• 執筆者一覧Contributors
  • ニューズレター登録Newsletter

470人が住民出資した木材工場は、いかに黒字化したのか  LVL工場オロチ、経営改革の20年【日南町・森林循環の現場:2】329

Updated by 『森林循環経済』編集部 on August 03, 2026, 5:45 PM JST

『森林循環経済』編集部

Forestcircularity-editor

プラチナ森林産業イニシアティブが推進する「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の実現を目指します。森林資源のフル活用による脱炭素・経済安全保障強化・地方創生に向け、バイオマス化学の推進、まちの木造化・木質化の実現、林業の革新を後押しするアイデアや取り組みを発信します。

※前回の記事はこちら
人口3700人の町に年間12万立方mの原木が集まる 林業の採算を変えた木材団地と全量引き取り【日南町・森林循環の現場:1】

鳥取県南西部に位置する人口約3700人の日南町。山から切り出される原木の「全量引き取り」という森林循環モデルの心臓部を担うのが、木材団地の一角にあるLVL(単板積層材)工場「オロチ」だ。山から集まる多様な材を受け入れるこの工場は、最初から順風満帆に動き出したわけではない。かつて市場から冷遇され、赤字に苦しんだ創業期を経て、地域資本で設立された工場はいかに黒字化を果たしたのか。地域への責任を背負いながら、商品を見直し、品質を磨き、資源を無駄なく生かし、市場と採算に向き合い続けた20年の歩みを追う。

住民株主と毎朝のおくやみ欄

「日野川の森林木材団地」の広大な敷地の中に、木材工場が連なっている。「株式会社オロチ」という一風変わった社名は、日本神話の「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)」に由来している。この工場は2006年、日南町の地域再生計画認定を契機に、森林組合や山主である町民など約470名におよぶ住民出資によって設立された。資本金9400万円の多くが、地域の人々の「林業を再生してほしい」という願いとともに集められた地域資本である。住民出資で生まれた工場だけに、経営陣には事業を継続する責任が重くのしかかる。

しかし、設立から20年近くが経過した現在、高齢化が進む地方ならではの課題が突きつけられている。オロチの総務担当者は、朝に新聞の「おくやみ欄」をチェックすることから一日を始める。株主の多くが高齢化し、他界されるケースが増えているためだ。相続が発生しても、その子ども世代の多くは都市部に移住しており、連絡すらつかないことが少なくない。

写真:オロチの相見社長

「担当者が訃報を見つけては、都市部の遺族の居所を追いかけ、一つひとつ株式の整理に奔走している」と相見晴久社長は明かす。地元の期待を背負う地域企業の重みが、このおくやみ欄をチェックするという日々の泥臭いルーティンに凝縮されている。

全量引き取りを支えるLVL

LVLとは「Laminated Veneer Lumber」の略で、日本語では「単板積層材(たんぱんせきそうざい)」と呼ばれる。同じく木を接着して作る合板と混同されやすいが、この二つは構造も用途も異なる。

合板は、薄く剥いた木の板(単板)を、繊維方向が交互に直交するように重ねて貼り合わせる。反りや収縮が起きにくい「面」としての性質が生まれるため、床の下地や壁材などに使われる。一方のLVLは、すべての単板の繊維方向を平行(同方向)に揃えて積層し、プレスして接着する。繊維方向を揃えることで、柱や梁などの構造材に適した強度性能を持つようになる。さらに、LVLは無垢材と比べて強度性能のばらつきを抑えやすく、構造計算に用いる性能を把握しやすいという特徴がある。

写真:丸太を「大根の桂むき」のように厚さ3〜4ミリの薄い単板に剥く

写真:すべての単板の繊維方向を平行に揃えて積層しプレスして接着する

丸太を「大根の桂むき」のように厚さ3〜4ミリの薄い単板に剥き、それらを何層も重ね合わせることで、木が本来持つ「節」などの欠点が全体に分散されるためだ。

また、製材用には使いにくい曲がり材や小径材も活用しやすいという利点もある。原木を用途別に振り分ける木材団地の中で、オロチは木の全量引き取りを支える重要な出口の一つとなっている。

