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[The Priest’s View] Transforming Corporate Green Spaces into Business Assets through the Time Perspective of "Nakaima" (The Eternal Present): Natural Capital Management in the TNFD Era, Viewed from the Perspective of Sacred Groves
Updated by 青木和洋 on July 30, 2026, 8:20 PM JST
Kazuhiro AOKI
株式会社WSense 代表取締役 / DELTA SENSE 製作委員会
株式会社WSense 代表取締役 / DELTA SENSE 製作委員会 福島県会津若松市出身。華道/茶道/能楽を嗜む家柄で、幼い頃から日本文化に触れて来ました。木に興味を持ち始めたのは、宮大工の「カンナ削り」を目撃して業の奥深さに気付かされた時から。現在は神主として得た知見を基に公益に繋がる取り組みを推進中。東京青年会議所所属 / 大学院卒、MBA(経営学修士)取得 / 4歳の頃からボーイスカウトとサッカーも両立中。DELTA SENSE 公式HP 株式会社WSense
※前回のコラムはこちら
【神主の目線】企業緑地の価値はどう伝えるべきか ― 鎮守の森から考えるTNFD時代の自然資本経営
前回のコラムで論じた「アジール(中立・自由領域)としての企業緑地」という定性的な価値を、どのようにして具体的な経営戦略やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の開示フレームワークに落とし込めばよいのだろうか。ここでは、「中今(なかいま)」という神道の概念を用いて、企業が明日から実践すべき3つの具体的なアクション(ルール設計)を提示する。
第一に、維持コストの概念を「中今」の時間軸で劇的に転換することである。 「中今」とは単なる現在を指すのではなく、「過去から未来へ連なる時間の真ん中としての今」という深い時間感覚である 。森林や緑地の育成には30年〜50年単位という長い時間が必要であり、植える人とその成果を享受する人が異なる「当事者不在」の状況に陥りやすい 。消費者が過去の丁寧な手入れを「当然の供給」と見なし、現在の収益が未来へ還元されない結果、時間の鎖が切れてしまう 。時間が分断されると、手入れは単なる「コスト」に、価値は「価格」にしか見えなくなり、放置が合理化されてしまう 。
現在の豊かな緑地は、過去の先人たちがコストと手間をかけて維持してくれた賜物であり、我々はそれを未来へ引き継ぐ責任がある。これをコーポレートファイナンスの視点で捉え直すならば、緑地の維持管理費を「当期のコスト」として捉えるのではなく、未来の組織基盤と社会関係資本を構築するための「投資的支出」として最初から織り込むことである 。「中今」を精神論や我慢の正当化として使うのではなく、時間差を吸収するための「還流ルール」や「継続財源」の仕組みを作るための動機づけとして活用し 、短期的な業績変動に左右されない持続可能な自然資本投資を制度化するのだ。
第二に、定性情報の「指標化(KPI)」への挑戦である。TNFDの開示において、賢明な投資家が真に求めているのは「どれだけの面積を保護したか」という量的データだけではない。その自然資本が、自社の事業レジリエンスや従業員のウェルビーイングにどう貢献しているかという「ナラティブ(物語)」である。
例えば、OECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)として認定された自社の緑地を舞台として、部門横断の対話型プログラムや幹部合宿を実施する。そして、そこで生まれた新規事業のアイデア数や、部門間連携の増加率、従業員の心理的安全性のスコア推移などを「非財務KPI」として設定する。自然資本を「組織の気枯れを祓う装置」として能動的に活用し、その成果を人的資本経営の指標と連動させるのである。これにより、自然資本と人的資本が交差する独自の価値創造ストーリーが開示資料に深く刻まれる。
第三に、地域コミュニティとの「産霊(むすひ)」の経済学の実践である。 企業緑地を高いフェンスで囲い込み自社だけで独占するのではなく、地域社会に開放し、多様なステークホルダーが交わる境界として機能させる。前回コラムで述べたNECや竹中工務店、清水建設などの事例のように、地域のNPOや行政と連携して保全活動を共創することは、企業と地域社会の間に極めて強固な信頼を構築する 。これは、万が一の危機や不祥事において企業を守る強靭な防波堤となる。この関係性の構築こそが、神道でいう「産霊(むすひ=新しい価値を生み出す力)」の現代的実践であり、サステナビリティ経営の本質である。

森林循環や自然環境の保全の議論は、往々にして「経済成長か環境保全か」「利益か公益か」といった単純な二項対立に陥りがちである 。しかし、日本の「鎮守の森」が千年以上存在し続けてきた事実は、その二つが決して対立するものではなく、不可分なものとして高度に調和し得ることを我々に証明している。
企業緑地がOECMとして認定されることは、決してゴールではない。それは、自社の経営哲学(何を価値とし、何を捨てるか)と美学(その価値をどう貫くか)を根底から問い直すためのスタートラインである。自然の持つ「見えない価値」を畏れ、それを自社の事業活動や組織風土にいかに翻訳し、ルールとして実装していくか。そこに、不確実性の極みにあるTNFD時代を生き抜くための、圧倒的で本質的な差別化要因が潜んでいる。
【今月の問い】
あなたの組織が所有・関与している「自然(緑地や森)」は、サステナビリティ報告書を飾るための単なる面積の数字になっていませんか?
短期的な利益追求によって未来への責任が分断されることなく、組織の「気枯れ」を祓い、次なるイノベーションを生み出す「アジール(鎮守の森)」として機能させるために、明日から変えるべき「前提」は何でしょうか。
(株式会社WSense 代表取締役 / DELTA SENSE 製作委員会 青木 和洋)