Channeling Funds to “Companies That Develop People”: A “New Cooperative Framework” Supporting Talent Development
Updated by 小宮山 宏 on November 02, 2026, 9:39 AM JST
Hiroshi KOMIYAMA
(一社)プラチナ構想ネットワーク
東京大学工学部教授、工学系研究科長・工学部長、東京大学総長(第28代)を経て、2009年三菱総合研究所理事長に就任。2010年プラチナ構想ネットワーク会長(2022年 一般社団法人化)。その他、STSフォーラム理事長、一般社団法人超教育協会会長、公益財団法人国連大学協力会理事長、公益財団法人国際科学技術財団会長、一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター理事長など。また、ドバイ知識賞(2017年)、イタリア連帯の星勲章(2007年。)や「情報通信月間」総務大臣表彰(2014年)、財界賞特別賞(2016年)、海洋立国推進功労者表彰(2016年)など、国内外の受賞も多数。
※前回のコラムはこちら
「90%は好きにやれ、10%は協力しろ」―自律分散協調系で描く日本再生の設計図
前回のコラムでは、個人の自由な活動(自律分散)を尊重しつつ、全体を守るための「10%の協力(協調)」を仕組みとして埋め込む「自律分散協調系」の設計図を示しました。今回は、その仕組みを具体化する試みとして、社会にとって重要な「人財養成」の領域に焦点を当てます。一部の個人の善意や寄付に頼るのではなく、人を育てる企業を正当に評価し、資金が自律的に回る仕組みをどうつくるか。日本の未来と次世代を担う人財へ投資をつなぐ、新たな協調系を提言します。
これまで何度もご紹介した経済学者・宇沢弘文氏の「社会的共通資本」は、森林や水、医療、教育といった、社会全体で維持し、次の世代へ引き継ぐべき基盤ですが、市場原理に任せているだけでは十分な資金が回りにくいという性質があります。なかでも、投資が難しい領域の一つが「教育」や「人財養成」です。
私が会長を務める「プラチナ構想ネットワーク」の活動では、森林資源の加工・利用や再生可能エネルギー(再エネ)のように、事業収益との結び付きが具体的に描ける分野では、企業の賛同や参画を得やすい場面があります。木を伐り、高付加価値な木質建築材料に加工して活用したり、発電事業を行ったりする取り組みは、投資と収益の関係を示しやすいためです。
しかし、教育や人財養成となると、企業はなかなかお金を出しにくいという現実に直面します。人を一人前に育てるには長い年月がかかります。さらに、自社でコストをかけて育てた優秀な人財が他社へ転職するかもしれないという、いわゆる「フリーライダー(ただ乗り)問題」も生じます。短期的な利益や直接的なリターンが優先されがちな市場原理の中では、人財への投資は後回しにされやすいのです。
もちろん、新しいお金の流れがまったく生まれていないわけではありません。近年、ブロックチェーンなどのデジタル技術を活用し、参加者が資金調達や意思決定に関わる「DAO(自律分散型組織)」と呼ばれる仕組みが登場しています。共通の目的に賛同する人々が、資金を出し合ったり、プロジェクトの運営に関わったりする形です。個人の「応援したい」「参加したい」という思いを、具体的な資金や活動につなげることが可能になりつつあります。
一方、社会課題への取り組みの多くは、なお個人の寄付や善意に支えられています。その一例が、さまざまな遊び道具を載せた車で地域を巡回し、子どもたちに遊び場を提供する「プレーカー」です。MIXI創業者の笠原健治氏が私財を拠出した「みてね基金」は、プレーカーを全国に広げるNPO法人Chance For Allの「J-CST構想」に7000万円を助成しています。
こうした基金やDAOは、善意や共感を継続的な支援につなげる有効な方法です。しかし、個人の自発的な拠出や参加だけに委ねていては、社会全体に必要な人財養成を安定的に支え続けることには限界があります。個人の善意を否定するのではなく、それを包含し、より多くの主体が参加できる社会的なシステムへと高める設計が求められます。
では、どうすれば善意や共感を、持続的な資金循環につなげられるのでしょうか。その一つの試みが、金融の評価軸に人的資本の観点を取り入れる動きです。
私が理事長を務める三菱総合研究所の未来共創イニシアティブ(ICF)が中心となって進めてきた「プラチナキャリア・アワード」では、東洋経済新報社のCSRデータなどを活用し、社員の継続的な学びや長期的なキャリア形成を支援する企業を評価してきました。
こうした考え方を金融市場での評価につなげるものとして、三菱UFJ信託銀行は、従業員のキャリア形成に積極的な企業を評価する「プラチナキャリア インデックス(日本株)」を開発しました。プラチナキャリアに関するスコアの高い企業を集めてインデックスとしたもので、このパフォーマンスはTOPIXよりも高いリターンで推移しています。
こうした指数が投資判断に活用されても、その資金がそのまま企業の人財養成費になるわけではありません。しかし、人への投資に積極的な企業が市場から評価されれば、企業が継続的に人を育てる動機を強めることができます。「良い活動だから寄付をする」という枠組みを超え、人への投資を企業価値の一つとして評価し、市場の中で資金の流れを生み出す試みです。
一部の篤志家やファンによる「善意・応援」を、経済的価値を伴う資金循環のシステムへと昇華させること。それは、人への投資が十分に進まないという日本経済の課題に対する、一つの解決策になり得ます。
現在、個人の資産形成では、「オルカン」などの全世界株式型や、米国株式型のインデックスファンドが広く支持されています。海外分散投資を否定するものではありませんが、国内の未来や人財への投資にも、収益性と社会的な価値を備えた選択肢をつくることができれば、人を育てる企業や事業へ資金を呼び込むことができます。
自由な個人の投資(自律分散)を活かしながら、人財養成という社会的共通資本へ資金が向かうよう、評価や投資のルールを工夫する。手続きコストを抑えるデジタルテクノロジー(デジタルマイクロ株など)も、その手段になり得ます。
個人の自由な経済活動を前提としつつ、社会全体の持続可能性を守るために、無理のない「少しの協力(協調)」を組み込む。善意をシステムへ。この「新たな協調系のデザイン」を具体化することが、自律分散の限界を乗り越えるために日本が示すべき未来への構想なのです。(プラチナ構想ネットワーク会長・『森林循環経済』名誉編集長 小宮山宏)
※参考リンク
被災地にも過疎地域にも、子どもの自由な“あそび場”を。無限大の可能性を乗せて、プレーカーが日本列島を行く!|みてね基金
プラチナキャリア・アワード
プラチナキャリア インデックス(日本株) インデックス商品ラインアップ:三菱UFJ信託銀行