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「90%は好きにやれ、10%は協力しろ」―自律分散協調系で描く日本再生の設計図353

"Do 90% as You Like, Cooperate on the Other 10%": A Blueprint for Japan's Revival Through Autonomous, Decentralized, Cooperative Systems

Updated by 小宮山 宏 on September 29, 2026, 6:02 PM JST

小宮山 宏

Hiroshi KOMIYAMA

(一社)プラチナ構想ネットワーク

東京大学工学部教授、工学系研究科長・工学部長、東京大学総長(第28代)を経て、2009年三菱総合研究所理事長に就任。2010年プラチナ構想ネットワーク会長(2022年 一般社団法人化)。その他、STSフォーラム理事長、一般社団法人超教育協会会長、公益財団法人国連大学協力会理事長、公益財団法人国際科学技術財団会長、一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター理事長など。また、ドバイ知識賞(2017年)、イタリア連帯の星勲章(2007年。)や「情報通信月間」総務大臣表彰(2014年)、財界賞特別賞(2016年)、海洋立国推進功労者表彰(2016年)など、国内外の受賞も多数。

地球の有限性が露わになり、従来の経済システムが限界を迎える今、私たちが進むべき道はどこにあるのか。私はその答えを、かつて東大総長時代に提唱した「自律分散協調系」という思想、そして現在会長を務めるプラチナ構想ネットワークでの活動に見出しています。経済学者・宇沢弘文氏の「社会的共通資本」の概念や最新のデジタル技術を鍵に、なぜ今この考え方が必要なのかを紐解き、私たち一人ひとりの「10%の参加」で日本を再生させる設計図を提言します。

「自律分散協調系」とは何か

「自律分散協調系」とは、個人の自由な活動(自律分散)を最大限に尊重しつつ、全体の持続可能性や共通の目的のために、少しだけ(10%)の協力(協調)を仕組みとして設計する社会デザインです。

この思想の原点は、1990年代に地球温暖化問題に対して立ち上げられた学術アライアンス「Alliance for Global Sustainability」(東京大学、MIT、スイス連邦工科大学〈ETH〉の3大学が連携して発足)での経験に遡ります。当時コーディネーターを務める中で、個別の専門知がバラバラに存在するだけでは地球規模の危機は解決できず、全体を俯瞰して連携させるデザインが不可欠だと確信したのです。

工学部長を退任する頃には、内閣府を通じて経済財政諮問会議と総合科学技術会議から、日本の競争力強化に向けたプロジェクトの依頼を受けました。バブル崩壊後の閉塞感の中、約200人の研究者を巻き込み、1年をかけて『動け!日本』プロジェクトを立ち上げたのです。中間報告で「大学に社会を救う種(シーズ)がある」と主張すると、当時日本経団連会長だったトヨタ自動車の奥田碩氏から「大学に種なんかあるの?」と指摘されました。私は「それなら東大に来てください」と応じ、実際に招待。選りすぐりの6人の教員が「1人6分」の本気プレゼンで応え、巨大な集合知を生み出せる手応えを得ました。

その後、東京大学の総長として改革を進める中で、私はこの思想を組織設計に落とし込みました。大学の教員は、自らの信念に基づいて学問を追究する「自律分散」の集団です。学問の自由や大学の自治は不可欠ですが、各自がバラバラに研究しているだけでは、優れた知が社会から見えなくなってしまいます。そこで私は教員たちにこう呼びかけました。「今まで通り、90%は自分の信念に基づいて好きにやっていい。だけど、10%だけは総長室(全体)の方を向いて協力してくれ」。

この「10%の協調」を仕組みとして設計した成果は、見事に表れました。「ロボット工学」「老年医学」「高齢者の心理学」など学内の専門知が融合し、新たな学問の場として「高齢社会総合研究機構」が誕生したのです。個性の強い集団であっても、わずか10%の協調を制度として埋め込むだけで、社会に貢献する巨大な集合知を生み出せる。学問の自由や大学の自治は社会に認められて初めて担保されるものであり、天与のものではありません。この実績が、社会そのものを設計する方法論になり得るという確信の源泉です。

なぜ今、この考え方が必要なのか

今、日本社会は地球温暖化に加え、急速な人口減少、財政制約、社会保障の維持、地域の衰
退といった「課題先進国」としての厳しい現実に直面しています。既存の仕組みが機能しなくなっている根本的な原因は、私たちが「地球の有限性」に直面しているからです。

近代経済学の祖アダム・スミスが説いたシステムは、各人が競争すれば予定調和的に全体が豊かになるという、純粋な「自律分散系」でした。マルクスが恐慌の危険を警告し、ケインズが有効需要による調整を唱え、フリードマンが再び自由競争を訴えましたが、これらはすべて「無限」を前提とした議論だと考えています。二酸化炭素による地球温暖化に代表されるように資源や環境が「有限」となった現代において、お金を媒介に競い合い、奪い合うだけの古いシステムは限界を迎えています。

