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株式会社四門代表取締役CEOの宝土大亮氏

「林業のボトルネックは『権利処理』にある」 ― 補償コンサルタント・四門が挑む、林地集約化と「境界デザイン」の未来【ここがターニングポイントだった】340

Updated by 『森林循環経済』編集部 on August 25, 2026, 11:10 AM JST

『森林循環経済』編集部

Forestcircularity-editor

プラチナ森林産業イニシアティブが推進する「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の実現を目指します。森林資源のフル活用による脱炭素・経済安全保障強化・地方創生に向け、バイオマス化学の推進、まちの木造化・木質化の実現、林業の革新を後押しするアイデアや取り組みを発信します。

近年、森林所有者の高齢化や不在村化、相続未登記などを背景に、所有者の特定や境界の明確化が難しくなるケースが全国で増えている。2019年に施行された森林経営管理制度により、市町村が森林所有者の意向を確認し、必要に応じて経営管理権を集積する仕組みが整えられたが、現場のマンパワー不足や手続きの煩雑さから、遅々として進まないのが実態だ。
この課題に対し、総合補償コンサルタントの株式会社四門ではトップの肝いりで新規事業が立ち上がった。同社代表取締役CEOの宝土大亮氏に、林業領域への参入のターニングポイント、山林所有者との合意形成の哲学、リモートセンシングやAIも活用した「境界デザイン」、そして新たな「森林区画整理」構想まで詳しく聞いた。

なぜ補償コンサルタントが「林業」なのか

四門は1972年の創業以来、半世紀にわたり公共事業に伴う用地取得や損失補償の専門家として実績を築いてきた。林業の領域へ本格参入したきっかけは、2021年に林野庁から受託した実証業務だった。森林経営管理法に基づき、市町村が森林所有者に対して経営管理の委託意向を確認する「意向調査」や「所有者探索」を行う。立木など現地調査から地権者への戸別訪問、合意取得までをパッケージで完結できる事業者として四門が受託。この業務に携わったとき、宝土氏に強烈な直感が走ったという。

「日本の森林集約化が進まなかった最大のボトルネックは、林業技術の不足ではなく権利処理にあると痛感しました。それなら、我々が公共事業で培ってきたノウハウを、そのまま生かせるはずです」

四門が取り組む「境界デザイン」(出典:四門)

林業の世界には、所有者を追跡し、境界を確定させ、一人ひとりから合意を粘り強く取得していくプロセスを専門にするプレイヤーがほとんど存在しなかった。

「私たちは『私権と公共の利益の調整役』として、財産権の保護とインフラ整備の狭間で人の感情に向き合い、権利を解きほぐすノウハウを50年間培ってきました。この新規事業は、売上規模こそ全体の100分の1程度ですが、私自身の気持ちのリソースとしては95%を割いています。誰もやりたがらない難しい事業だからこそ、自ら現場へ足を運び、挑戦し続けているのです」

「パンドラの箱」を開ける覚悟と、対話の哲学

自治体が意向調査を実施して森林所有者と接触すると、その後の具体的な対応を期待される。しかし、個別対話や合意形成を支援するコンサルタントは少なく、その後の対応やトラブルへの懸念から、調査に踏み出すことをためらうケースもある。

「私たちの世界では、地権者へのアプローチを『パンドラの箱を開ける』と言います。一度開けたら後戻りはできません。中途半端にアンケートを送り、そのまま放置すれば、住民側は『自分たちの財産をどうするつもりだ』と不信感を募らせてしまいますからね」

意向調査を実施した後も、森林所有者との個別対話や合意形成へつなげるには、専門的な実務ノウハウが必要になる。

「ボタンを1個掛け違えて不信感を生み出すと、信頼回復に10年、20年を費やすことになります。『信用がすべて』というのは、我々が骨の髄まで叩き込まれている原則です」

補償コンサルタントは、大きく「アプレイザー(評価を行う調査員)」と「ネゴシエーター(交渉人)」に分かれ、それぞれ適性が全く異なる。特に地権者との対話や交渉においては、相手の感情に寄り添い、落としどころを探る高度なコミュニケーションが求められる。

森林所有者との対話と合意形成を進める説明会のイメージ(宝土氏の体験談をもとに生成AIで作成)

「交渉において『正直に正論を言えばいい』というわけではありません。かつて補償金交渉で、『金額は変わりません』と事実だけを伝えて激怒されたことがあります。相手は数字だけでなく、こちらの誠意や納得のいく説明を求めていたのです」

