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[The Priest’s View] Why Has the “Space Between” Bears and People Been Lost? — Rethinking Coexistence with Nature Through the Torii Gate
Updated by 青木和洋 on October 23, 2026, 8:09 PM JST
Kazuhiro AOKI
株式会社WSense 代表取締役 / DELTA SENSE 製作委員会
株式会社WSense 代表取締役 / DELTA SENSE 製作委員会 福島県会津若松市出身。華道/茶道/能楽を嗜む家柄で、幼い頃から日本文化に触れて来ました。木に興味を持ち始めたのは、宮大工の「カンナ削り」を目撃して業の奥深さに気付かされた時から。現在は神主として得た知見を基に公益に繋がる取り組みを推進中。東京青年会議所所属 / 大学院卒、MBA(経営学修士)取得 / 4歳の頃からボーイスカウトとサッカーも両立中。DELTA SENSE 公式HP 株式会社WSense
森が増えているのに、クマが街へ来る。
2026年10月、環境省が公表した約50年分の「緑の国勢調査」の総合解析では、植生区分上の森林が増える一方、水田や草地などの里地里山の環境が減少していることが示された。また、クマやシカ、イノシシなどの生息分布も拡大傾向にある。
もちろん、森林の変化がそのままクマの出没を引き起こしたという意味ではない。餌となる木の実の豊凶、個体群の変化、人の暮らしの変化など、原因は複雑だ。
だが、この結果は一つの問いを生む。
森が失われたからではなく、森と人との「あいだ」が失われたのではないか。

長野県軽井沢町には、クマをただ排除するのでも、放っておくのでもない仕組みがある。
町は人間活動エリア、緩衝エリア、クマ生息エリアを分け、発信器を装着したクマの位置を追う。人の生活圏に接近したクマは、訓練された「ベアドッグ」を使って追い払う。動物の命をむやみに奪わず、人間の安全も譲らないための対策だ。
発想の核心は、「クマがいること」ではなく、「クマと人がどこで出会うか」を管理する点にある。
兵庫県ではシカやイノシシなどに対し、集落と山の間の藪や樹木を整理して見通しの良い緩衝帯をつくり、防護柵と組み合わせてきた。
県の報告では、この一体整備を行った集落で、農作物被害の発生した農地が約7割減ったという。
「自然との共生のために木を伐る」という逆説が面白い。
木を残すことが常に保全になるわけでも、伐ることが常に破壊になるわけでもない。
重要なのは、何を守るための行為なのかという目的である。
欧州スロベニアでは、クマやオオカミとの軋轢に対し、電気柵や家畜護衛犬だけでなく、ごみの管理、被害補償、必要な個体管理を組み合わせている。
柵を立てても、食べ物が放置され、農家が被害を一方的に負担するなら、共生は続かない。野生動物だけではなく、人間側の行動と負担も変える必要がある。

軽井沢が「行動」、兵庫が「空間」、スロベニアが「制度」。
異なる地域の実践から見えてくるのは、管理の対象は動物だけではなく、人と動物の関係そのものだという共通点である。
神主である私が、この三つの事例から連想したのは、神社の鳥居だった。
鳥居は神域と日常を分ける。しかし壁ではない。人は通ることができ、そのとき一礼し、振る舞いを改める。
境界は、相手を排除する線ではなく、関わり方を変えるためのしるしにもなる。
里山もそうだったのだろう。
人が草を刈り、畑を耕し、薪を集める営みは、単なる資源利用ではなかった。森と暮らしの距離を保つ、日々の手入れでもあった。
それが途絶えたとき、消えたのは人手だけではない。
誰が、どこを、どのように維持するのかという約束も薄れていった。
野生動物対策は、捕獲するか、保護するかの二択になりがちだ。しかし三つの事例が示したのは、そのどちらかを選ぶだけでは足りないということだった。
私が探究する三元論の視点では、第三の選択肢は妥協点ではない。対立を生んでいる問いそのものを変えることだ。
「介入するか、放置するか」ではなく、
「互いが生きられる境界を、誰がどう手入れするか」。
その問いに変われば、対策は捕獲頭数だけの議論から、草刈り、誘引物管理、情報共有、費用負担、行政と住民の役割分担へと広がる。
経営学でいうガバナンスも、ここにある。
森林を利用する企業も、森林面積や植林本数だけを成果とするのではなく、地域の管理体制や維持費用まで含めて考える必要がある。関係が持続する仕組みをつくらなければ、森林の価値も維持できないからだ。

森が増えたという数字だけで、自然との共生は測れない。
問うべきは森の面積だけでなく、その森と人がどのような関係を結んでいるかだ。
共生とは、距離をなくすことではない。互いが生きられる距離を、絶えず手入れし続けることなのではないだろうか。
あなたの地域や組織で、「介入するか、任せるか」という二択に陥っている問題はないだろうか。
両者の「あいだ」にある関係を設計し直すと、どんな第三の選択肢が見えるだろうか。
(株式会社WSense 代表取締役 / DELTA SENSE 製作委員会 青木 和洋)