お金はかつて、個人や企業が自律分散して競争し、富を最大化するための道具でした。しかし地球の有限性に直面したこれからの時代、社会の持続可能性や「協調」を支える道具へと再設計されるべきです。個人の自由な経済活動(自律分散)を前提としつつも、全体の生存を守るための「協調」を、社会の仕組みとして意図的に設計しなければなりません。

次世代に引き継ぐ「社会的共通資本」とは何か

では、自律分散協調系において守り、維持すべき対象とは何か。私はその答えを、宇沢弘文氏が提唱した「社会的共通資本」の論理に求めています。社会的共通資本とは、市場経済で消費するのではなく、社会全体で維持・管理し、次の世代へ引き継いでいくべき共有の財産です。具体的には、森林、水、教育、インフラ(学校、病院など)がこれに当たります。

最近、老朽化や予算不足を理由に「小学校のプールを維持できずに廃止する」という地方自治体のニュースがありました。私はこれを聞いて猛烈な怒りを感じました。成熟した豊かな社会において、子供たちの教育環境やプールのような共通資本は「最優先で確保すべき基礎的な価値」であり、削るべきものではありません。

ただ社会的共通資本は、国や行政の予算だけに頼ったり、「誰かが自然に守ってくれるだろう」と楽観視していては、今の厳しい財政状況や人口減少の中で崩壊してしまいます。行政に丸投げするのでも、市場の自由競争に任せるのでもなく、住民が自ら共同所有し、みんなで維持・管理する――この「住民出資社会」の仕組みこそが、協調を具現化する設計図となるのです。

自律分散協調系はどう実装できるのか――「住民出資」と「デジタル活用」

具体的な実装例が鳥取県日南町にあります。人口わずか3800人ほどのこの町で、木を付加価値の高いLVL(単板積層材)に加工する工場を作るには巨額の資金が必要でしたが、一人で抱え込むことは不可能です。そこで立ち上がったのが地元の住民たちで、当時の全住民の約1割にあたる「約470人」が出資し、森林組合や林業に携わる人々が主役となってこの工場を作り上げました。生活のすべてを犠牲にするのではなく「自分の時間や資金の10%」を地域に振り向けたこの構想は、自律分散協調系のリアルな社会実装そのものなのです。

今、世界では「デジタル化」「AI」「分散ネットワーク」「マイクロ株」「地域分散型エネルギー」といった分散型社会への潮流が急速に広がり、自律分散協調系を以前より低コストで強力に実現することを可能にしています。

ただ、多くの住民が少しずつ出資する「住民出資」や「少額投資」には、株主数は増えても出資金額は大きくならず、報告書の送付といった事務コストばかりが増えて仕組みが維持できないという実務上の課題がありました。最新のデジタル技術で、手続き・資料配付・コミュニケーションをすべてデジタル上で完結させれば、この課題を大幅に軽減できます。

少額の「デジタルマイクロ株」を用いて、地域の「ソーラーシェアリング」や「森林循環ビジネス」に、子供の誕生日に株をプレゼントするような感覚で参加する。デジタルやAIはそれ自体が目的ではなく、普通の住民一人ひとりが日々の生活の中で無理なく「10%」だけ地域のために参加できる社会を実現するための、強力な「道具」なのです。

普通の人が主役となり、10%の協力が日本を変える

特別なスーパースターの登場を待つ必要はありません。そうした設計に依存する社会は極めて脆いものです。日本がこれまで底力を発揮してきたのは、突出した天才だけでなく、平凡に見える私たち一人ひとりが力を合わせ、機能する構造があったからに他なりません。東京大学の教員たちも、地域社会の住民たちも、わずか10%の協力を全体に向けるだけで、巨大な集合知や仕組みを動かすことができました。

「100%の献身」を求める設計は不可能で、持続もしません。しかし「自分の時間やおカネ、リソースの10%だけ、地域の森林やエネルギー、教育などの社会的共通資本を維持するために参加する」という設計であれば、誰もが今日からでも主役になれるはずです。一人ひとりの「10%の主体的な参加」をデジタルで繋ぎ、社会的共通資本を正しく循環させること――これこそが、課題先進国である日本が世界に示すべき、確固たる日本再生の設計図なのです。(プラチナ構想ネットワーク会長・『森林循環経済』名誉編集長 小宮山宏)

※関連サイト
AGS(Alliance for Global Sustainability) | 東京大学未来ビジョン研究センター
東京大学 高齢社会総合研究機構
470人が住民出資した木材工場は、いかに黒字化したのか  LVL工場オロチ、経営改革の20年【日南町・森林循環の現場:2】

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