「ゴミ」と冷遇された営業から、執念の商品転換

このLVL技術を武器に、住民の夢を乗せて稼働したオロチだったが、待っていたのは厳しい赤字の連続だった。当初、オロチが目指したのはスギの管柱(くだばしら)の製造販売だった。当時、まだ認知度の低かった「スギのLVL」を売るため、相見社長自ら全国のプレカット工場や建材問屋へ営業に回ったが、風当たりは強かった。

「どこに行っても『スギのLVLサンプルなんてゴミになるから持って帰れ』と相手にされない。本当に悔しかった」と相見社長は振り返る。

赤字が累積し、存亡の危機に立たされた設立5〜6年目、相見氏が取締役に就任し、経営のバトンを渡された。託されたのは「とにかくこの赤字を止めろ」という悲壮な指令だった。ここから、オロチの執念の商品転換が始まる。需要が伸び悩む管柱から、間柱(まばしら)や野縁材(のぶちざい)、筋交いなど、住宅の構造や下地に使われる部材へのシフトを決断したのだ。

写真:オロチのLVL工場

同社は2008年にはスギ構造用LVLとしていち早くJAS(日本農林規格)認定を取得していた。繊維方向を揃えて接着・プレスするLVLであれば、スギ特有の乾燥や加工時の狂いを抑え、強度性能を極めて安定させやすい。

さらに、環境への配慮として、国際的な森林認証である「FSC森林認証」の加工・流通過程(CoC)認証も獲得した。品質と環境への配慮が認められたことで、大手ハウスメーカーの調達方針に合致し、安定した販路の開拓につながった。

なお、オロチは特定のハウスメーカーへの依存を避けるため、あえて1社専売のオファーを断り、複数社購買(相買い)をルールとして販路を分散させるなど、安定した経営基盤の維持にも細心の注意を払いながら操業を続けている。

大手との取引を支えた「全量検査」

商品転換後、大手ハウスメーカーとの取引を継続するうえで重要となったのが、工場内の品質管理である。それを支えるのが、徹底した「単板の全量チェック体制」だ。丸太を薄く剥いた単板は、1枚ごとに強度や水分量(含水率)に必ずばらつきがある。オロチでは、この1枚1枚の単板すべてを、超音波測定器や水分センサーを搭載した検品ラインに通し、ヤング係数(強度)と含水率を測定して選別している。

写真:単板すべてを測定し厳密に選別

特に水分量の管理は重要だ。LVLは単板を何層も接着剤で重ねて熱プレスするが、単板の水分量が高いと、熱圧時に内部の水分が蒸気化し、製品が剥離する「パンク(熱圧時の剥離不良)」を引き起こしてしまう。相見社長によると、接着不良を防ぐため、単板の含水率を社内基準に沿って目安として7%以下に管理しているという。強度と含水率に応じて選別された単板を積層することで、出来上がるLVLは高い品質の安定性を確保する。

「厳しい品質管理を求めてくる大手ハウスメーカーに対して、16年近く納品を続けてきて、重大なクレームを出したことがない。これは現場の人間全員の誇りです」と相見社長は語る。

顧客の施工コストまで減らす「ジャストサイズ生産」

品質で取引の土台を築いたオロチは、次に顧客の施工現場の負担軽減まで踏み込んだ。それが、実質的なコストを削減する「ジャストサイズ生産」である。

通常の製材工場では、規格化された定尺の長さ(例:3メートル、4メートル)で出荷するのが当たり前だ。しかしこれでは、実際の建築現場の寸法に合わせてカットした際、必ず「端材」のロスが発生し、現場での産廃処理コストも発生する。オロチはこの常識にとらわれず、ビルダーから「2800ミリで欲しい」と要求されれば、工場側でミリ単位の精密カットを施した「ジャストサイズ」で出荷する体制を整えた。

写真:ミリ単位で正確に切り揃えられた構造用LVL

「ミリ単位で均一な強度を保てるLVLだからこそ、工場での精密なカットが可能になる。単価だけを見れば決して安くはないが、現場の施工ロスや産廃コストを合算した『トータルコスト』で見れば、結果的にうちを使うのが一番安くなる。ビルダーはそこに価値を見出してくれている」と相見社長は語る。