ここで問われるのは、条件を正確に伝えるだけでなく、地権者が納得して決断できるプロセスをつくる力だ。例えば、相続人が多数に及ぶ場合には、誰から話を始めるかも成否を左右する。親族内のキーマンを見極めずに接触すれば、感情的なもつれから合意形成が難しくなることもある。こうした人間関係を含めて調整することに、四門が伴走する意義がある。宝土氏自身も、これまで多くの失敗を経験してきた。

「それはもう、怒られ続けた30年です(笑)。高齢の地権者の方から最終合意をいただき、捺印してもらう際、手が震えていらしたので、良かれと思って『代わりに捺印しましょうか』と手を差し伸べたことがありました。すると『最後の仕事を、お前が取る気か!』と激怒し帰ってしまいました。土地を手放すという重大な決意の重みを、私が無遠慮に奪ってしまったのです。その後、上司に同行してもらい謝罪に行きました。こうした失敗から逃げずに、誠実に相手に向き合ってこそ信頼関係が生まれるのです」

先端技術と対話で合意形成を進める「境界デザイン」

現在、四門では、衛星や航空機、ドローンなどで撮影した画像を用いて遠隔地から地表の地形や植生を観測する「リモートセンシング」データを、山林の境界確認に活用している。このアプローチのベースにあるのが、同社が公共事業の最前線で培ってきた高度な技術力だ。なかでも、UAV(ドローン)レーザーやモバイルレーザースキャナー等で取得した高密度な3次元点群データを活用するリモート境界確認の取り組みは、国土交通省の河川境界確定業務において「インフラDXの優良工事」として表彰されるなど、極めて高い評価を得てきた。

リモートセンシングデータの種類(出典:四門)
3次元点群データと境界線を重ね、樹木等をフィルタリングした状態(出典:四門)

四門は、この河川用地業務で確立した「ハイブリッド式リモート境界確認システム」を、現在は山林の集約化や境界明確化の現場へと展開している。このシステムは、測量技術者が急峻で危険な崖地を回るリスクを減らし安全性を向上させるだけでなく、高齢化などで「もう自分の山には登れない」という地権者にとっても大きな恩恵をもたらす。3Dデータと過去の歴史的資料を重ね合わせた画面を集会場などで一緒に見ながら、山に入らずとも安全かつビジュアルで納得して境界合意に進める、まさにデジタルと対話を融合した「ハイブリッド」な仕組みなのだ。

データや動画を使い、境界の現状を所有者に伝える(写真提供:四門)

土地の境界には、所有者同士の合意によって定める「所有権界」と、土地が登記された際に定められ、当事者の合意だけでは変更できない「筆界」がある。

「私たちの世界では、『筆界は神様が決めるもの』と言われます。人間が勝手にお互いの合意だけで動かしていいものではなく、元来定まっている公的な線なのです。AIやデジタル技術が境界を自動的に確定してくれるわけではありません。データを積み重ね、地権者同士の合意につなげる必要があります」

これまでの林業における境界確定は、「上物(木)」の範囲を定める所有権界の合意だけで済ませる曖昧な運用が多かった。しかし今、森林を管理・収益化可能な資産として捉え、金融機関や投資家などの参入を促す動きが進む中では、木の所有範囲だけでなく、土地の筆界や登記との関係まで整理する必要性が高まっている。

「そこは地道な資料の突き合わせと、法務局との丁寧な『下準備』が必要になります。ただ図面を持参するのではなく、必要となる根拠について事前に法務局へ相談に行くのです。過去の資料や地形から推測した境界線について、登記手続き上必要となる資料や根拠を確認します。その上で、地権者に対して『この線には合理的な根拠があります』と交渉に臨みます。この下準備があってこそ、境界確認を円滑に登記手続きへつなげられます」

複雑なデータから一本の境界線を導き出す作業は、本来、ベテランの「職人芸(センス)」に依存していた。四門は、その再現性を持たせるため、膨大なデータから境界線を予測する「AIフォレストデザイン」のシステム開発にパートナー企業と共同で着手している。

行政と地権者をつなぐコーディネート

林地集約化を進めるには、発注者である自治体に寄り添いながら、森林所有者との対話や合意形成を丁寧に進める必要がある。四門は行政と地権者の間に入り、所有者探索や境界確認、意向確認などの実務を支援するとともに、事業全体をコーディネートする役割を担っている。さらに、境界確認だけでなく、最終的な木材利用や地域経済の循環まで見据えた「トータルプランニング(出口戦略)」が重要になる。

