Updated by 『森林循環経済』編集部 on September 24, 2026, 9:31 PM JST
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プラチナ森林産業イニシアティブが推進する「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の実現を目指します。森林資源のフル活用による脱炭素・経済安全保障強化・地方創生に向け、バイオマス化学の推進、まちの木造化・木質化の実現、林業の革新を後押しするアイデアや取り組みを発信します。
木造建築や木質バイオマス由来の燃料・化学品への需要を、林業の収益向上や森林資源の循環利用へどう結びつけるのか。9月18日に開催されたFORESTRISE 2026のプラチナ構想ネットワーク主催セミナーでは、脱炭素と輸入原油依存からの脱却を両立する「森林循環経済」の実現に向け、木造都市、バイオマス化学、森林・林業という3つの視点から専門家や実務者による議論が行われた。そこで浮かび上がったのは、需要創出に加え、安定供給や林地集約、森林所有者や林業事業者への利益還流を一体で設計する必要性である。
セミナーの冒頭、小宮山宏氏(プラチナ構想ネットワーク会長)は、伐採や再造林を担う川上の林業単体で収益改善を図る従来のアプローチには構造的な限界があったと指摘した。課題に対し部分最適(つぎはぎ)で対処するのではなく、2050年の脱炭素を見据えた木造都市とバイオマス化学という新たな巨大需要を創出し、その需要の力で難度の高い川上の林業を牽引・再生する戦略を提示。輸入資源に依存しない「自給国家」の確立に向け、産官学や金融機関、自治体が一体となって持続可能な「森林循環経済」を構築する重要性を強調した。

都市部の木造化・木質化に向けた動きが進む中、プラチナ構想ネットワークでは、停滞する林業を巨大な需要で牽引すべく、2050年までに「9階建てまでの建築物の木造化・木質化を進める将来像」を掲げている。さらに単体の建物にとどまらず、長野県飯田市のリニア新駅周辺の開発など「まち全体」を木造化する地域実装も動き出している。
国土交通省の資料によると、低層住宅では木造が約9割を占める一方、中高層住宅や非住宅建築物では木造率は非常に低い。需要開拓に向け、登壇者からは環境面やウェルビーイングに関する根拠の提示が相次いだ。国土交通省の大島敦仁氏は、RC造や鉄骨造と比較した資材製造・建設段階でのCO2削減効果や炭素貯蔵評価の重要性を説明する。慶應義塾大学の伊香賀俊治名誉教授は、学校の木質改修による児童の体調改善や、オフィス・宿舎での作業効率・睡眠品質の向上を示す実証研究を紹介した。こうした数値化(見える化)は、建築主だけでなく投資家や金融機関から資産価値や長期融資の適正評価を得るためにも不可欠とされる。
普及の課題について、安達広幸氏(シェルター/日本木造耐火建築協会)は、耐火・耐震技術の進展により中高層化が可能となった現状と、RC造に比べ製造時等のCO2排出量が大幅に少ない優位性を挙げ、解体・再利用まで見据えた設計の重要性を指摘した。一方で大島氏は、川上と川下をつなぐサプライチェーン構築や専門人材の育成に加え、地方都市でも導入しやすい4〜5階建ての中規模建築における標準モデルの確立が、今後の普及に向けた重要課題であると強調した。

化学産業やエネルギー分野では、脱炭素に加えて経済安全保障の強化や地方創生を見据え、輸入原油やナフサなどの化石資源への依存を低減するため、国内の木質資源から燃料や化成品を製造する取り組みが進められている。木質資源からエタノールやメタノールなどの燃料・化学原料、改質リグニンなどの素材を製造し、化石資源由来製品の一部を代替しようとするものである。
経済産業省の中山真氏は、「バイオものづくり革命推進事業」や「グリーンイノベーション(GI)基金」を通じ、民間事業者とともに2030年頃の産業化を見据えた技術開発・実証が進められている現状を説明した。
民間企業の登壇者からは、それぞれの技術段階に応じた報告がなされた。王子ホールディングスの奥谷岳人氏は、長年培ってきた森林・製紙事業の基盤とパルプ工場のインフラを活用し、半導体向けレジストや医薬品材料といったバイオケミカルの創出に向けた研究・実証の取り組みを紹介した。また、三菱ガス化学の松川将治氏は、未利用森林資源やバイオガスを活用して環境循環型メタノールを製造・供給するプラットフォーム構築プロジェクトについて、実証・事業化の検討段階にあることを説明した。
市場形成に向けた論点として、既存の石油製品との価格差および国民・消費者の「社会受容性(環境価値への理解)」が挙げられた。中山氏は公共調達などを活用した初期需要の創出の検討について触れ、林野庁の成瀬昌弘氏は、燃料(SAF等)や化成品需要に対応するため未利用材を含めた山元からの安定的な原料供給体制を構築することが前提になると説明した。さらに登壇者からは、環境価値の定量化・可視化による理解促進や、森林・化学・エネルギー等の分野を超えたサプライチェーン全体の設計(ビッグデザイン)の重要性が示された。

