる木も、問いを生む器になれば、新しい意味を持ちます。
それは物質のアップサイクルであると同時に、意味のアップサイクルでもあります。
森林循環経済の実装には、制度も、技術も、流通も、資金も必要です。
しかし同時に、人の心が森へ向き直るための入口も必要です。
その入口は、必ずしも大きなものでなくてよいのだと思います。
一枚の木のカード。
一つの問い。
誰かとの短い対話。
そこから、森と都市と人の関係性が少しずつ編み直されていく。
森は、木材になる前に、問いである。
そして木は、商品になる前に、人と人をつなぐ媒介である。
DELTA SENSEという小さな木質カードゲームを通じて、私はその可能性を探り続けています。

この「森林循環経済」の2年目において、WEBで知見を共有し、リアルの場で人と人が出会い、木を囲んで対話する機会がさらに広がっていくことを願っています。
森の価値を、ただ伝えるのではなく、共に考える。
木を、ただ使うのではなく、問いとして受け取る。
その先に、森林循環経済の新しい文化が育っていくのではないでしょうか。

(株式会社WSense 代表取締役 / DELTA SENSE 製作委員会 青木 和洋)

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