宝土氏によれば、かつては国土交通省をはじめとする行政側にも、用地取得一筋でキャリアを重ねる「用地職人」のようなスペシャリストが存在し、事業全体の段取りを描いていたという。しかし、そうしたベテランが第一線を退き、近年は総務部門や用地部門を数年ごとに循環する人事ローテーションが一般的になった。その結果、行政の現場では「用地取得の全体設計を描ける人材」が極めて少なくなり大きな課題になっているという。行政発注も、意向調査や境界確認などのパーツごとに分かれることが多い。全体の段取りを描く用地マネジメントの専門家が不在のまま、次の施業や木材利用につながらない事態も生じている。

「私たちは自治体に対し、『トータルパッケージで発注してほしい』と働きかけています。私たちが伴走し、木材の収益計画や経済還元までを見据えた出口戦略を実行します。放置された森林を地域の持続可能な資産へと転換するには、こうしたトータルサポートが不可欠です」

個別案件の限界から、「森林区画整理」の構想へ

どれほど優れた技術や対話スキルがあっても、民法に基づく私法上の権利調整として個別案件を一つずつ処理していくのには時間的・コスト的な限界がある。そこで四門が社内外の関係者とともに協議を進めているのが、「森林区画整理事業」の制度化だ。

「森林区画整理事業」の提案概要(出典:プラチナ構想ネットワーク)

これは都市部で乱雑な土地を整理してインフラや街区を整える「土地区画整理法」のように、境界も所有者もバラバラになって機能不全に陥った森林を、公的なスキームのもとで一括して区画整理し、所有権や利用権をきれいに再配置して集約化する構想である。現在、産官学の関係者で構成するプラチナ構想ネットワークのプラチナ森林産業イニシアティブのワーキンググループで制度設計を進め、関係機関への提案を目指している。

「これまでの林業の仕組みに、私たちの本業である『土地区画整理』や『都市計画』の設計思想を組み合わせ、国の制度そのものをアップデートします」

技術の前に「品格」を磨く。次世代へのバトンタッチ

所有者探索や境界確認、合意形成を一貫して担うには、法律、測量、交渉を横断する知識と経験が必要になる。制度や技術を整えるだけでなく、それらを現場で運用できる人材をどう育てるかも重要な課題だ。四門は「採用した若者を一から徹底的に教育し、プロに育てる」という方針を貫く。その教育プラットフォームとして、一般社団法人を介してオンラインで学習できる「補償塾」を設立。2023年12月にサービスを開始して以来、累計登録ユーザー数は約1000人に上り、業界全体の底上げに貢献している。

「災害復旧やインフラ整備に四門の技術が直結していることを説明すると、『自分もその一翼を担いたい』と入社してくる優秀な若者が大勢います。新入社員の最初の社長講話では、まず仕事の意義を伝えます。『君たちがやるのは単なる事務処理や測量ではない。財産権と公共の利益を調整する、この上なく崇高な仕事だ。プロとしてのプライドを持ちなさい』と。技術の前に、プロとしての心構えや品格を磨くことが最も重要です」

最近の若者たちと接する中で、宝土氏は彼らが抱く強い「使命感」も感じているという。

「森林の課題は、林業だけの課題ではありません。これは国土の問題であり、日本に暮らす全員の問題なのです。だからこそ、私たちのような異分野のプレイヤーも入っていかなければ解決できません。次世代に森林をつなぐというのは、単に木を枯らさずに残すことではありません。管理・運用し続けられるだけの『権利基盤』、持続可能な『経済基盤』、そしてインフラを支え続ける『人材の基盤』をしっかりと残していくことです。それこそが、私たちがこの国のために果たすべき、最大の社会的使命であると確信しています」

【企業情報】
商号:株式会社 四門(しもん)
本社所在地:東京都千代田区神田三崎町2-4-1 TUG-Iビル
設立:1974年4月(創業1972年12月1日)
資本金: 30,000,000円
代表取締役最高経営責任者:宝土 大亮
従業員数: 111名
事業内容:総合補償コンサルタント、森林経営管理支援、境界デザイン事業、開発コンサルタント等
公式サイト:https://www.simmon.co.jp/

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(企画・制作協力:株式会社 四門)

森林循環経済インタビュー特集『ここがターニングポイントだった』

森林循環経済の実装に取り組む企業・団体を取材し、事業やプロジェクトの転機となった出来事や判断、制度、技術、連携のあり方を掘り下げるインタビュー特集です。企業・団体にとって、何がターニングポイントだったのか。地域循環、木質バイオマス、脱炭素、自然資本などの業界文脈と接続しながら、その知見を政策・産業の意思決定層へ届けます。

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