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再造林のカギとなる「カラマツ1年育苗」を確立 ウッドカンパニーニチナンの「第二の創業」【日南町・森林循環の現場:3】345

Updated by 『森林循環経済』編集部 on September 04, 2026, 5:50 PM JST

『森林循環経済』編集部

Forestcircularity-editor

プラチナ森林産業イニシアティブが推進する「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の実現を目指します。森林資源のフル活用による脱炭素・経済安全保障強化・地方創生に向け、バイオマス化学の推進、まちの木造化・木質化の実現、林業の革新を後押しするアイデアや取り組みを発信します。

※前回の記事はこちら
470人が住民出資した木材工場は、いかに黒字化したのか  LVL工場オロチ、経営改革の20年【日南町・森林循環の現場:2】

栽培棟に一歩足を踏み入れると、可動式の栽培台「ムービングベンチ」の上に、カラマツの幼苗が整然と並び、差し込む太陽の光を浴びていた。廃校となった小学校などを活用した「日南町樹木育苗センター」は、再造林を苗木生産の面から支え、日南の森を次の50年へつなぐ拠点だ。約20万本の苗を栽培し年間約12〜13万本を出荷する施設を運営するウッドカンパニーニチナンは、なぜ製材会社から未経験の育苗事業へ転換したのか。西日本では珍しいカラマツを選び、日南の気候に適した独自の「1年育苗技術」を確立した「第二の創業」と、苗木を山主の実質負担なく山へ還す地域の経済循環をレポートする。

地域の森のために決断した「育苗への転換」

同社は1993年、地域の山主や日南町などの出資による、半官半民の製材会社として設立された。出資比率は、日南町森林組合が49.9%、日南町が21.4%、地域の山主らその他が28.7%となっている。隣接するプレカット工場や地元の建築会社と連携し、原木の伐採から製材までを手がける一貫体制を強みに成長を続けてきた。しかし、木材産業を取り巻く構造変化、特に工業化された合板や集成材などの台頭と外材との競争激化の波は、地方の製材工場に深刻な打撃を与えた。同社もその例外ではなく、2019年には製材事業の休業を余儀なくされた。

「当時の製材工場としての使命は終えざるを得なかったが、地域への責任をどう果たすべきか、葛藤し続けました」と、同社の秋末光司社長は振り返る。

ウッドカンパニーニチナンの秋末社長。日南町樹木育苗センターでは、ムービングベンチを導入し、大量の苗木を少人数で管理できる体制を整えている。

転機となったのが、日南町が2017年度から取り組んだ国の「林業成長産業化地域創出モデル事業」である。町全体の林業再生を目指すこの一大プロジェクトにおいて、再造林のための「苗木の地域内自給体制の構築」が主要プロジェクトの一つに据えられた。出資者であり、長年原木を供給してくれた地元の山主たちに報い、日南の森を未来へ繋ぐため、同社はこのモデル事業と歩調を合わせる形で、「苗木を育てる」業態転換を決断したのである。

モデル事業の最終年度にあたる2021年、林業種苗法に基づく生産事業者登録を行い、同社の「第二の創業」が静かにスタートした。旧阿毘縁小学校の体育館はコンテナ容器や培土の保管倉庫へと生まれ変わり、旧幼稚園舎は事務所へと再生された。

カラマツを選んだ理由は強度と省力化

業態転換にあたり、補助金を活用し、総事業費約1億3000万円を投じて量産型コンテナ苗生産ハウスを整備した。しかし、製材会社としての歴史しか持たない同社にとって、育苗は未知の領域であった。

そもそも、スギやヒノキが主流の西日本において、なぜ北海道や東北などで広く植林されてきた「カラマツ(唐松)」が主な育苗の対象に選ばれたのか。そこには、構造用材としての競争力向上と林業現場の省力化を狙う、日南町独自の経営判断があった。

最大の狙いは、木材としての「強度の高さ」にある。カラマツは構造用材として高い強度性能が期待でき、地元のLVL(単板積層材)工場などからも「国産材で構造用として通用する高強度の木が欲しい」という要望があったことから、育苗樹種として選ばれた。

日南町樹木育苗センターは、旧阿毘縁小学校・幼稚園の施設を活用し、地域林業の再生拠点として稼働している

さらに、過酷な林業現場を支える実務上のメリットも大きい。カラマツは植栽初期の成長が早く、日南町では、スギで5回程度行ってきた下刈りを2~3回程度まで減らせると見込んでいる。深刻な人手不足に悩む現場にとって、この省力化は再造林コストの低減にもつながる。さらに日南町では、スギで50年程度としてきた植栽から主伐までの期間を、カラマツでは40年程度に短縮することを想定しており、山主の資金回収サイクルを早められる経済的利点も期待されている。