木材需要に対応するには、最上流である林業現場の供給力と生産性を高める必要がある。日本の林業の課題として、林地所有の細分化、境界の不明確さ、作業道など路網の不足が指摘されている。
森林総合研究所の久保山裕史氏は、オーストリアとの構造比較を提示し、日本の約3倍の路網密度と4倍以上の施業区画規模を持つ同国の構造を説明した。さらに、大型重機やトレーラーが走行できる路網によって山土場から工場への直送体制が整い、低コスト化が山林所有者への高い立木代金還元につながっている点を強調した。
また、京都大学の立花敏教授(林政審議会会長)は、6月に閣議決定された新たな「森林・林業基本計画」において、林業適地への集約化と「確実な再造林」の方針が打ち出されたことを解説した。特に、個別の境界確定コストを抑える「外縁確定型」の普及や、林業適地以外では無理な伐採を行わずJクレジットや森林セラピー等の「森業(もりぎょう)」で多角的に収益化するゾーニングの重要性を指摘した。
境界明確化と集約化の具体案として、四門の宝土大亮氏は、都市部の「敷地整序型土地区画整理事業」の手法を応用した「森林区画整理事業」を提言した。外周のみを測量して内部は面積按分する手法や、「2/3以上の同意」で事業を進める法的枠組みにより、全員同意の壁と測量コストを大幅に削減できる。ただし宝土氏は、地価上昇が見込みにくい森林において整備費用を回収する難しさを挙げ、路網補助金の充当や保留地処分を含めた資金設計の検証が今後の課題であると説明した。
現場での高生産性事例として、柴田産業の柴田君也氏は、欧州型のCTLシステム(ハーベスターとフォワーダー)の導入により1人1日当たり約40立方メートルという高い生産性を達成した実績を報告した。同社は素材生産だけでなく製材・バイオマス発電・建築まで自社で担う垂直統合モデルを構築しており、農業・畜産施設など地域内での多角的な需要開拓(多チャンネル化)が持続可能な経営に不可欠であると述べた。

3つのセッションの議論からは、木材需要が増加しても、そのまま森林所有者や林業事業者の収益改善や再造林につながるわけではないという構造的な課題が浮かび上がる。木造建築やバイオマス化学によって需要が生まれたとしても、伐採・搬出・輸送・加工の各段階でコストが発生するほか、化石資源由来製品との価格差が参入障壁となる。需要側で生まれた付加価値を地域へ還流させるには、適正な価格・取引の仕組みに加え、建築用材の長期利用と端材・低質材の化成品・燃料活用を組み合わせる「カスケード利用」の地域内設計が不可欠である。
今回のセミナーの議論を整理すると、森林循環経済を社会実装へ進めるうえで、今後検討すべき論点は次の4点に集約できる。
・「価値の見える化」と付加価値の還流: 建築物のライフサイクルを通じたCO2排出量や炭素貯蔵量、ウェルビーイングへの効果の定量的評価と、高付加価値化による還流の仕組み。
・安定供給体制と初期需要の創出: 森林DXやスマート林業による低コスト安定供給と、公共調達・制度的後押しによる初期市場形成。
・基盤整備と制度改革: 林地集約(森林区画整理事業の法制度化等)と高密度路網整備を支える資金調達・法制度。
・「林業適地」の選定と「森業」の多角化: ゾーニングによる集約化推進と、J-クレジットや空間利用等(森業)を組み合わせた地域収益の多角化。
建築、化学、行政、金融、林業などの関係者が連携し、森林資源の価値への国民・投資家の理解を醸成しながらこれらの論点に取り組むことが、日本の森林産業の発展を左右する。
森林循環経済の具体的な取り組みは、FORESTRISE 2026の会場でも紹介された。プラチナ構想ネットワークによる共同パビリオンには、会員企業や大学など5団体が参加した。林地集約や森林経営といった川上の取り組みから、新素材開発やバイオマス化学による川下の高付加価値化まで、森林資源活用の全体像が紹介された。






各ブースでは、王子ホールディングスによるバイオマスものづくり、フランウッドによる改質木材技術、四門による林地集約支援、中部電力による地域連携型森林経営、東京農工大学による「炭素耕作」を通じた素材開発などが展示された。関連プロジェクトを一覧化したマップの展示や、参加団体による特別セッションも行われ、来場者の関心を集めた。