顧客の現場の無駄を省くこの工夫こそが、価格だけではない価値を提供できるようになった同社の強みと言える。

在庫を持たない経営、森林組合との二人三脚

経営の足腰を支えるのは、工場内の技術や工夫だけではない。日南町森林組合との強力な二人三脚、そして端材や廃棄物を資源として生かしきる資源循環システムにもある。

木材加工工場では一定量の原木在庫を抱えることが運転資金の負担になりやすい。しかしオロチは自社で原木の在庫をほとんど抱えず、調達窓口を日南町森林組合に一本化している。オロチで使用されるスギやヒノキの原木は、実に95%以上がこのルートを通じて供給される日南町内産だという。

森林組合は、山から集荷した原木を木材団地内にある集積場に一時ストックし、オロチの操業ペースに合わせて、必要な量を必要なタイミングで供給している。組合が一時的な保管・物流機能を全面的に引き受けることで、オロチの運転資金への負担は大きく軽減されているのだ。

また、工場から出る端材や樹皮などの廃棄物も、徹底的に資源として切り分けて使い切る。
オロチでは、丸太から製品になる歩留まりは、おおむね55〜60%だという。残りの40〜45%は、丸太を削り出す過程や端部のカットによって発生する端材や樹皮、木屑となるが、オロチではこれらを決して「ゴミ」にせず、無駄なく使い切る仕組みを整えている。

写真:工場内に設置されたバイオマスボイラー

端材や木屑の一部は、工場内に設置された自社のバイオマスボイラーの熱源として活用される。発生する熱と蒸気は、丸太を柔らかくする「蒸煮」工程や、単板の乾燥機、プレス機の熱源として自家消費され、外部エネルギーコストの削減に直接つながっている。

さらに、接着剤のついていない綺麗な端材は製紙用の木質チップとして外部に売却され、樹皮は地元農家の堆肥などに有効活用される。工場から出る木質廃棄物を余すところなくカスケード利用する体制が確立されている。

「適正規模」を維持する、引き算の経営判断

オロチが選んだのは、「あえてフル生産をしない」という適正規模の維持の判断だった。かつてオロチは工場をフル稼働させ、月間2000立方メートルを超える限界ギリギリの増産を行っていた時期があった。しかしその結果、従業員の残業代や工場の深夜電気代などが跳ね上がり、売上を伸ばしても利益率が下がるという課題に直面していた。

「ある一定の生産ラインを超えると、急激にコストが増加して利益効率が落ちることがデータ分析でわかった。そこで、あえて生産量を15%削減する『減産』を決断した」と相見社長は明かす。

適正規模に操業を抑えた結果、残業代や電気代が浮き、利益を残せる操業体制につながった。市場の需要に振り回されることなく、地域の資源量と工場のキャパシティに見合った「引き算の判断」が、会社の足腰を強固にした。

写真:工場内では外国人材も活躍

また、こうした安定操業を支える上で、人手不足が深刻な日南町における人材の確保も欠かせない要素だ。オロチでは従業員73名のうち6名のフィリピンからの技能実習生を受け入れており、現場の安定操業を維持するうえで不可欠な戦力となっている。会社では、彼らが安心して暮らせるようアパートの手配や生活のサポートを地域と連携して行っており、地方の操業現場を支える土台を築いている。

地域への責任と、採算への厳しいまなざし

住民出資で生まれたオロチは、現在では年間売上約16億円規模に成長し、中四国エリアの国産材流通と日南町の森林経済を支える拠点となった。オロチという確かな出口が機能しているからこそ、山主は安心して木を切り出すことができ、森林組合の「全量引き取り」という約束が維持できている。

創業時に約470人の住民株主から託された工場を存続させるため、売れない商品を見直し、顧客が求める品質とコスト、工場の採算に向き合い続けた。その歩みは、地域に支えられながら事業を続ける地方企業に多くの示唆を与えている。

木は売れるようになり、巨大な出口も維持できるようになった。しかし、持続可能な森林循環経済には、さらに立ちはだかる壁がある。次回は「伐ったら植える」という循環のバトンを繋ぐため、廃校の跡地を最新鋭の「苗木工場」へと再生させた日南町樹木育苗センター(ウッドカンパニーニチナン)のイノベーションを追う。=続く

写真:オロチ発・森林サイクル(出典:オロチ)

※参考リンク
株式会社オロチ

Tags
森林循環経済 Newsletter
ニューズレター(メルマガ)「森林循環経済」の購読はこちらから(無料)
JA