• 執筆者一覧Contributors
  • ニューズレター登録Newsletter

インフラ「常時観測」の時代へ ― 高専生が実装した下水管点検ロボットとAI時代の新たな社会設計326

Entering the Era of "Continuous Infrastructure Monitoring": A Sewer Inspection Robot Implemented by Technical College Students and New Social Design for the AI Era

Updated by 小宮山 宏 on July 24, 2026, 10:05 PM JST

小宮山 宏

Hiroshi KOMIYAMA

(一社)プラチナ構想ネットワーク

東京大学工学部教授、工学系研究科長・工学部長、東京大学総長(第28代)を経て、2009年三菱総合研究所理事長に就任。2010年プラチナ構想ネットワーク会長(2022年 一般社団法人化)。その他、STSフォーラム理事長、一般社団法人超教育協会会長、公益財団法人国連大学協力会理事長、公益財団法人国際科学技術財団会長、一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター理事長など。また、ドバイ知識賞(2017年)、イタリア連帯の星勲章(2007年。)や「情報通信月間」総務大臣表彰(2014年)、財界賞特別賞(2016年)、海洋立国推進功労者表彰(2016年)など、国内外の受賞も多数。

高度経済成長期に整備された日本のインフラは、多くが建設から50年以上を経過しており、従来の方法では全体把握が難しくなっています。埼玉県八潮市で起きたような道路の陥没事故も発生しており、老朽化したインフラの維持管理の難しさが社会課題として顕在化しています。この課題に対し、DCON2026で最優秀賞に輝いた豊田高専の「下水管点検ロボット」をはじめとする最新テクノロジーの実装例と、「一つの設計が全体を変える」視点から、AI時代のインフラ維持について考察します。

インフラ危機を救う高専生の実践力

5月に開催された「第7回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON2026)」で最優秀賞に輝き、企業評価額5億6000万円を記録した豊田工業高等専門学校のチーム「Kanro AI」が開発した下水道の自動点検ロボット「Pipe Eye」は、下水管の中を自動走行し、画像認識によって異常を検知してレポート作成までを一貫して行います。

当日は私も会場を訪れ、最も圧倒されたのは、彼らの徹底した「現場主義」と「実装スピード」です。ロボットの走行について「水が流れてきても走れるのか」と尋ねると、彼らは「水位が2センチ程度しか流れていないため問題ありません」と即答しました。現場の環境を熟知し、わずか半年でロボットを作り上げ、すでに10カ所ほどの実際の現場でテストを繰り返していたのです。

「ここが難しい」と議論に終始しがちな既存のシステムに対し、彼らは制約にとらわれず、手を動かして実装まで進めてしまいます。この泥臭くも圧倒的な実践力を目の当たりにし、私は「これからのインフラ維持は高専教育を頼るべきだ」と確信しました。

AIとセンサーでインフラを常時観測する時代へ

人力でインフラを見きれない現状を打破するためには、膨大なデータを自動で集め、AIが解析する仕組みが不可欠です。現在、そのための技術は急速に整いつつあります。

宇宙分野では、島津製作所などが関わる超高精度な時刻同期技術が、人工衛星観測の精度向上を支えています。こうした技術を背景に、人工衛星によるレーダー観測データとAI解析を組み合わせ、水道管漏水の兆候を広域で把握する技術が愛知県豊田市ですでに実用化されています。地上においても、日立製作所のAIソリューション「HMAX」のように、営業運行中の鉄道車両にカメラやセンサーを取り付け、異常を自動検知して鉄道の保守に生かす実用化が進んでいます。さらにこれからの方向性として、毎日決まったルートを走るゴミ収集車などの移動体にセンサーを搭載し、日常的に道路データを取って分析する構想も議論されています。膨大なデータ収集と計算によって、常時観測と予測を現実的に検討できる時代に入りつつあるのです。

「既存システム」の壁と「一般設計学」によるシステム設計

しかし、こうした新技術を社会に導入しようとすると、雇用や業務分担の変化への懸念も含め、既存システムとの調整が課題になります。インフラ老朽化に対して、既存の仕組みを部分的に手直しする対症療法的な対応を続けることは、社会全体として非効率を招く危険性があります。

例えば、国土の7割を占める「森林」も重要なインフラ(社会的共通資本)の一つです。現在、手入れが行き届かない山や耕作地が放置された結果、深刻な獣害(熊の出没など)が起きています。これに対し、「ハンターを増やす」といった対症療法だけで済ませるのではなく、問題の構造自体を再設計することが求められています。

Pipe EyeやHMAXのような技術も、単なる点検機器ではなく、「限られた人手で社会全体を維持する」という社会設計の一部として見る必要があります。ここで、元東京大学総長の吉川弘之氏が提唱した「一般設計学」の思想が重要になります。これは、システム全体を設計対象として捉え、個別最適による全体最悪を回避する「一つの設計が全体を変える」という考えにもつながります。

AIを「知のインフラ」として使いこなす次世代と共に

インフラの点検において、自動で走行・測定し、重要箇所を抽出してAIで解析・分析し、レポートまで作成できる時代です。さらに言えば、従来型の報告書そのものの在り方や、点検業務の概念自体が変わる可能性すらあります。

重要なのは、こうした時代の変化をどう捉え、社会全体をどう再設計するかです。AIなどの技術を使いこなし、社会課題に対して自ら手を動かして作り上げる次世代の若者たちと共に、新たなインフラの維持管理モデルを描いていくべき時が来ています。(プラチナ構想ネットワーク会長・『森林循環経済』名誉編集長 小宮山宏)

DCON2026 本選 ダイジェストムービー – YouTube

※関連リンク
DCON2027【公式】第8回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト

Tags
森林循環経済 Newsletter
ニューズレター(メルマガ)「森林循環経済」の購読はこちらから(無料)
JA