西日本の山林で、町を挙げてカラマツの育苗や再造林に本格挑戦している地域は極めて珍しい。しかし、市場ニーズと高齢化する現場の合理化、森林の世代交代サイクルを総合的に見据えた上で、同社はあえてカラマツという戦略樹種に賭けたのである。

外部技術を日南仕様へ 「カラマツ1年育苗」の確立

立ち上げ当初は、コンテナ苗生産の実績を持つ住友林業から技術指導を受け、そのノウハウを学んだ。しかし、他地域で成功したマニュアルや標準的な仕様をそのまま適用するだけでは、一筋縄ではいかなかった。日南町は中国山地特有の厳しい寒暖差があり、井戸水は非常に冷たいため、カラマツの発芽や成長を安定させることができなかったのだ。

そこから現場スタッフによる観察と、地域に適応させるための独自の試行錯誤が始まった。例えば、さまざまな栽培土や肥料を取り寄せ栽培試験を行ったり、夏の高温時に対応するためにさまざまな栽培方法を試すなどノウハウを蓄積していった。

「工業製品を作るようにはいきません。苗は常に成長していますし、一定数は必ず枯れてしまいます。できるだけいい環境で光を当てて、丈夫な苗をどうしたら作れるかという『戦い』です」と秋末社長は言う。

こうした泥臭い試行錯誤を重ねることで、同社は、日南町の気候条件に合わせ、従来は複数年を要していたカラマツ苗を1年で出荷可能なサイズまで育てる技術を確立した。鳥取県内の出荷基準である「樹高30cm以上、地際径3.5mm以上」という、活着率が高く頑丈な高品質苗を安定的に育てる体制を整えたのである。

日南町樹木育苗センターの栽培棟では、環境モニタリングシステムで栽培データを見える化し温度や湿度を管理している。

育苗センター内を歩くと、「カラマツ1年育苗」を支えるさまざまな設備が目に入る。種子選別機は、赤外線を用いて種子に含まれる脂質の充実度を非破壊で測定し、発芽率の低い種をあらかじめ取り除くことで、発芽率をおおむね2倍にできる。90%近くまで向上させたこともあった。また、エクセルトレイに精密に種をまく半自動播種機や、温度・湿度を自動管理する発芽庫を整備。栽培棟のムービングベンチは1ベンチあたり30コンテナ・苗木1,200本:約340kg。1列あたり10ベンチ、苗木12,000本(総重量約3.4トン)もの苗木を、1人でスライド移動・管理できる仕組みとなっており、省力化と労働環境の改善につなげている。

同センターでは現在、外部企業との新たな育苗技術の実証にも取り組んでいる。その代表例が、大林組が推進する森林資源の持続的な循環型ビジネスモデル「Circular Timber Construction(R)」の社会実装に向けた共同実証である。

2024年6月には、大林組が開発した「ハイブリッド型苗木生産システム」のパイロットプラントがセンター内に設置され、年間約1万本のカラマツ苗木生産に向けた共同の取り組みが始まった。外部環境の影響を受けやすい最初の2カ月間を、環境制御された人工光施設で育成し、その後は自然光による露地栽培へ切り替える仕組みだ。全期間を人工光で育てる場合と比べてコストを約6分の1に抑え、育苗期間を最短6カ月に短縮できるという。

日南町樹木育苗センター内のパイロットプラントで、人工光を用いて育成されるカラマツ苗(出典:大林組)

同年12月には、このシステムで育てたカラマツ苗290本を初出荷した。自然光のみ、人工光のみで育てた比較対象の苗を含む計490本が、日南町森林組合の協力により、町内の皆伐地約3.2ヘクタールに植栽された。

現在、施設全体の栽培能力は年間18万〜20万本規模に達するが、成長のタイミングや出荷時期の偏りなどから、実際の年間出荷量は12万〜13万本程度となっている。大半はカラマツだが少花粉スギも生産している。外部から技術を学びながらも、日南町特有の寒暖差や水温などの生育条件を見極め、現場の知恵で「技術の自立」を果たしたことこそが、同社の誇りである。

年間12万~13万本を出荷 町内の苗木需要の8割を支える

そもそも、同社が「裸苗」ではなく、土が付いたまま容器ごと育てる「コンテナ苗」にこだわったのには、単位面積当たりの生産性の向上、高齢化する現場の負担軽減と平準化を狙う実務上の意義がある。コンテナ苗は、裸苗に比べて植栽可能な条件を広げやすい。植栽作業に専門的な技術を必要とせず、作業の平準化や担い手の安定雇用につなげられる利点がある。

日南町内で森林組合が管理・関与して皆伐施業を行う民有林は、年間約60ヘクタールに及ぶ。1ヘクタール当たり約2500本を植栽すると、町内で年間に必要となる苗木は約15万本になる。同センターの年間出荷量12万~13万本は、その8割程度に相当する。皆伐後に必要となる苗木の大部分を、町内で生産した苗で賄える規模である。

日南町樹木育苗センターで育ったカラマツの苗木

2026年秋からの改定単価260円で計算すると、年間12万~13万本の出荷による売上規模は約3120万~3380万円となる。約1億3000万円を要した育苗センターの整備には、国、県、町の補助金が活用された。

この地域の苗木生産を需要面から下支えしているのが、J-クレジット販売収入を含む地域の林業財源である。

第1回でも紹介したように、山主の自己負担を実質ゼロにする、日南町ならではの重層的な支援パッケージを財政面から裏で支えるのが、国の「森林環境譲与税(毎年約1億500万円)」と、地方銀行(山陰合同銀行・鳥取銀行)などが仲介して民間企業へ販売する「J-クレジット販売収入(年約1000万円)」を合わせた、年間約1億1500万円規模の林業財源である。町の担当課では、間伐や再造林への支援などに充てるため、毎年6000万円程度を森林整備に予算配分する必要があると考えている。皆伐再造林を支える町独自の補助も、この森林整備予算の中で実施されている。

日南町J-クレジット販売状況(出典:日南町)

日南町森林組合の木村組合長は、山主が再造林への投資をためらう全国的な現状を念頭に、この「実質負担ゼロ」の意義をこう語る。

「本来、苗木の生産や再造林には高額な初期費用がかかるため、木を伐っただけで植え戻さない放置林が全国的に増えてしまう。だからこそ、行政の補助金や、森林組合が独自に積み立てている基金から保育経費を支援し、所有者の負担を極限までなくす仕組みを作りました。山主に実質負担ゼロで再造林ができる環境を整えることこそが、循環のピースを確実に繋ぐカギなのです」

こうした支援制度と、J-クレジット販売収入を含む地域の林業財源によって、ウッドカンパニーニチナンが育てた苗木は皆伐後の山へと還されている。

「伐って、使って、植えて、育てる」循環を次の世代へ

一方、再造林を支えるJ-クレジットには新たな課題も生じている。現在登録されているプロジェクトでは、8年間で累計2万9350tの純吸収量を見込んでいる。しかし、今後、森林経営計画の更新に伴ってプロジェクトを変更すると、主伐による排出量の算入が増え、純吸収量は減少する見込みだ。人工林の約6割を45〜65年生の利用期の森林が占める日南町にとって、主伐再造林を進めながらクレジットをどう確保するかが課題となっている。

また、日南町森林組合では、苗木のもととなるカラマツ種子の地域内での安定確保にも取り組んでいる。2023~2027年度の5カ年でカラマツの特定母樹1070本を植栽し、約2.5ヘクタールの採種園を整備している。苗木を地域で育てるだけでなく、そのもととなる種子の確保まで地域内で担う体制づくりが進んでいる。

皆伐後の山に植えられた苗木を見守る日南町森林組合の木村組合長

皆伐後の山で、木村組合長が見つめる先には、新たに植えられた苗木が並んでいた。ここからまた、次の森林を育てる時間が始まる。

原木を地域で受け止め、木材として加工して使い、伐った跡地には再び苗木を植える。日南町の現場では、それぞれの事業者が役割を担いながら、森林資源を次の世代へつなぐ仕組みが築かれていた。その循環の「植える」を支えるのが、ウッドカンパニーニチナンの「第二の創業」で始まった苗木生産だ。「伐って、使って、植えて、育てる」。日南町が目指す次の50年の森林循環は、皆伐後の山に植えられた一本一本の苗木から、再び始まっている。

※参考サイト
ウッドカンパニーニチナン
林業/日南町
人工光と自然光のハイブリッド型苗木生産システムによるカラマツの苗木生産を開始 | 大林組

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